はじめに
2021年、日本のヒップホップシーンに衝撃的なデビューを果たしたラッパーがいる。福岡を拠点とする若手ラッパーDADA(ダダ)だ。彼のファーストアルバム『Yours』に収録された「High School Dropout」は、TikTokを中心にバイラルヒットし、一躍その名を全国に知らしめることとなった。
DADAという存在
DADAは1999年生まれ。幼少期、父親は「一般人ではなかった」という。金回りの良い家庭で育ち、欲しいものは何でも買ってもらえる環境にいたが、小学3年生の頃に父親が突然蒸発。泣き続ける母親を見たDADAは、それ以来自分を表に出すことが少なくなったという。
中学3年生の頃からヒップホップを意識して聴き始め、AAPRockyを好んでいた。街で「全身刺青だらけの日本人が真ん中に大きく映ってるフライヤー」を見かけたことをきっかけにKOHHを知り、「日本語なのにAAP Rockyを好んでいた。街で「全身刺青だらけの日本人が真ん中に大きく映ってるフライヤー」を見かけたことをきっかけにKOHHを知り、「日本語なのにA APRockyを好んでいた。街で「全身刺青だらけの日本人が真ん中に大きく映ってるフライヤー」を見かけたことをきっかけにKOHHを知り、「日本語なのにAAP Rockyと同じやん!」と衝撃を受ける。15歳でラップを始めたDADAは、小・中学校以来の友人らとクルー「NokeyBoyz」を結成した。
クルーの名前は彼らの地元である野芥(のけ)に由来している。家庭の事情でDADAは高校を中退することになり、後にその経験をもとに「High School Dropout」の歌詞を書いた。
「High School Dropout」に込められた物語
この楽曲は、単なるヒップホップトラックではない。DADAの生い立ち、複雑な家庭環境、そして自身が背負った責任を赤裸々に綴った自伝的作品だ。
DADAは高校を辞めた理由について「家にお金が必要みたいな状況になって」と語っている。その状況でも音楽はやっていたという。その時からすでに音楽でやっていきたいと思っていたのだ。
楽曲のタイトルが示す通り、これは高校中退者の物語だ。しかしそれは単なる挫折の物語ではない。家族を守るため、弟たちを養うために自ら働くことを選んだ若者の、痛切な決意の物語でもある。
歌詞の中では、母親への想い、不在の父親への呼びかけ、そして自分自身の葛藤が生々しく表現されている。「愛見えないから身体に描いた」というフレーズは、DADAの体に刻まれた「愛」の文字のタトゥーを指しており、目に見えない愛情を自らの肉体に刻印することで確かめようとした彼の心情が表れている。
ミュージックビデオの衝撃
「High School Dropout」のミュージックビデオは、映像制作チームDexfilmzが制作を手がけた。この映像の魅力も相まってバイラルヒットし、TikTokを中心に拡散され、DADAの名を一躍有名にした。
映像では、Pumaのセットアップに身を包んだDADAが、福岡の街を背景にラップする姿が映し出される。その佇まいには、若さゆえの脆さと、人生の荒波に揉まれた者だけが持つ強さが同居している。
アルバム『Yours』というステートメント
2021年にリリースされた『Yours』は、エモーショナルな雰囲気でDADAの今までの経験、育ってきた環境、そして現状をリアルに表現した作品となっている。全8曲、約25分という短い尺の中に、DADAの全てが詰め込まれている。
レコーディングからマスタリングまで、自身で作品のプロデュースを全て手掛けたこのアルバムは、地元福岡のクルーNokeyBoyzのメンバーであるAZUとQINCEをフィーチャリングに迎えている。
同時期にリリースされたもう一枚のアルバム『Mine』では、UKドリルの影響を受けたアグレッシブなサウンドを披露し、DADAの多面性を示している。
NokeyBoyzという絆
