楽曲の基本情報
「SUNSET」は、KOWICHIが2021年8月27日にリリースしたアルバム『Higher(Deluxe)』に収録されたソロトラックで、ビートはZOT on the WAVEとTRILL DYNASTYの共同プロデュースによるものだ。ゲストMCを一切招かず、KOWICHIが一人で歌い切るソロ楽曲であることも、この曲の特別感を際立たせている要素の一つだ。映像監督はShutaShiraki(CrazyBank)が務めた。
『Higher(Deluxe)』は、2020年12月にリリースされたオリジナル版『Higher』に9曲を追加した拡張版であり、「Rockstar feat. JP THE WAVY & T-Pablow」「ジェットコースター feat. Staxx T」と並んで「SUNSET」はその新録曲群の中心に位置する。賑やかなフィーチャリング楽曲が多い中で、「SUNSET」はKOWICHIの内面と感情を最も素直に映し出した一曲と言える。
ビートについて:ZOT on the WAVE × TRILL DYNASTY
今回のビートは、KOWICHIの長年の盟友ZOT on the WAVEに加え、TRILL DYNASTYが参加している。TRILL DYNASTYはLil Durkら海外ラッパーのプロデュース・ワークでも知られるビートメイカーであり、KOWICHIのSELF MADEとの関係も深い。このコラボレーションによって生まれたビートは、ZOT on the WAVEらしいウェーヴィーな浮遊感を残しつつも、どこかメランコリックで映画的な空気をまとっている。まさに夕日が沈んでいくあの時間帯の、言葉では説明しきれない感傷を音で表したような仕上がりだ。
歌詞の世界観:「飛ばなきゃいいのに、明日のフライト」
この曲のテーマは、一言で言えば「逃避行への憧れと、現実に引き戻される切なさ」だ。
歌い出しのサビから、その情景は鮮やかに描き出される。「赤い夕日を見てる君と 飛ばなきゃいいのに明日のフライト 沈んで消える太陽 戻りたくないよ」——これは旅先か、どこか非日常の場所で、好きな人と夕日を眺めているシーンだ。太陽が沈むようにこの時間も終わってしまうことへの抗いたい気持ちと、現実(フライト=帰還)への諦めが、たった数行に凝縮されている。
「今すぐに抜け出そうこんな街 誰にも探せない俺達を 都会の街 居たら見られない」というラインは、日常の喧騒や人の目から逃れ、2人だけの世界に逃げ込みたいという願望だ。有名人として常に注目を浴びる立場のKOWICHIにとって、「誰にも見られない場所」というのは特に切実なリアリティを持つ言葉かもしれない。
「夜になればダイヤなんかより光ってる星 広い空にやられて固まってる俺の隣 居る君も眩しすぎ」——ダイヤモンド、つまり富や成功の象徴よりも、夜空の星の方が美しいと言い切るこのラインは、KOWICHIのリリックにしては珍しいほど素朴で純粋な感情の吐露だ。「マジでどうしようもねぇ もし時間が止まるなら壊すROLEX」という続くラインも秀逸で、ROLEXという高級時計=時間を管理するもの、それをぶち壊してでもこの瞬間にとどまっていたいという衝動を、ラッパーらしいラグジュアリーアイテムとの絡め方で表現している。
2番:都市への違和感と、もう一つの現実
曲の後半では、理想的な逃避の場所から一転して、日常のリアルが描かれる。「RIMOWAの中にの余韻が残る 色あせてない思い出をflow」——旅行帰りのスーツケース(RIMOWA)の中に、まだあの場所の余韻が漂っている。色あせていない思い出をflowとして吐き出すことで、KOWICHIはその感情を楽曲に昇華している。
「きっとあの場所は俺のパラダイス でも現実はいつも儚い」という一節は、この曲の核心だ。夢のような場所はたしかに存在する。でも現実は常に儚く、すぐに消えてしまう。
「目紛しい神奈川東京 ビルで空が見えない今日も しがらんでるあの街角 黒い煙ただよう地元」——ここでは川崎と東京という都市の喧騒と息苦しさが、前半の解放的な風景と対比として描かれる。地元の「黒い煙」という言葉は、そこに漂う澱みや閉塞感を暗示しており、KOWICHIが川崎という出身地を愛しながらも、そこから抜け出したいという矛盾した感情を抱えていることが透けて見える。
「映らない カメラなんかに レンズ越し何も伝わらない」というラインは、インスタグラムやメディアへの鋭い一言だ。カメラやレンズを通して見せられるものには、真実の感情は映らない。本当に大切なものは、デバイスの画面では伝わらない——そういった現代的なテーマへの言及もさりげなく織り込まれている。
そして曲のクライマックスは「お金や名声 そんな事よりも君と2人で」。KOWICHIの楽曲の中で、金や成功よりも「人との時間」を優先すると明言したラインは珍しく、だからこそこの一節はリスナーの胸に強く刺さる。
この曲が持つ位置づけ
SELF MADEレーベル発足後のKOWICHIは、「Rockstar」のような賑やかなコラボ曲や「SELF MADE CYPHER」のようなクルーとしての団結を示す楽曲を多く発表してきた。その中で「SUNSET」は、ボス・ラッパーではなく、一人の人間としてのKOWICHIが顔を出した、稀有な作品だ。
夕日、旅立ち、逃避、そして都市への違和感——これらのモチーフを通じて描かれるのは、成功を手にしてもなお消えない「どこかへ逃げ出したい」という普遍的な感情であり、それがこの曲を多くのリスナーにとってのアンセムたらしめている理由でもある。夕暮れの時間に一人で聴くと、何かが刺さる曲だ。


コメント