Cypress Hill & Mellow Man Ace”Campeones” 35年越しの帰還とラテンラップの原点

Mexican

2026年4月24日、マルチプラチナのヒップホップレジェンド・Cypress Hillが、新スペイン語アルバム『Dios Bendiga』のリリースを発表し、同時に先行シングル「Campeones」をオリジナルメンバー・Mellow Man Aceとのコラボレーションで公開した。この楽曲は単なる新曲の発表ではない。ラテンラップの歴史そのものが、一本の曲として現代に着地した瞬間だ。

Cypress Hillというグループの核心

Cypress Hillを語るとき、まず押さえておくべきことがある。彼らはカリフォルニア州サウスゲート出身のグループで、B-Real、Sen Dog、Eric Bobo、DJ Lordで構成される。ラテンアメリカ系として初めてマルチプラチナを達成したグループであり、30年以上にわたってウエストコーストのアイデンティティを世界に刻み込んできた。

ヒップホップの文脈でよく「ラテン系」という言葉が使われるが、Cypress Hillにとってそれはマーケティングのラベルではない。彼らのルーツはキューバとメキシコにまたがり、英語とスペイン語を行き来するバイリンガルなリリシズムは、デビュー当初から彼らの表現の核心にあった。

Mellow Man Ace──「ラテンラップのゴッドファーザー」とCypress Hillの接点

この楽曲を理解するうえで、Mellow Man Aceという人物の来歴を知ることは欠かせない。本名Ulpiano Sergio Reyes、1967年4月12日キューバ生まれ。4歳でロサンゼルスに移住し、南カリフォルニアで育った。

15歳の頃からすでにリリックを書き始め、カリフォルニアのハウスパーティや高校のダンスイベントで名を上げていった彼は、1987年頃にDVXというグループに参加する。そのメンバーは弟のSen、友人のB-Real、そしてDJのGrandmixer Muggs(後のDJ Muggs)だった。ソロ活動への道が開けたことでAceはDVXを離れ、残りの3人がCypress Hillを結成することになる。

つまりMellow Man Aceは、Cypress Hillの前身グループの一員であり、B-Real、Sen Dog、DJ Muggsと共に同じグループに在籍していた人物だ。それが今回、「オリジナルメンバー」として紹介される理由だ。

その後、ソロアーティストとして1989年8月にデビューアルバム『Escape from Havana』をCapitolからリリース。翌1990年3月に発売したシングル「Mentirosa」はBillboardのHot 100で14位まで上昇した。この曲はスパングリッシュ(英語とスペイン語を混ぜた表現)による初のヒット曲となり、Mellow Man Aceは「ラテンラップのゴッドファーザー」の称号を得た。

「Mentirosa」がヒットしたことで、Kid Frostの「La Raza」がBillboard Hot 100のトップ10入りへの道が開き、その後Fat Joe、The Beatnuts、Funkdooobiestなど多くのラテン系ラッパーがメジャー契約を結ぶきっかけになった。彼の存在がなければ、ラテンラップの地図はまったく異なるものになっていただろう。

“Campeones”が持つ歴史的な意味

「Campeones」のリリースに際し、Cypress HillはMellow Man Aceを「オリジナルメンバー」として紹介し、楽曲をグループのジャンル内における正当な地位の力強い奪還として位置づけている。バイリンガルなリリシズムと、彼らをグローバルな存在へと押し上げたリッチな文化遺産を融合させた楽曲だ。

「Campeones」では、ノルテーニョスタイルのアコーディオンのテクスチャーがCypress Hillのシグネチャーであるベース重厚なサウンドと融合し、DJ Lordのライブスクラッチングが全編を貫く。アコーディオンの響きはメキシコとテキサス国境地帯の音楽文化に深く根ざした楽器であり、ラテンコミュニティの誇りと抵抗の象徴でもある。そのサウンドをCypress Hillのヒップホップと重ねることで、曲はシーンの宣言書のような質感を持つ。

クレジットには、作曲者としてMellow Man Ace、B-Real、DJ Flict、SENの名前が並ぶ。演奏面では Eric Boboがパーカッション、DJ Lordがサンプラーを担当し、Javi Lopezがバックグラウンドボーカルで参加している。

プロデューサー・DJ Flict

アルバム全編のプロデュースを手がけるのは、マルチプラチナ・グラミーノミネートのDJ Flictだ。Snoop DogやLaurin Hillへの楽曲提供で知られる彼がアルバムの「ソニック・アーキテクト(音の設計者)」として全曲を統括している。DJ Flictのような腕を持つプロデューサーが全編を通じて音を設計することで、アルバムには一貫したサウンドの骨格が生まれる。「Campeones」はそのアルバムの顔として送り出された先行シングルであり、プロジェクト全体の方向性を告げる第一声でもある。

アルバム『Dios Bendiga』という大きな文脈

「Campeones」はアルバム『Dios Bendiga』のリードシングルだ。Cypress Hillにとって初の完全スペイン語フルレングスアルバムとなる本作は、2026年7月24日にHYBE Latin Americaからリリース予定だ。

2025年11月、Cypress Hillは2週間の集中的なレコーディングセッションで本作を制作した。ロングタイムのパーカッショニスト・Eric Boboがミュージカルディレクターとして指揮を執り、B-RealとSen Dogが前例のない流暢さで自分たちのルーツに踏み込んでいった。さらにDJ Lordの力強いライブスクラッチングが、グループのアイコニックなウエストコーストの遺産とラテン文化の豊かなルーツをシームレスにつなぐプロジェクトに最後の荒削りな質感を加えた。

ゲスト陣も充実している。メキシコのラッパー・Alemán、アルゼンチンのラッパー兼シンガー・Trueno、ソングライターのPoe Leos、メキシカン・アメリカン・ラップデュオのCoyoteなど、ラテンシーンの新旧を代表するアーティストが参加している。

B-Realはアルバムへの想いをこう語っている。「Dios Bendigaは単なる楽曲集ではない。文化への祈りだ。このアルバムは、私たちの遺産はトレンドではなく、神聖な遺産であり、グローバルな未来であることを示す。ラテンラップの歴史的な時代を生きており、歴史と抵抗をたたえるサウンドで貢献したかった。Dios Bendigaは私たちの故郷への帰還──スペイン語という言語で、ルーツと私たちを地に足着かせてくれる人々への直接的なつながりだ。」

Cypress Hillは1999年に既存楽曲のスペイン語バージョンをまとめたベストアルバム『Los Grandes Éxitos en Español』をリリースしていたが、今回の『Dios Bendiga』はオリジナル楽曲によるフルスペイン語アルバムとしては初の試みとなる。

「チャンピオン」という言葉の意味

「Campeones」はスペイン語で「チャンピオンたち」を意味する。現在のアメリカでラテン系コミュニティが置かれている状況を考えると、この言葉の選択は単純な自己称揚ではなく、文化的抵抗の宣言だ。アルバムそのものが「今日の世界の状況に対する希望の灯火と結束への呼びかけ」として位置付けられており、強さと抵抗のアンセムとして機能することが意図されている。

35年以上前、Mellow Man Aceはスパングリッシュで歌うことで笑われるリスクを背負いながら「Mentirosa」をリリースし、ラテンラップというジャンルへの道を切り拓いた。今、その同じ人物がCypress Hillと並んで「Campeones(チャンピオンたち)」と高らかに宣言する。その円環のような構造に、この楽曲の本当の重みがある。

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