KOWICHI, Candee, SATORU, ERASER, Merry Delo & ZOT on the WAVE「SELF MADE CYPHER」

JAPANESE

曲の背景:SELF MADEレーベル誕生の証

2020年末に最新アルバム『Higher』をリリースし、自身のレーベル「SELF MADE」を発足させた川崎市出身のラッパー・KOWICHIが、Candee、SATORU、ERASER、Merry Deloの4名の気鋭MCを集め、豪華なサイファー映像「SELF MADE CYPHER」を公開した。この曲は単なるコラボレーション楽曲ではなく、KOWICHIが新たな章を刻む宣言文とも言えるものだ。ビートはKOWICHIの盟友であるZOT on the WAVEが手がけており、重厚かつ波乗りするようなウェーヴィーなトラックが、各MCの個性を最大限に引き出している。

KOWICHIはレーベル立ち上げについて、「若手や新人をフックアップして、自分の仕切りの、自分のレーベルでやりたいという気持ちがずっとあった」と語っている。その言葉どおり、この曲に参加しているCandee、SATORU、ERASER、Merry Deloはいずれも当時のシーンで注目を集めていた若手・実力派MCたちであり、KOWICHIが自らの目でピックアップした存在たちだ。


KOWICHIとはどんなアーティストか

KOWICHIは神奈川県川崎市出身。幼少期からヒップホップやR&Bに親しみ、高校時代にラップを始め、地元のクラブイベントでのパフォーマンスを通じて頭角を現した。2010年代初頭にはラッパーのD.u.gと2MCデュオ「enmaku」を結成し、2012年にはソロデビューアルバム『THE CHIPS』をリリースし、ソロアーティストとしての活動を本格化させた。2020年12月、自身のレーベル「Self Made」を設立し、アルバム『Self Made 2』をリリースした。

本名「片倉こういち」からMCネーム「KOWICHI」が取られており、トレンドを取り入れた聞き心地の良いフローと、若者から大人まで響くリリックでシーンを騒がせてきたラッパーだ。左腕には自身で立ち上げた「SELF MADE」のタトゥーが入っており、自分で決めた音楽の道で生きていくという強い覚悟が感じ取れる。


各バースの読み解き

Candee(1番手)

トップバッターを務めるCandeeは、韓国にルーツを持つMCだ。「日本語しか話せないのに韓国語のパスポート」というラインが示すように、アイデンティティの複雑さを逆手に取り、自己表現の武器にしている。「去年Drop out 1人きりの俺拾ったKOWICHI」というラインからは、KOWICHI自身が彼をシーンへ引き上げた恩義への言及が感じられ、SELF MADEというファミリーの絆が垣間見える。「俺はDragon 空を飛んで火吹きかけるMicrophone それかDraco 装填した言葉で撃ち抜くその心臓」というリリックは、マイクをドラゴンの息吹と銃(Draco)に見立てた二重の比喩で、彼のラップに対する攻撃的な姿勢を示す。「CASIOからROLEXにする為に24時間止まらない」という部分は、下積みを終えて成功へと駆け上がるという野心の表明だ。言葉の壁を超えたいという思いも滲み出ており、マルチカルチャーな背景を持つCandeeならではの視点が光る。

SATORU(2番手)

SATORUのバースは一転して、リアルでシリアスなストリートの世界を描いている。「生まれた時から家は貧乏」という出だしから、裕福ではない環境で育った自身の生い立ちが綴られる。「低所得者 悪い外人が住む近所 目出し帽と革手で叩く金庫」という描写は、まさにストリートの現実を映したものであり、取り繕いのない言葉の強さが際立つ。「お茶だけ飲み喋らない困った刑事 調書に2文字 黙秘 歌ったステージ」というラインは、過去に警察に取り調べを受けた際に黙秘を貫いたことを、そのままステージで歌い上げるという逆説的な表現が鋭い。SATORUのバースはいわゆるギャングスタ・ラップの系譜に位置し、その経験の重さがリリックにそのまま乗り移っている。

ERASER(3番手)

ERASERは一変してラグジュアリーな生活と享楽的な雰囲気を描く。「リッツカールトン 荷物運ぶベルボーイ 口にあうぜA5 食後のチェーンスモーク」という描写は、高級ホテルでの日常を余裕たっぷりに描いたものだ。「踏んでるアクセル いれるガソリンはハイオク」というラインは、エンジン全開で人生を走るという比喩として機能している。「金のかかる遊び方 使った分は稼がなきゃな 全て奪いにきたぜ 俺と仲間 6番星まで光るスター」というくだりは、チームの結束力と野心を表しており、SELF MADEというグループへの帰属意識が感じられる。

Merry Delo(4番手)

Merry Deloは加古川出身のラッパーとして、KOWICHIが以前から注目し、フックアップしてきた若手だ。 Mikiki「加古川から川崎渡り 風吹かし もらう称号おれこそがfreshman」というラインは、地元の加古川からKOWICHIの地元・川崎に乗り込んできた自分自身を「新入生(freshman)」として宣言したもので、謙虚さの中に強い自信が込められている。「0から作り増やすお金」という言葉はSELF MADEというコンセプトそのものであり、「俺を誘うなら怪我する気で来なよ」という挑発的なラインは、彼の若さと勢いを象徴する。「遊び方海賊 like a ルフィ」というアニメ『ONE PIECE』のルフィへの言及は、仲間と共に頂点を目指すという精神性への共鳴だろう。

KOWICHI(トリ)

最後を締めくくるのは、もちろんKOWICHI自身だ。「甘くない人生はピリ辛のインド料理 上がり下がり変わるまるでビットコイン」というオープニングは、浮き沈みの激しいラッパー人生を食べ物と仮想通貨に喩えた洒落たライン。「昔の年収より収めてる税金」というリリックは、成功の証を税金という具体的な数字で示す、KOWICHIらしいリアルな表現だ。「所持してる曲全部 営利目的 転がす株式会社SELF MADE I’m a boss」という部分では、音楽を純粋な芸術ではなくビジネスとして捉え、それを誇りにするマインドが示される。「しがらみよりダイヤモンドできつい首元」という締めのラインは、過去のしがらみや人間関係の柵よりも、自分の成功の象徴であるダイヤモンドのチェーンを選ぶという宣言であり、レーベル独立後の覚悟を凝縮したものだ。


ZOT on the WAVEのビートと全体のグルーヴ

この曲を語る上で欠かせないのが、ビートメイカーであるZOT on the WAVEの存在だ。KOWICHIとZOT on the WAVEは「Self Made」や「On the Wave」など数多くの楽曲で長年にわたり共作を続けてきた、切っても切れない関係にある。今回のサイファービートも、陰鬱な低音を基調としながらも、どこかメロウな浮遊感を持つZOT on the WAVE独自のサウンドが全編を支配しており、5人のMCがそれぞれ異なるスタイルで乗れる懐の深さを持っている。


「SELF MADE」というコンセプトが示すもの

「Self Made」という言葉は「叩き上げ」を意味する。誰かに作ってもらったのではなく、自分の力で築き上げた——そのマインドセットがこの曲全体の底流を流れている。Candeeは「ドロップアウトから拾われ、自分でのし上がる」物語を語り、SATORUは「貧しい生まれから這い上がる」リアルを吐露し、Merry Deloは「0から金を作る」と宣言する。そしてKOWICHIはレーベルを「会社名義」として経営するボスとして君臨する。それぞれの角度から「SELF MADE」というテーマに迫っており、サイファーとしての統一感と多様性が見事に共存した一曲だ。

コメント

タイトルとURLをコピーしました