楽曲の基本情報
川崎出身のラッパー・KOWICHIが「Rockstar feat. JP THE WAVY, T-Pablow」をリリースしたのは2021年8月25日のこと。この曲は2020年12月にリリースされたアルバム『Higher』への追加収録という形で発表され、同アルバムのデラックス版として9曲が新たに加えられた。
作詞はKOWICHI、JP THE WAVY、T-Pablowの3名が共同で手がけ、ビートはZOT on the WAVEとdubby bunnyのプロデュースによるものだ。ゆったりとしたウェーヴィーなトラックは聴く者を浮遊感で包み込み、タイトルが示す「ロックスター」というキャラクターをまさに音で体現したような仕上がりとなっている。
ミュージックビデオの世界観
この曲に合わせて制作されたミュージックビデオは、雨の夜に誰もいない遊園地を舞台にした幻想的な映像だ。主人公は紫のスーツに身を包んだジョーカーのようなキャラクターで、ギターを弾いたり、マイケル・ジャクソンのダンスを披露したり、帽子から花を取り出したりしてデートを楽しもうとする。KOWICHIはメリーゴーランドの前に停められたクラシックなオープンカー・キャデラックの前でラップを披露し、JP THE WAVYはブランコの乗り物の前でバースを展開、T-Pablowは遊園地の通路エリアで自分のパートを映し出す。
雨がネオンの光に反射する映像は、「ロックスター」というテーマにこれ以上ないほどふさわしい演出だ。ポップでノスタルジックな遊園地という空間に3人のラッパーを配置することで、現実とファンタジーの境界線を曖昧にした、まるで夢の中にいるような感覚を生み出している。
楽曲のコンセプト──「弾けないのに、俺はロックスター」
この曲の核心にあるのは、「ロックスター」というアイデンティティを、従来の定義から解放するという発想だ。サビのフックは「ギターも弾けないのに 英語も話せないよSorry」という自己申告から始まる。通常、ロックスターといえばギターを弾き、英語で歌い、ステージを縦横無尽に駆け回るイメージがある。しかしこの曲の3人は、そういった「ロックスターの条件」をあえて否定した上で、それでも「君の彼氏はRockstar」と堂々と宣言する。
これは単なるユーモアではなく、日本語ラップが世界に対して発するある種の宣言文でもある。英語が話せなくても、ギターが弾けなくても、ラップで世界を揺さぶることができる——そんなメッセージが、軽やかなフローの中に確かに埋め込まれている。
各バースの読み解き
KOWICHIのバース
KOWICHIはトップバッターとして、ウェーヴィーなビートに自らのライフスタイルと哲学を乗せる。「飛ばないようにつかまりな 俺は空飛ぶジェットコースター」というラインは、スリルと刺激に満ちた自分という存在を、遊園地のジェットコースターに見立てた、ミュージックビデオの舞台設定と完璧にリンクした比喩だ。「ぶっ壊す下らねぇ常識には落とすぜ爆弾を」という部分からは、型にはまることを良しとしない、反骨のマインドが滲み出る。「イカれたメロディ 楽譜も読めないのに まもれないABC 飛ばして気付けばZ」というラインも、型通りの順序を無視してトップに躍り出るというスキップの論理を表しており、巧みだ。
JP THE WAVYのバース
JP THE WAVYは、恋愛とライフスタイルを軽やかに絡めながら自分のキャラクターを全開にする。「ギターも弾けないのに 英語喋れないけど 世界中でBallin’」という出だしは、サビのコンセプトをそのまま引き継いだ流れで、語呂が良く耳に残る。「金なら全部君に使う All in Baby I’ma fuck your mind」というラインは、相手への惜しみない投資を宣言した愛情表現だ。「Colaの瓶みたいなbody line このまま抜け出してもバレない We like Bonnie and Clyde」という部分では、映画的なロマンスの比喩も飛び出し、WAVYらしいポップさと色気が同居している。「運命なら良いかもね(多分)空まで飛んでくだけ(Balloon)」というエンディングも、夢見心地の浮遊感を演出しており、ビートの雰囲気と完璧に合致している。
T-Pablowのバース
