「O FIVE TWO」という数字の意味
「O FIVE TWO」とは、名古屋市の市外局番「052」を英語読みにしたものだ。電話番号の先頭にある「052」というその三桁の数字が、名古屋のヒップホップコミュニティにとっては「自分たちの地元」を表す固有名詞として機能してきた。東京のラッパーが「213」や「462」といった市外局番をフッドの象徴として用いるUS文化の慣習を、そのまま名古屋のリアルに落とし込んだ表現だ。
「O FIVE TWO」は、Mr.OZが名古屋052シーンの誕生から2000年代半ばに至るまでの歴史を、年代を追いながら緻密に刻んだ楽曲だ。特定の一瞬や感情を歌うのではなく、仲間たちと積み上げてきた時間の全体を記録する──そういう意図で書かれた曲であることが、歌詞を読めば明らかに伝わってくる。
楽曲の構造── 年代記としての一曲
歌詞は「Dedicated to the 052 / I’m Educate for the 052 / Grow in up to the 052 / I’m born in the 052」というフックで始まり、「O FIVE TWO」という地への献辞、教育、成長、誕生という4つの動詞が繰り返される。それはMr.OZにとっての052が、単なる出身地ではなく、自分を育てた揺りかごそのものであることを示している。
歌詞は1994年からスタートし、「様々な原石が火花散らし輝いた ’94」「CUEがGANXTAならば俺はMr.だ」という一節でPhobia of Thugの結成前夜が語られる。そして「’95から先、名に冠が」──グループとしてのアイデンティティが固まり始めた時期だ。「東西の対立?溝を開けた現実 Phobiaだけは道を違わずと誓う夏」──東西抗争が日本のシーンにも影を落としていた時代に、自分たちは自分たちの道を誓った、と刻む。
続いて「MURDERが幕を開けた ’98」──1998年のシーンの盛り上がりが語られ、「M.O.S.A.D.、M.O.A and Phobia of Thug / POUNDはhard-core sound / G.T.P.、Calusariが金看板 / 日本中を飛び跳ねた2000年代前半 / どこの街からも仲間達が現れた / 北から南さらに海をまたぎアメリカ」と、シーンが全国規模・国際規模に膨らんでいく様子が続く。
そして「これまでの経験を描きだした2005」「メディアからはSEAMO、NOBODYが溢れ出した」「AKIRAなら今頃はバリで波を満喫だ」「3か月の間スタジオはBALLERS / ‘E’qualの振る舞いが皆に夢を与えた」「ストリートそこで出逢う仲間 / EL LATINO AKはトップ目指」と、052の仲間たちの名前が次々と刻まれていく。
この歌詞は単なる自伝ではなく、名古屋052シーンそのものの「年代記」だ。
Mr.OZ── 名古屋から日本を動かした男
Mr.OZ(ミスター・オージー)は本名・小澤英一、1975年12月生まれ。身長187cm、体重91kg(最大160kgに達したとも)という巨躯のラッパーで、所属はBIGG MAC(ビッグマック)
名古屋で活動するベテラン・ラッパーで、19歳の頃にアイス・キューブを聴いたことがきっかけでラッパーを志した。ギャングスタ・ラップをルーツにした低音のマイク・パフォーマンスで人気を集め、クラブを中心にライヴ活動を展開してきた。 Jplyrics
1993年よりヒップホップアーティストとして活動を始め、2005年には自身の手により会社「BIGG MAC WORKS」を設立。スタジオ、レーベル、クラブ、飲食店等を展開させ、名古屋どころか日本中を巻き込み始めた。 Jplyrics
Mr.OZは「俺が色々動くことでメシを食えるヤツを増やしたい」という思いから、ラッパー活動にとどまらず、全国のヒップホップアーティストのプロモーションビデオの監督、映画監督、TV番組の制作から司会まで、マルチに活動を広げている。 IMDb
コラボレーションの幅も広い。Mr.OZはAK-69、EL LATINO、TOKONA-X、DABO、ANARCHY、”E”qual、DJ MOTO、G.CUE、AKIRA、SHINGO☆西成、CITY-ACEなど、時代を超えた数々のラッパーと共演してきた。
Phobia of Thug── 052の核心
Mr.OZは名古屋出身ラッパーのG.CUE(GANXTA CUE)と、名古屋出身DJのDJ 4-SIDEの3人で、ヒップホップグループ「Phobia of Thug(フォビア・オブ・サグ)」としても活動していた。