NokeyBoyzは普通に地元の友達で、遊びの延長で始まったという。メンバーはみんな幼馴染で、小・中から一緒だった。主要メンバーはラッパーでいうとDADAとAZU、Qince、Kirathesavior、Yawnの5人。15歳のときにAZUと一緒に始めた。
DADAの弟の一人は太郎忍者として活動している。太郎忍者は2018年に楽曲「Pussy」をバイラルヒットさせた。兄弟でラッパーという構図は、日本のヒップホップシーンでも珍しい。
音楽性とスタイル
DADAは複雑な家庭環境や生い立ちを赤裸々に、クールかつエモーショナルなラップで聴かせる。『Yours』ではアコースティックなサウンドを巧みに生かしたトラックの上で自身の心情を表現する一方で、『Mine』ではシカゴやイギリス直系の刺激的なドリルビートを乗りこなしながらアグレッシブなラップを披露し、底知れないポテンシャルを強く印象付けた。
DADAはフリースタイルをかなりするという。弟のラッパーと一緒に住んでいる後輩ラッパーの3人で、朝方4時くらいから夜まで、ずっとフリースタイルをしていたこともあった。前の日から寝ていないのに、フリースタイル以外で喋らないで、ビートを流してずっと続けていた。
ファッションとアイデンティティ
DADAの特徴的な外見も彼の音楽と切り離せない要素だ。体に刻まれた「愛」の文字のタトゥー、ストリートファッションに身を包んだ姿は、彼のアイデンティティそのものを表現している。
PumaやA BATHING APE、PLAY Comme des Garcons、さらにはPRADAやCELINEといったハイブランドまで、幅広いブランドを着こなすDADAのファッションセンスは、2000年代初期のヒップホップスタイルを彷彿とさせる。
DADAという名前の由来はいくつかある。母親から誕生日プレゼントで貰ったケーキに書かれた「れんたパパ」からインスピレーションを得た説、芸術活動の「ダダイズム」をその時調べていてインスパイアを受けた説、そして「だだ」は赤ちゃん言葉でみんなが自分の名前を呼ぶときに赤ちゃんになるのも面白そうと感じたという説がある。
現在のDADAと未来への展望
2021年のデビュー以降、DADAは着実にキャリアを積み重ねている。2022年にはアルバム『Changes』をリリース、2023年にはWatsonを客演に迎えた楽曲「Satsutaba」を発表。2024年には「Midnight Drive」や「Echoes of You」などの楽曲を立て続けにリリースし、TikTokでも使用されるなど、SNSでも話題となっている。
2024年にはBAD HOPの解散アルバムにも客演として参加し、「Fam*ly」でTiji JojoやLEXと共演を果たしている。
KOHHとの関係も深く、KOHHの福岡のツアーの際にはステージに呼ばれて一緒にフリースタイルをした。KOHHはDADAという名前をすごく褒めてくれて、何回も「DADA、DADA」と名前を呼んでくれたという。
おわりに – リアルを生きる者の声
「High School Dropout」は、日本のヒップホップシーンにおいて重要な作品だ。それは単なるヒット曲ではなく、地方都市で生きる若者のリアルな声を届けた、時代の証言でもある。
高校を中退せざるを得なかった若者が、音楽を通じて自分の物語を語る。それは決して美化されたサクセスストーリーではなく、痛みや葛藤を抱えたままの、生々しい現実の記録だ。
DADAの体に刻まれた「愛」の文字は、目に見えない愛情を自らの肉体に刻印することで確かめようとした彼の切実な想いの表れだ。父親の不在、母親への想い、弟たちへの責任感、そして音楽への情熱。それら全てが「High School Dropout」という楽曲に結晶化している。
福岡・野芥から全国へ。DADAの声は、同じような境遇にいる若者たちに勇気を与え続けている。「High School Dropout」は、挫折や苦難を乗り越えて自分の道を切り開こうとする全ての人への、力強いメッセージなのだ。



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