T-Pablowは川崎ストリートの色を帯びつつも、この曲では夢とサクセスの物語を中心に据えたバースを展開する。「夢見てたぜロックスターのように 富裕層すらも目を引くshopping いつでも付けてるjewelryが貯金」というラインは、ジュエリーそのものが将来への積み立てだという逆説的な自信を示している。「ギターとか弾けないけど 引かれてるlineならお尻」という遊び心たっぷりのライムは、この曲のユーモアセンスの象徴だ。「お前のパパはロックスター暴れる 娘を連れて海沿い海外移住」という部分では、ロックスターとしての成功を家族への恩恵として語るリリシストとしての側面も見せる。そして「ZOTの波に乗る友達とKOWICHI Wavy」という締めのラインは、この曲のキャスト全員とプロデューサーへのリスペクトを込めたシャウトアウトになっており、チームの絆を感じさせる。
参加アーティストについて
JP THE WAVY
JP THE WAVYというラッパー名は「JP=日本」に「WAVY」を組み合わせて付けられた。「WAVY」には「かっこいい・地元平塚の海の波・クセ毛(髪型の特徴)」の3つの意味が込められている。
中学生の頃にダンサーとして活動を始め、次第にラッパーの道を志すようになったJP THE WAVYは、2017年に発表した「Cho Wavy De Gomenne」がバイラルヒット。SALUをフィーチャリングしたリミックスのYouTube再生回数は2000万回を超えた。2020年4月にファーストアルバム「LIFE IS WAVY」をリリース。2021年には「ワイルド・スピード/ジェットブレイク」のサウンドトラックにアジア人として唯一抜擢されるなど、その活躍は加速の一途をたどっている。
新ジャンルな音楽性とハイセンスなファッションで国内外から注目を集めるラッパーで、これまでにAwich、OZworld、BAD HOPなどの国内アーティストをはじめ、世界各国のトップアーティストとも共演を果たしている。KOWICHIとは同じ神奈川という地域的な繋がりもあり、今回の共演はごく自然な流れとも言える。
T-Pablow
T-PablowはKOWICHIと古くからの仕事仲間でもあり、「Day Ones feat. T-Pablow & DJ TY-KOH」や「Dirty Force One feat. T-Pablow & Tiji Jojo」など、KOWICHIとの共演楽曲は数多い。川崎出身のクルー・BAD HOPの中核メンバーとして、その圧倒的なリリカルスキルとフロウでシーンに君臨し続ける存在だ。BAD HOPが日本のヒップホップシーンを席巻した時代においても常に最前線に立ち続けたT-Pablowが、KOWICHIの「Rockstar」という楽曲に参加することは、川崎というストリートが持つ底力を象徴している。
ビートメイカー:ZOT on the WAVE × dubby bunny
今回のビートはZOT on the WAVEにdubby bunnyが加わったダブルプロデュースという形を取っている。ZOT on the WAVEはKOWICHIの楽曲にとって長年の相棒的存在であり、ウェーヴィーで浮遊感のあるトラックを生み出すことにかけては右に出る者がいないビートメイカーだ。そこにdubby bunnyの色が加わることで、よりドリーミーでポップな方向性が生まれ、「Rockstar」という楽曲のテーマにぴったり合致した音の世界が完成している。
この曲が持つ意味
「Rockstar」は、KOWICHIが自身のレーベルSELF MADEを立ち上げた後の新章において、より広いリスナー層へのアプローチを試みた楽曲と言える。SELF MADE CYPHERがレーベル内の結束を示した作品であるとすれば、こちらはJP THE WAVYやT-Pablowという外部の強力なアーティストを迎え、神奈川ヒップホップの横断的なケミストリーを提示した一曲だ。
ギターも弾けない、英語も話せない——それでも朝昼晩ロックスター。この逆説的な宣言は、スキルや血統ではなく、マインドセットと情熱こそが「ロックスター」を定義するという強いメッセージを持っている。KOWICHIが積み上げてきたキャリア、JP THE WAVYが世界に向けて放つ波、T-Pablowがストリートから這い上がってきた軌跡——3人の異なるバックグラウンドが一つのビートの上で交差したとき、「Rockstar」という言葉は最も豊かな意味を帯びる。


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