ヒップホップという音楽ジャンルには、怒りや誇り、ストリートへの愛着、仲間への忠誠心など、さまざまな感情が刻まれてきた。しかし名古屋が誇るベテランラッパー・Mr.OZが残したこの一曲は、そのどれとも少し毛色が違う。未来の自分へ向けて書かれた「手紙」というコンセプトのもと、荒削りなリリックの中に人間としての誠実さと温かさが同居した、唯一無二の作品だ。今回はこの「The letter send on later」という楽曲を深く掘り下げながら、Mr.OZというアーティストの魅力を改めて伝えたいと思う。
「The letter send on later」の背景
この楽曲は、Mr.OZとEL LATINOによるアルバム『ALBUM』に収録されている。作詞はMR.OZ本人、作曲はL’S STORYが担当。ニコニコ動画への投稿は2008年4月であることから、制作は2007年末から2008年にかけてと思われる。
曲は非常に個人的な語りかけから始まる。
「2007年12月28日 冬 俺は32の誕生日を迎えた 2033年同日 俺が親父と同じ年になる日 届けさせてくれないか」
この冒頭のたった数行が、曲のすべてを語っている。32歳の誕生日を迎えたMr.OZが、26年後の2033年――つまり自分が亡き父と同い年になる日――の自分自身に向けて、音楽という形で手紙を書いたのだ。タイトルの「The letter send on later(後で届く手紙)」という言葉がそのままコンセプトになっており、これほど直球でロマンチックな発想がギャングスタ・ラッパーから飛び出すとは、初めて聴いたときに思わず息を呑んだ人も多いはずだ。
歌詞に込められた「夢」と「誓い」
歌詞の中でMr.OZは、32歳の自分が58歳の自分に問いかける形で、夢や希望、不安、そして誓いを次々と言葉にしていく。
「今お前は何をしてんだ? お前の声だ覚えてるか? 幸せにやれてればいいが まさか悪さなんかはしてねぇよな 嫁やガキは居るのか? 仲間達は元気か? 誰か一人位くそやべぇ事 なってんじゃねぇか?」
未来の自分への問いかけは、仲間や家族の安否から始まり、夢の行方へと続く。「タイトルは何枚を越えた?」という一節では、アルバムを何枚リリースできたのかを問う。ラッパーとしての野心が、飾らない言葉でそのまま出てきているのだ。
さらに続く「まだ会社はここにあるのか? ガネーシャやイベント衣食は? 映画はもう撮れたのか もしや名馬のオーナーとは行かねぇか」というフレーズには、当時の彼がBIGG MAC WORKSという会社を経営しながら、映画制作や競馬といった夢まで胸に抱いていたことが生々しく伝わってくる。ラッパーとしての夢だけでなく、実業家・表現者としての野心も詰め込まれた一節だ。
そして「手痛い事になってようが 絶対に俺は後悔しない 誓っとくぜ未来の俺にな お前が俺で俺がお前だ」と続く。たとえ失敗しても後悔しない、という宣言を、26年後の自分への誓いとして刻む。この「お前が俺で俺がお前だ」というフレーズは、過去と未来が地続きであること、今この瞬間の自分の生き方が全てだということを端的に示している。
父を知らない男が、父親になることを想う
この曲が単なる「未来への手紙ソング」で終わらない理由は、終盤にある。歌詞の後半で、語りかける相手は未来の子供たちへとシフトしていく。
「俺にガキが居るなら 家庭を持ってるなら 俺がもし居ないなら この曲は意外かな? 最低の親かもな」
さらに「漢字 英語 ひらがな 教えたりもしたかな? 親父を知らないから どうやるか見物だな この曲を聴かせたら どんな顔をするかな?」と続く。父親を知らないまま育ったMr.OZ自身の過去が、ここで静かに滲み出る。どうやって父親をやればいいかわからない、でもちゃんとやりたい、という不器用な愛情が、飾らない言葉で綴られているのだ。そして最後に「何したって構わない お前は俺の子 ただ 仲間達は泣かすな 母さんの事だけは頼むな」という言葉で締めくくられる。
ギャングスタラッパーが子供に残す言葉として、これ以上誠実なものはないと思う。「何したって構わない、お前は俺の子」という無条件の肯定と、「仲間と母さんだけは大切に」という父としての願い。その二つだけで十分だ、と言わんばかりのシンプルさが胸に刺さる。
この曲が持つ普遍性
ヒップホップのリリックとして見ると、「The letter send on later」には珍しいほどの「柔らかさ」がある。ギャングスタ・ラップをルーツに持ち、低音で圧倒するマイクパフォーマンスで知られるMr.OZが、まるでタイムカプセルに手紙を入れるように、夢、仲間、家族、生き方への誓いを真剣に綴っている。アーティストとしての野心と、一人の人間としての繊細さが、珍しい形で共存した楽曲だ。
2007年に32歳だったMr.OZは、曲の中で「2033年に届けてくれ」と言った。その2033年まで、あと7年を切っている。当時描いた夢がどれほど現実になったのか、仲間はみんな元気でいるのか、子供は生まれたのか。そんなことを考えながら聴くと、この曲はまた違う味わいを持つ。
「The letter send on later」は、名古屋のストリートシーンを生きてきた一人の男の、飾らない人間ドラマだ。あなたが20代であっても、40代であっても、きっとこの手紙の温かさは届くはずだ。未来の自分に何を届けたいか。この曲を聴きながら、少しだけ立ち止まって考えてみてほしい。



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