KOWICHI「色メガネ feat. NORIKIYO」── 収監直前に生まれた、神奈川二人の共鳴

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2023年6月9日、KOWICHIが一枚のシングルをデジタルリリースした。タイトルは「色メガネ feat. NORIKIYO」。曲の長さはわずか3分15秒。しかしその短さの中に、日本語ラップシーンの二人の実力者が積み重ねてきたリアルな言葉と、ある種の切迫感が凝縮されている。この曲を語るには、まず二人のラッパーそれぞれの背景を丁寧に紐解いておく必要がある。

KOWICHIは神奈川県川崎市出身のラッパーだ。ヒップホップクルー「enmaku」での活動を経て、2012年に1stアルバム『THE CHIPS』をリリース。そこからソロMCとして本格的にキャリアをスタートさせた。2014年には「Boyfriend#2 (Remix) feat. YOUNG HASTLE, KOHH & DJ TY-KOH」がクラブシーンで火がつき、一躍注目を浴びる存在となった。その後も『SheCRET』(2015年)、『PLAIN』(2016年)、『SPLASH』(2017年)と立て続けにアルバムを発表。特に2017年の『SPLASH』からは「Day Ones feat. T-Pablow & DJ TY-KOH」や「湘南ビタースイート」といったストリートヒットを生み出し、日本語ラップシーンにおける確固たる地位を確立した。また、DJ TY-KOHやYOUNG HASTLEらと自らのレーベル「FLY BOY RECORDS」を立ち上げ、2018年には6thアルバム『VALUE』を発表、同年に恵比寿リキッドルームでのワンマンライブも成功させた。飾り気のないリアルなリリックを武器に、ハードなトラックからメロディアスなミディアムチューンまでを巧みに乗りこなすことができる、数少ないMCの一人だ。

一方のNORIKIYOは、1979年12月12日生まれ、神奈川県相模原市出身のラッパー兼トラックメイカーだ。1999年頃、地元の仲間たちとヒップホップユニット「SD JUNKSTA」を結成し、当初はK-NERO名義でトラックメイカーとして参加していた。その後、2005年にSEEDAとDJ ISSOのミックスCDにゲスト参加したことでシーンに名を知らしめ、2006年にはSEEDAの傑作アルバム『花と雨』に客演。2007年に自身初のソロアルバム『EXIT』をリリースすると、ヒップホップ専門誌「THE SOURCE」の「BEST OF JAPANESE RAP 2007」で第3位、日本語ラップウェブマガジン「COMPASS」の年間最優秀アルバムに選ばれるなど、業界からも高い評価を受けた。その後もコンスタントにアルバムをリリースし続け、2019年にはAKLOとのコラボアルバム『New Drug』も発表。ブルージーな感慨を残すラップと、フローの精度、そしてリリックに込められた言葉の重みで、長年にわたって多くのヘッズを惹きつけてきた実力派だ。

しかしそのNORIKIYOに、2022年8月、大きな試練が訪れる。大麻取締法違反で逮捕されたのだ。本人は裁判でも一貫して黙秘を貫き、営利目的での起訴は証拠不十分として断念されたが、最終的に栽培・所持での実刑判決が下された。2023年6月20日から収監が決まっていたNORIKIYOは、その直前の6月22日に10枚目のアルバム『犯行声明』をリリースし、「本日から3年間に渡る長期取材へ行く事になりました」とInstagramに直筆の文章を残してシーンを去った。

そしてKOWICHIが「色メガネ feat. NORIKIYO」をリリースしたのは、NORIKIYOの収監のわずか11日前、2023年6月9日のことだった。この事実だけで、この曲がどれほど特別な文脈の中で生まれたかが伝わってくる。収監を目前に控えたNORIKIYOが、川崎を拠点とする盟友KOWICHIからの声がけに応じて完成させた楽曲。それがこの「色メガネ」だ。

曲のタイトルである「色メガネ」とは、いわゆる「色眼鏡」のこと。先入観や偏見のフィルターを通して物事を見てしまうことを意味する言葉だ。Amazonのプレビューで確認できる歌詞の断片には、「Babyどこでゲトったのその眼鏡 / 曇りすぎ裸眼なのに / そんな目で / 俺を観ないでくれよBaby / 曇りすぎ磨いた方がいい」というラインが登場する。これはクラブやストリートで出会う女性に向けた言葉として書かれているようでありながら、同時にNORIKIYOが置かれた状況とも強く共鳴する。世間から逮捕犯というレッテルを貼られ、「色眼鏡」で見られる立場になったNORIKIYOが、自分自身のことを語るようにも聞こえるのだ。

KOWICHIがこの時期にNORIKIYOをフィーチャリングに迎えた意味は大きい。神奈川という同じ地元感覚を持ちながら、川崎(KOWICHI)と相模原(NORIKIYO)という異なるフッドで育った二人。ともに日本語ラップシーンにおいて本物のMCとして認められてきた者同士の、信頼と敬意に基づくコラボレーションだ。NORIKIYOにとってこの曲は、収監前の最後の客演の一つとなった。

さらにこの曲には後日談がある。2024年5月10日、KOWICHIのアルバム『STACKIN’ BREAD FROM THE PRISON』(Mixed by DJ DEFLO)に「色メガネ (feat. NORIKIYO) [SBFP ver.]」が収録された。アルバムタイトルの「FROM THE PRISON」という言葉が、服役中のNORIKIYOへの明確な言及であることはファンには一目瞭然だ。KOWICHIはNORIKIYOが刑務所にいる間も、この曲を形を変えて世に送り出し続けた。それはラッパーとしての仁義であり、同時に「俺はお前を忘れていない」というメッセージでもある。

日本語ラップの世界では、客演一つひとつにアーティスト間の関係性と物語が宿る。「色メガネ feat. NORIKIYO」は、3分15秒という短い曲だが、その背景にある文脈まで含めて聴いたとき、単なるクラブチューンを遥かに超えた深みを持つ作品として立ち現れてくる。偏見の目で見るなよ、と語りかけながら、収監直前の男が最後の言葉をマイクに吹き込んだ。そのリアルさこそが、日本語ラップの真骨頂だ。

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