Xzibit、B-Real、Demrick ── “This Thing of Ours”

CHICANO

2026年4月10日、ウエストコーストのヒップホップシーンに一枚の作品が静かに、しかし力強く着地した。Serial Killers──Xzibit、Cypress HillのB-Real、そしてDemrickの3人から成るスーパーグループ──が、ニューアルバム『This Thing of Ours』をリリースしたのだ。そのタイトルトラックであり先行シングルでもある「This Thing of Ours」は、2026年1月16日に先行リリースされ、アルバム発売を告知する狼煙となった。今回はこの楽曲とその背景を、できる限り深く掘り下げていきたい。

まず、Serial Killersというグループの成り立ちを押さえておく必要がある。彼らが結成されたのは2013年のハロウィン。Xzibit、B-Real、Demrickの3人が集まり、このコレクティブを立ち上げた。以来、ミックステープやアルバムを重ね、2013年のデビューミックステープから始まり、『The Murder Show』、『Day of the Dead』(2018年)といった作品を経てきた。

Xzibitは1990年代にDr. Dreの影響下でキャリアをスタートさせ、音楽・テレビ・映画にわたって30年以上にわたり活動を続けてきたベテランだ。B-Realはグローバルツアーを続けるCypress Hillの看板として、『Black Sunday』のオーケストラ公演まで行う活躍を見せている。そしてDemrickは、グループ活動と並行してソロカタログを着実に積み上げてきた。3人はそれぞれ異なるキャリアを持ちながらも、Serial Killersというユニットの中で唯一無二のケミストリーを発揮する。

“This Thing of Ours”── タイトルに込められた意味

「This Thing of Ours」というフレーズ、一度どこかで聞いたことがある人もいるかもしれない。これはイタリア語の”La Cosa Nostra”──マフィアがシチリア語で自分たちの組織を指す呼称──の英訳そのものだ。タイトルはLa Cosa Nostraを直訳したものであり、その世界観は歌詞の随所に書き込まれている。

アルバム収録曲”Hand Grenade”ではXzibitが「証拠がなければ事件にならない、絶対に自白するな」という一節を圧縮されたオメルタ(沈黙の掟)として刻み込み、「俺はお前らと同じ穴のムジナじゃない、お前らが俺と同じ穴に閉じ込められているんだ」という台詞で締めくくる。マフィア映画的な比喩が単なる外装に終わらず、ビートの構造や歌詞の論理にまで織り込まれているのが、このプロジェクトの特別なところだ。

Scoop DeVille── 全楽曲プロデュースという大仕事

このアルバムを語るうえで避けて通れないのが、プロデューサーのScoop DeVilleだ。彼の本名はElijah Blue Molina。1990年のミュージックビデオに幼い姿で映り込む彼の父は、チカーノラップの古典「La Raza」のKid Frostだ。

Scoop DeVilleはその後、Snoop DoggとJAY-Zの”I Wanna Rock”をプロデュース。Kendrick Lamarの傑作『good kid, m.A.A.d city』では”Poetic Justice”と”The Recipe”のクレジットを持ち、グラミーノミネートも経験した。DrakやDr. Dreなど、複数の時代にわたるアーティストに楽曲を提供してきた、キャリアの幅が際立つプロデューサーだ。

しかし、アルバム1枚の全プロデュースを手がけるのは、この『This Thing of Ours』が初めての挑戦だった。全楽曲をScoop DeVilleが手がけたことで、アルバムには一貫したソニックバックボーンが生まれた。重厚なドラム、レイヤードされたサンプル、ウエストコーストのクラシックな構造を現代的に再解釈したサウンドが全編を貫いている。

タイトル曲のフックではXzibitとB-Realが「Scoop beat droppin’ here like hydraulics(スクープのビートが油圧サスのようにドロップする)」とDeVille自身の名前を呼び込む。これが安っぽく聞こえないのは、彼がすでにこのグループの一員として内側に入り込んでいるからだ。さらに”By Any Means”ではDeVille自身がラップのバースを担当し、それが決して浮いていない。プロデューサーの域を超え、Serial Killersの4人目のメンバーとでも呼ぶべき存在感を示している。

楽曲としての「This Thing of Ours」

シングル「This Thing of Ours」は、収録時間2分49秒のコンパクトなトラックだ。スリムでレイドバックしたヒップホップアンセムであり、タイムレスかつコンテンポラリーな質感を持ち、クラシックなウエストコーストのエネルギーと洗練されたモダンエッジのバランスが絶妙だ。

3人の役割分担は明快だ。ほぼすべての曲でDemrickが先頭を切る。彼の声はベテラン2人に比べてドライでシャープ、バー間を清潔に切り裂く。B-Realは中盤を担い、Cypress Hillが築き上げたあの鼻にかかった独特のピッチで存在を刻む。Xzibitはクローザーとして機能し、凝縮されたモブ(組織)の論理を、年月でも丸くなっていない権威とともに吐き出す。

ミュージックビデオはEstevan Oriol監督のもと制作され、トラックが持つ映画的な暗さとグリッティ(荒削り)な質感をさらに引き立てる仕上がりとなっている。Xzibit、B-Real、Demrick、そしてScoop DeVilleも出演し、ミニムービーのように展開する内容はファンの期待をさらに高めた。

アルバム全体の位置づけ

このシングルは単独で評価されるだけでなく、アルバム全体の文脈の中でこそ真価が見えてくる。『This Thing of Ours』は2020年の『Summer of Sam』以来、実に6年ぶりとなるSerial Killersのフルレングス作品だ。全11曲、35分の収録内容で、Ineffable Recordsよりリリースされた。

リリースに向けたロールアウトは2025年末から始まり、「SK Anthem」「Call The Cops」「This Thing of Ours」という3枚のシングルが順を追って公開された。この周到なプロモーション戦略が、久々のカムバックをアルバムリリース時の高揚感へとつなげた。

Serial Killersの最もタイトなプロジェクトと評価されるこの作品の鍵は明快だ。Scoop DeVilleが全ビートを手がけることで、以前の作品が時に欠いていた統一されたソニックアーキテクチャが生まれた。La Cosa Nostraのコンセプトは単なる飾りではなく、歌詞のテンポとコンテンツに十分な具体性を持って書き込まれており、それが作品に説得力を与えている。

なぜ今、このトラックが重要なのか

ヒップホップの歴史を振り返れば、スーパーグループの多くは期待だけが先行し、実際の作品が散漫に終わることも少なくない。しかし Serial Killers は「長年の共演者が集まって録ったもの」という域を超えた緊密さをここで見せている。

Xzibit、B-Real、Demrickの3人は、世代を橋渡しするラインを切り開いてきた。1990年代のロサンゼルスのラップの泥臭さに根ざしながら、現代的なプロダクションとインディペンデントなリリース戦略によってアップデートされた彼らのスタンスが、この作品に凝縮されている。

「This Thing of Ours」というシングルは、その象徴だ。2分49秒という短さの中に、ウエストコーストの美学、マフィア映画的な世界観、Scoop DeVilleのビートが持つ重力、3人のラッパーがそれぞれ積み上げてきたキャリアの蓄積が、余分なものを一切削ぎ落とした形で詰め込まれている。派手なフィーチャリングも過剰な演出もなく、ただ音楽だけが鳴っている。それが2026年という時代における、このグループの答えだ。

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