DJ MOTOが主宰する「W.C.C.(WEST COAST CONNECTION)」や、G.CUE・Mr.OZ・DJ 4-SIDEの3人組「PHOBIA OF THUG」を中心に、名古屋のハードコアなHIPHOPシーンは最上級に盛り上がっていった。W.C.C.は西海岸のヒップホップスタイルを体現するグループで、現在の主要メンバーはDJ MOTO、G.CUE、Mr.OZ、AK-69、DJ DOPEMAN、DJ OLDE-E、EL LATINOだ。
AK-69は、Phobia of Thugの「Click da Trigger」という曲をクラシックだと賞賛している。 AK-69自身がMr.OZについて語るエピソードも印象的だ。当時17歳だったAK-69は、バイト先の先輩だったG.CUEに誘われて名古屋のクラブに行き、初めて観たヒップホップのライブがPhobia of Thugのライブだった。「めちゃくちゃでかい人と小さいめちゃくちゃ怖い人で、なんじゃこりゃ!?って感じで、絵に描いたような絵図で、Phobia of Thugのカッコ良さに衝撃を受けた」と語っている。また、実際に会ったMr.OZは「めちゃくちゃデブででっかいサングラスかけて、漫画に出てくるような怖いデカイ人っていう印象だった」とも言っている。
052シーンに並走したM.O.S.A.D.とTOKONA-X
「O FIVE TWO」の歌詞に登場するM.O.S.A.D.もまた、052シーンの核にあった存在だ。
M.O.S.A.D.は名古屋”052″を拠点とするヒップホップユニットで、TOKONA-X(2004年に急逝)、”E”qual、AKIRA、DJ FIXERの4人組。ユニット名はM.O.S.(MASTER OF SKILLZ)にA.D.(西暦・紀元の意)をつけたもので、自分たちの世紀を意味している。
M.O.S.A.D.の1stフルアルバム「THE GREAT SENSATION」は2002年にリリースされ、タイトル通りの特大センセーションを巻き起こした。イリーガルやセクシャルなトピックも包み隠さず、生々しいライフスタイルを露骨にリリックとして綴ったのは日本ではM.O.S.A.D.が先駆けだった。
M.O.S.A.D.の「Cold Game」には、Phobia of ThugとKalassy Nikoffが参加しており、歌詞にTOKONA-X、”E”qual、AKIRA、GANXTA CUE、Mr.OZ、Kalassy Nikoffの名前が刻まれている。 「O FIVE TWO」でMr.OZがM.O.S.A.D.の名を刻んだことは、こうした共闘の歴史への自然なリスペクトの表れだ。
SEAMOも自身のウェブサイトで「名古屋と言えばnobodyknows+やHOME MADE家族のイメージがあるかと思いますが、ハードな方面も凄い人が揃ってる。AK-69、今は亡き伝説のTOKONA-X、その相方の”E”qual、Phobia of Thug、その他にもヤバい人達がわんさかいるのがHIPHOPのるつぼ名古屋!それらの人達が複雑に絡み合い、時代を築いてきた」と証言している。
「O FIVE TWO」が伝えるもの
「O FIVE TWO」の最大の特徴は、その圧倒的な「土地への愛着」だ。楽曲の中でMr.OZは「この街を動かす / ガキの戯言が今じゃデカイ夢を生み出す」と言い、「俺の街はそう呼ぶんだ」と宣言する。そして楽曲を締めくくるのは「Big respect 全国の仲間達へ / この街の在り方は今も尚健在だ / いつかまた逢おう」という言葉だ。
これは勝利の宣言でもなく、哀悼の歌でもない。仲間への感謝と、この街への変わらない誇りを、10年以上の歴史とともに刻んだ「生き証人の証言」だ。時代を経て散り散りになっていく仲間たちを、この一曲の中に永遠に閉じ込めておきたいという意志が、曲全体から溢れている。
まとめ
Mr.OZの代表曲には「Baby Girl〜sweet love song〜」「G.U.N.〜Ganxstaz Unuseful Nack〜」「The letter send on later.」「052 LEGEND」などがあるが、「O FIVE TWO」はその中でも特別な位置を占める。
これは名古屋ヒップホップシーンのクロニクルであり、Mr.OZ自身のラッパーとしての原点回帰であり、そして「052」という街で生まれた夢を見続けた男の、一番正直な告白だ。名古屋を知らなくても、自分の地元を誇りに思ったことのある人間なら、この曲の核心は必ず届く。



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