KOWICHI「10年前」── 2015年の自分への、10年越しの返答

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2025年、KOWICHIがシングル「10年前」をリリースした。プロデュースを手がけたのは、IFEの「ワルイコ」で大きなバズを生み出した新鋭ビートメイカーのMill1。しかしこの曲の本当の意味を理解するためには、まず2015年にさかのぼる必要がある。

2015年、KOWICHIはアルバム『SheCRET』に収録された「10年後」という曲を世に送り出した。その曲は、当時の自分から10年後の自分へ宛てた手紙のような楽曲だった。「俺は10年前のお前 / 笑えてないのなら俺のせい」という言葉で始まるそのリリックには、まだ二階建て庭付きのマイホームも夢のまた夢で、FLY BOY RECORDSがどうなっているかもわからず、川崎がシーンを代表できるかも不確かだった頃の、若いKOWICHIの切実な問いかけが詰まっていた。家族を守れているか、仲間と走り続けられているか、ラップで食えているか。「犬のアイが生きてるなら、寂しい思いさせてるから、なるべく一緒にいてやってくれよ」という一節まであった。それはラッパーとしての野望と、一人の人間としての不安が正直に入り混じった、素顔の告白だった。

あれから10年が経った。2025年、KOWICHIはその問いについに答えた。それが「10年前」だ。

「10年前」は、2015年リリースの「10年後」へ真正面から応えるセルフアンサー楽曲であり、不安や葛藤、仲間と家族への感謝を赤裸々に綴ったリアルなリリックで過去と現在をつなぐ作品となっている。

楽曲のフックとなるラインがまず心を捉える。「夜も眠れない 不安で仕方ない それだけは変わらない / 金なんかじゃ埋まらなかった心の中は / 10年前と同じくらい / 家族や仲間から学ぶ事ばっかりのMy Life」。成功を手にしても、名前が広まっても、心の底にある不安は消えていない。10年前と変わらず、夜は眠れない。そのことを隠さずに語るのがKOWICHIという男だ。ここに、この曲の核心がある。「成長した俺を見てくれ」という武勇伝ではなく、「変わらない部分もある」という正直さ。それがリスナーの心に深く刺さる。

リリックの中には、10年という時間が確かに流れたことを示すエピソードが散りばめられている。「Rest in peace 親父と犬のアイ」というライン。2015年の「10年後」では、犬のアイはまだ生きており、「寂しい思いさせてるから一緒にいてやってくれよ」と未来の自分に頼んでいた。しかし今、そのアイも、父親も、もういない。10年という時間はそういうものだ。大切なものが増える一方で、失うものも増える。KOWICHIはそれを美化せず、ただ「Rest in peace」という言葉に込めた。

「ライブの日に旅立ったばぁちゃんに / とても見せられない物ばっかで / 膨らんでたポケットの中」というラインも重い。ライブをやっているその日に、祖母が逝った。そしてポケットに入っていたものは、「とても見せられないもの」だった。ストリートで生きてきた若い頃の自分の姿を、祖母に見られなくてよかったのか、それとも見せられなかったことへの後ろめたさなのか、リスナーに委ねるような余白がある。

「裏切ってばっか そんな自分に気づいた時には遅かった」。誰を、何を裏切ったのかは語られない。しかしその一行で、10年間がただの上昇軌道ではなかったことがわかる。成功の陰に、後悔と自己嫌悪の時間があった。それを正直に認める勇気こそが、KOWICHIのリリックの強さだ。

そして「キャデラックの後部座席 スヤスヤ俺に似たベイビー」。2015年、まだ家族を持てるかどうかも不安だったKOWICHIが、今は自分に似た子を持ち、その子がシートで眠っている。この一行に、10年分の人生が静かに詰まっている。派手な成功の語り方ではなく、ただそこにいる子の寝顔を描写するだけで、何よりも雄弁に時間の経過を伝えてくる。

「マジでFxxkだったぜ だって腹違いの家族 / 俺の人生変えてくれてありがとう」というラインは、KOWICHIの家庭環境への言及だ。複雑な家族関係がありながら、それすらも今の自分を作った一部として受け入れ、感謝の言葉を送れるようになった。それもまた10年という時間が与えてくれた視点だろう。

「3シリーズのBMでドヤってた3下 / 散々な日も書いたぜLyric / 3度のメシよりも女好き / でもどんなTightなPussyより入れ込んでたMusic」。かつての自分のチャラさとラップへの執着を、ユーモアを交えて振り返る。KOWICHIらしい正直な自画像だ。女よりも音楽にのめり込んでいた、その一点だけは10年前も今も変わらない核心として響く。

「去年の今頃あの夜に / 初めて口にした『もう無理』」というライン。10年以上ラップを続けてきたKOWICHIが、ある夜初めて「もう無理」と口にした。それがいつのことで、何に対してだったのかは明かされない。しかしそのリアルな脆さを隠さずに曲に落とし込んでいること自体が、この「10年前」という楽曲の誠実さを証明している。

「同じ日なんか1日もない / 今もフレッシュなルーキーだから / 夜も眠れない」。10年のキャリアを積んでも、まだ自分をルーキーと呼ぶ。それは謙遜でも売り文句でもなく、毎日が更新される緊張感の中に立ち続けているということだ。眠れない夜は10年前と変わらない。ただしその不安の質は、確実に変わっているはずだ。守るべき家族ができた分、失えないものが増えた。その重みが、同じ「眠れない夜」にも違う色を加えている。

プロデュースを担当したMill1は、IFEの「ワルイコ」を手がけた新鋭ビートメイカーだ。そのトラックは、KOWICHIの内省的なリリックを引き立てる温かみと深みを持ち、10年という時間のメランコリーをさりげなく包んでいる。派手さより誠実さを選んだトラック選びも、この曲の方向性と完全に一致している。

「10年後」から「10年前」へ。2015年の自分が2025年の自分に問いかけ、2025年の自分が2015年の自分を振り返る。その往復の中に、一人のラッパーの10年分の生活と感情が詰まっている。川崎から出てきたKOWICHIが、夢見た未来を生きながら、それでもまだ眠れない夜を過ごしているということ。それが何よりもリアルで、何よりも美しいヒップホップの物語だと思う。

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