はじめに
2025年5月16日にリリースされたAK-69の「START IT AGAIN REMIX feat. YZERR」は、単なるリミックス作品を超えた、12年の時を経て完結した運命的な物語として日本語ラップシーンに衝撃を与えました。この楽曲は、2013年のオリジナル版「START IT AGAIN」と、2024年にBAD HOPがリリースした「SOHO」という2つの楽曲を繋ぐミッシングリンクとして誕生し、HIP HOP誕生の地ニューヨークで偶然すれ違った2人のアーティストの壮大なストーリーを完結させた記念すべき作品です。
楽曲誕生の背景にある運命的なストーリー
2012年のニューヨークでの奇跡的な出会い
この楽曲の物語は2012年のニューヨークから始まります。当時、AK-69はアルバム制作のためニューヨークで武者修行を行っていました。一方、まだ中学生だったYZERRも地元川崎を離れ、同じくニューヨークにいたのです。
BAD HOPのラストアルバムに収録されている「SOHO」の歌詞にある”Superstar”そして”あの曲”とは、同時期にアルバム制作の為にニューヨークにいたAK-69であり、そこで制作した「START IT AGAIN」のことである。
この偶然の出会いは、YZERRにとって人生を変える瞬間となりました。憧れのラッパーを目の前で見た瞬間が、後に彼の音楽キャリアの原動力となったのです。
「SOHO」に込められたメッセージ
2024年にBAD HOPがリリースした「SOHO」では、YZERRが当時の心境を歌詞に込めており、「あの日地元から飛び出した 目の前に憧れた Superstar」「あの曲が俺たちを動かした一度燃え尽きようともこいつの火は消えやしないんだ」という歌詞で、AK-69との運命的な出会いと「START IT AGAIN」への想いを表現しています。
REMIXバージョンの制作経緯
AK-69の決意
数年前にその話を聞いたAK-69は、もし今後REMIXを作る可能性があるならYZERRしかありえないと心に決めていたそうです。AK-69のコメントによると、「俺の中でもとても大事なこの曲をREMIXするとしたらYZERRしかいないと決めていた。もし断られたら誰にも依頼するつもりはなかった」と語っており、この楽曲への特別な想いとYZERRへの深いリスペクトが感じられます。
RIMAZIによるプロデュース
楽曲は2013年にリリースされたAK-69の代表曲「START IT AGAIN」を12年の時を経てYZERRによるREMIXで生まれ変わらせた作品で、プロデュースはRIMAZIが手がけています。
ミュージックビデオの意義
ニューヨークでの撮影
ミュージックビデオは2025年2月にニューヨークで撮影されており、2人の出会いやオリジナルへのオマージュを加えた作品となっています。HIP HOP誕生の地であるニューヨークでの撮影は、この楽曲の物語性をより深く表現する重要な要素となっています。
360 Reality Audio対応
楽曲のミュージックビデオは360 Reality Audio対応版も制作されており、「立体的な音がつくりだす、リアルな空間」としてソニーの360立体音響技術を使った新しい音楽体験を提供しています。
チャート成績と反響
商業的成功
楽曲は各種チャートで好成績を収めており、iTunes Store総合トップソング日本で20位、ヒップホップ/ラップトップソング日本で62位、Apple Music ヒップホップ/ラップトップソング日本で114位を記録しています。
YouTube急上昇ランキング
ミュージックビデオはYouTube急上昇ランキング6位を記録し、2025年5月17日14:30から5月20日11:45まで上位にランクインしました。
アルバム「My G’s -Deluxe Edition-」での位置づけ
新録楽曲としての価値
この楽曲は2025年1月にリリースされたコラボレーションアルバム「My G’s」のDeluxe Editionに新録音源として追加された5曲のうちの1曲です。タイトル通り69小節に想いを詰めた楽曲群の中でも、特に注目度の高い作品として収録されています。
日本語ラップシーンにおける意義
世代を超えた継承
この楽曲は、日本語ラップシーンにおける世代継承の美しいモデルケースとして位置づけられます。AK-69(1978年生まれ)からYZERR(1990年代後半生まれ)への影響の連鎖が、実際の楽曲として結実した例として、シーン全体に大きなインスピレーションを与えています。
ストーリーテリングの秀逸さ
この楽曲とその背景にある物語は、現代のヒップホップにおけるストーリーテリングの新たな可能性を示しました。単発の楽曲ではなく、複数の楽曲と実際の体験を組み合わせた壮大なナラティブとして展開された点は、今後のヒップホップ作品制作においても参考になる事例となるでしょう。
楽曲の技術的特徴
オリジナルとの差別化
REMIXバージョンでは、オリジナルの「START IT AGAIN」の核となるメッセージ性を保ちながら、YZERRの新たなバースが加わることで、楽曲により深い物語性と現代性が付加されています。
プロダクションの進化
RIMAZIによるプロデュースは、12年前のオリジナル版から技術的にも音楽的にも進化を遂げており、現代のヒップホップサウンドに適応した仕上がりとなっています。
ファンからの反響
コメントに見る感動
YouTube上のファンコメントでは「憧れをカタチに変えてコラボして曲だすガッツも凄い」「AKからYZERR、次世代に受け継がれて行く感じが格好良すぎ」「鍵を渡すところこれからのHIPHOPシーンをYZERRに託すそんなメッセージがある」など、楽曲の持つストーリー性と継承の意味に深く感動した声が多数寄せられています。
まとめ
AK-69の「START IT AGAIN REMIX feat. YZERR」は、単なるリミックス楽曲を超えて、12年間にわたって紡がれた壮大な物語の完結編として、日本語ラップ史に新たな1ページを刻んだ作品です。
2012年のニューヨークでの偶然の出会いから始まり、2013年の「START IT AGAIN」、2024年の「SOHO」、そして2025年のこのREMIX版まで、一貫したストーリーが現実と音楽の中で展開された稀有な例として、今後長く語り継がれることでしょう。
この楽曲は、HIP HOPが持つストーリーテリングの力、世代を超えた継承の美しさ、そして偶然が必然に変わる瞬間の魔法を見事に体現した、21世紀の日本語ラップが生み出した傑作の一つと評価されるべき作品です。
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