2026年4月29日(水・祝)、GADOROは自身初となる横浜アリーナでのワンマン公演「一家団欒」を開催した。その公演の中で初披露され、翌4月30日にデジタルリリースされたのが「少ない仲間」だ。武道館、そして横浜アリーナという大舞台を踏んだラッパーが、その高揚の翌日に世に放った曲のタイトルが「少ない仲間」というのが、GADOROというアーティストの本質をすべて語っている。
GADOROとは何者か
GADORO(ガドロ)は1990年11月29日生まれ、宮崎県高鍋町出身の男性ラッパー。本名は増本一博。高校時代にヒップホップMC・般若の楽曲がきっかけでラップを開始。フリースタイルMCバトル大会「KING OF KINGS(KOK)」で2016年・2017年と史上初の2連覇を達成し、一躍注目を浴びた。
泥まみれで白球を追いかけてきたおばあちゃんっ子の野球少年は、ラップと出会い、人生を捧げる覚悟を決めた。自らを「クズの社会不適合者」と蔑みつつも、この道だけは信じて疑わなかった。裸電球がぶら下がった風呂なしの四畳半から始まった物語。このキャリアの原点となる四畳半が、2017年1月の1stアルバムタイトルになり、さらには2025年3月の武道館公演「四畳半から武道館」という言葉に結実する。
注目すべきなのは、GADOROは現在でも宮崎県に住みながら全国のライブに飛び回っているという事実だ。武道館も横浜アリーナも、宮崎から来る。この地方から全国という構造が、「少ない仲間」という楽曲のすべての土台になっている。
Four Mud Arrowsという「少ない仲間」
GADOROは2022年11月に自身のレーベル「Four Mud Arrows」を設立した。メンバーはライブDJの”MXNIST”と”DJ HITOSHI”、幼なじみ、そしてGADORO自身を含めた計4人。少数精鋭の中で各々の強みを生かし、1本では折れることのある「矢」でも「4本の矢」では折れにくい──決して折れない。そして「泥くさく」、「ハングリー」にやっていこうという意志と結束がコンセプトだ。
「少ない仲間」はまさに、この4人への楽曲だ。横浜アリーナでワンマン公演を行った今でも、地元・宮崎を拠点に全国区の活動を行うGADOROを身近で支えてくれるレーベル「Four Mud Arrows」の”少ない仲間”への思いと決意が込められた楽曲に仕上がっている。
楽曲クレジットと制作陣
作詞はGADORO、作曲はSquid inkとGADOR O。レコーディングはMasanori YashiroがHUNTER CHANCE STUDIOで担当。ミックスはD.O.I.がDaimonion Recordingsで行い、マスタリングはMasato Morisaki。D.O.I.は日本語ラップシーンのクラシック作品を数多く手がけてきたエンジニアであり、その名前がクレジットに入ることは、作品のクオリティへの強いこだわりを示している。
歌詞を読む
「チャチな静かな田んぼのこの街にリスナーが殺到 / いくらILLなワンマンショーしても俺ら三つ葉か雑草」──宮崎という地方都市出身のラッパーが全国規模のスターになった現実を、「田んぼの街」「三つ葉か雑草」という言葉で自嘲的に、しかし誇りを持って表現する。垢抜けないことを恥ずかしがるのではなく、それを自分たちのアイデンティティとして抱きしめる目線だ。
「劣等感だらけ / でもお前という支えでヘイトやら罵声すらも / 大丈夫」──GADOROの楽曲の核心はいつもここにある。弱さを認め、それでも仲間がいるから大丈夫だと言い切る。自己肯定感の高さではなく、繋がりの中で生きる人間の等身大の強さ。
HOOKの「どんな凄い景色を見ても俺らは垢抜けれないよ / ずっと中身ない会話で笑っていくんだろうなこの先も」は、この曲の白眉だ。武道館でも横浜アリーナでも、どんな大舞台に立っても、仲間と過ごす時間は中身のない話で笑うあの感じのまま──それを失いたくないという宣言であり、失っていないという確認でもある。
「今や武道館にアリーナ 次はあの溜まり場で」──「あの溜まり場」とは9月21日に控えた大阪城ホールのことだろうか。あるいはもっとプライベートな場所か。どちらにせよ、武道館もアリーナも、仲間と「溜まり場」で過ごす時間と地続きの出来事として語られる視点に、GADOROというラッパーの人間性が凝縮されている。
「いくら都会ぶっても訛りが出る」──宮崎の訛りは抜けない。それはGADOROがどこまで行っても宮崎の人間であるという証明であり、Four Mud Arrowsというレーベルが、どれだけ大きくなっても泥くさいままでいるという証明でもある。
終盤の「ライブ終わりにはコンビニのカップ麺食おうな この先も」は、最後の一行に向かうための助走だ。そして最後——「今でもクズでダメ男な俺を支えてくれてありがとう」。横浜アリーナのステージに立った翌日にリリースされた曲の結びがこの言葉だという事実が、このラッパーのすべてを物語っている。
「少ない仲間」という選択
「少ない仲間」は2026年6月17日リリース予定のニューアルバム「mile」の先行曲として収録される。「mile(マイル)」という言葉は距離の単位であり、積み上げてきた道のりのメタファーとも読める。その先行曲が「少ない仲間」であるというアルバムの設計に、GADOROがこの先どんな距離を走り続けるにしても、この少ない仲間と一緒だというメッセージが込められているように感じる。
武道館、横浜アリーナ、そして大阪城ホールへ──規模は広がり続ける。それでも「少ない仲間」という曲のタイトルは変わらない。多い友達は要らない。この4本の矢が折れなければいい。その宣言こそが、2026年のGADOROの原点にある。



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