2026年5月、カリフォルニア州オーシャンサイド出身のラッパー/プロデューサー、Dezzy Hollowがリリースした新曲「IN THE GROOVE」は、西海岸ヒップホップとフィラデルフィア・ソウルという二つの世界を鮮やかに橋渡しする作品だ。フィーチャリングには、The Delfonicsのレガシーを受け継ぐ歌手、Norman Carterが参加している。
この曲を聴いたとき、まず感じるのは「言葉とグルーヴが一体化している」という感覚だ。前作のシングル「TURN US UP」や「BACK IT UP」がエレクトロ・ファンクの領域で展開されていたのに対し、「IN THE GROOVE」ではDezzy Hollowがクラシックなグルーヴの世界に回帰している。その回帰は単なるサウンドの懐古趣味ではなく、歌詞の世界観まるごとを「グルーヴそのもの」に捧げた、一種の宣言のように響く。
タイトル「IN THE GROOVE」という言葉には、複数の意味が重なっている。音楽的には「ノリに乗っている」「完璧なリズムの中にいる」という状態を指す。しかし歌詞の文脈では、それは単なる音楽的な高揚感ではなく、人生の流れの中に身を置き、自分のペースで、自分らしく生きているという実存的な肯定にもなっている。Dezzy Hollowがラップで語るのは、ストリートの現実や日常のリアル、そして仲間との連帯感だ。オーシャンサイドというロサンゼルスとサンディエゴの間に挟まれた街で育ち、ソウル、ファンク、ロックンロールを父親から叩き込まれた彼にとって、グルーヴとは単なるビートではなく、生き方そのものを表す言葉なのだ。
そしてその「生き方」を体現するように登場するのが、Norman Carterによるフックだ。ジャマイカ生まれで、キューバ人の母とパナマ人の父を持ち、ニューヨークのアポロ・シアターで歌のキャリアをスタートさせたNorman Carterは、R&B界でも屈指の純粋なテナー・ボイスの持ち主として知られている。Delfonicsの創設者William Hartに直接指名され、28年以上にわたってそのレガシーを担い続けてきた彼の声は、本曲のフックにおいて圧倒的な存在感を放つ。
「IN THE GROOVE」のフックは、Normanのファルセットが乗ることで、ただの掛け声を超えた祈りの言葉のように聞こえる。彼の声は、The Delfonicsが60年代末から70年代にかけて作り上げた「フィラデルフィア・ソウル」の美学、つまり感情を過剰に絞り出すのではなく、しなやかに、品よく、しかし確実に心に届ける歌の流儀を体現している。その声が、Dezzy Hollowのウエスト・コースト的なタフさと混ざり合うとき、曲の歌詞は単なるラップの言葉以上の奥行きを持ち始める。
この二人のコラボレーションは、実は今回が初めてではない。2025年にリリースされたDezzy HollowのアルバムOCEANSIDEには、「Summer Breeze」というNorman Carterをフィーチャーした楽曲が収録されていた。「Summer Breeze」が夏の陽光とオーシャンサイドの風景を歌詞に織り込んだ曲であったのに対し、「IN THE GROOVE」はより普遍的なテーマ──グルーヴの中に存在するということの喜び──を深く掘り下げている。二人の関係性は一枚の作品を超えて成熟しており、その信頼が歌詞の言葉にも、声の絡み合いにも滲み出ている。
Dezzy Hollowの歌詞のスタイルについて語るとき、DJ Quik、Warren G、DJ Battle Catといった先人たちの系譜を継ぐ太いシンセサイザー、トークボックス、重いドラムという音の構造の上に、等身大のストリートの言葉が乗るという独自の構造がある。彼の言葉は過剰な自慢や暴力の誇示ではなく、どこか生活感のある、地に足のついた視点から紡がれる。「IN THE GROOVE」においても、その視点は一貫している。「俺たちは今、グルーヴの中にいる」──その一言が、言外に「それ以上でも以下でもない、今この瞬間の正直な幸福」を語っているのだ。
プロデュースを担当したのはMOFAKで、ミックス&マスタリングはJRolzが手がけている。ビートの構造はクラシックなG-ファンクのそれを忠実に踏襲しつつも、現代的な音圧と質感を持っている。このサウンドの上で歌詞が語られることで、「過去へのオマージュ」ではなく「過去と現在の等価な対話」が生まれている点が、この曲の最大の強みだ。
ウエスト・コーストのヒップホップ・レジェンドたちが一様にThe Delfonicsをフェイバリットとして挙げてきた歴史がある。Snoop DoggやNate Doggがそのサウンドを愛したように、今のDezzy Hollowもまた、その脈絡の中で自らを位置づけている。しかし「IN THE GROOVE」が単なるリスペクトの表明で終わらないのは、それが現役の声、現役の言葉で語られているからだ。Norman Carterの声は今も生きており、Dezzy Hollowの歌詞は今この瞬間の話をしている。二つの「今」が重なることで、この曲は本物のグルーヴを宿している。
本曲はDezzy Hollowの新アルバム「Eternal Izm」(2026年)に収録される予定の一曲であり、そのタイトルが示す「永遠なるイズム(主義・様式)」という概念と、「IN THE GROOVE」の歌詞が描く「グルーヴの中に永続的に存在すること」は、深いところで呼応している。時代が変わっても、ファンクとソウルの根っこは変わらない。そしてその根っこから育った言葉は、世代を超えて人を動かす。Dezzy HollowとNorman Carterは、それを言葉とグルーヴで証明してみせた。



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