Benjazzy「UNTITLED」

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はじめに

2024年12月27日、BAD HOPの解散後初のソロアルバム『UNTITLED』をリリースしたBenjazzy。その表題曲「UNTITLED」は、Chaki Zuluがプロデュースした、哀愁あふれるサックスが鳴り響くトラックの上で、Benjazzyがひたすらスピットする魂のこもった楽曲です。

この曲の歌詞は、自分の人生を「名無し」のエキストラではなく、主役として生きることの重要性を説いた、深いメッセージ性を持つ作品となっています。

Benjazzyというアーティスト

本名: 石川幸和(いしかわゆきかず)
生年月日: 1994年10月19日
出身地: 神奈川県川崎市
出身中学: 川崎市立富士見中学校

Benjazzyは、呂布カルマやSEEDAといった実力派ラッパーからも「スキルモンスター」と称されるほど、ラップの技術と存在感が別格のアーティストです。BAD HOPのメンバーの中では1歳年上で、父親は教師という家庭環境で育ちました。

BAD HOPとの出会い

中学時代、Benjazzyは双子のT-PablowとYZERRの兄(MASA)と知り合いだったことがきっかけで二人と出会います。高校入学後、YZERRが逮捕されて少年院にいた時期に、Yellow PatoやT-Pablowらと交流を深め、関係性が築かれていきました。

そして、2010年、16歳のBenjazzyがT-Pablowを「Bad Boy Park」というイベントに誘ったことが、BAD HOPがヒップホップの道へと進むきっかけとなりました。つまり、Benjazzyこそが現在のBAD HOPをヒップホップの道へと導いた張本人なのです。

「スキルモンスター」と呼ばれる理由

Benjazzyのラップは、リズムのとり方が特異で、がなるような声でラップする時もあれば、ファルセットで気持ち悪いフロー(褒め言葉)でラップしたりと、変幻自在です。そして、一番の武器が攻撃的かつ高速フローのラップスキル。

「Who Run It Remix」で一気に評価が上がり、その圧倒的なスキルは、漢a.k.a.GAMIなど名だたるラッパーたちも認めるほどです。

アルバムタイトル「UNTITLED」の意味

「UNTITLED」とは「無題」「タイトルのない」という意味です。このアルバムタイトルには、BAD HOP解散後、新たな一歩を踏み出すBenjazzyの決意が込められています。

表題曲「UNTITLED」歌詞徹底解説

冒頭部分:不透明な役目への疑問

「望んでもねぇ不透明な役目 の為に我慢し自分押し殺して」

楽曲は強烈な問いかけから始まります。自分が望んでもいない「不透明な役目」——それは社会から押し付けられた役割かもしれませんし、他人の期待かもしれません。多くの人々は、そのような役目のために自分を押し殺して生きています。

「見透かされてる様な鏡の前の 目線を逸らす様に」

鏡の前で自分と向き合うとき、本当の自分が見透かされているような感覚。そこから目を逸らすように生きている——これは、多くの現代人が抱える葛藤を表現しています。

「偽りの人生」への痛烈な批判

「偽わったまま演じ生きる より好きに生きて出すNG」

偽りの自分を演じて生き続けるよりも、自分らしく生きてNG(失敗)を出す方がマシだ、という強烈なメッセージ。ここには、完璧を装うことよりも、失敗しても本物であることの価値を説く姿勢があります。

「他人の人生の脇役で終るなよ」

この一節は、楽曲全体のテーマを象徴しています。他人の人生の「脇役」「エキストラ」として生きるのではなく、自分の人生の「主役」になれ、という呼びかけです。

「名無しで未だUNTITLED」の意味

「エキストラ 名無しで未だUNTITLED」

映画のエンドロールでは、主要キャストには名前がクレジットされますが、エキストラは「名無し」のまま。この「名無し」という状態が「UNTITLED」——つまり「タイトルのない」「名前のない」存在として生きることの比喩になっています。

Benjazzyは、多くの人々が自分の人生において「名無し」のエキストラとして生きている現実を指摘しているのです。

アドリブで変える台本

「アドリブで変える台本 一本撮りでかからないカット」

人生は映画のように「台本通り」に進むものではありません。むしろ、アドリブで台本を変え、一本撮りで失敗しても構わない——そんな生き方こそが本物だと歌っています。

ここには、計画通りに完璧に生きることよりも、その場その場で真実を追求する姿勢の重要性が示されています。

「本音のサントラが鳴るエンドロール」

「本音のサントラが鳴るエンドロール 人生は映画の様に以外となる」

人生の最後——エンドロールが流れるとき、そこで鳴るのは「本音のサントラ」であってほしい。建前や偽りではなく、本音で生きた人生の音楽が流れる。そんな人生こそが価値あるものだという主張です。

「人生は映画の様に以外となる 思い通り」という歌詞は、逆説的です。人生は映画のように思い通りにならないからこそ、意外な展開があり、それこそが面白いのだ、と。

「しがらんで絡まったカルマも伏線に」

「しがらんで絡まったカルマも伏線に」

人生における「しがらみ」や「カルマ」——つまり過去の行いや因縁も、すべては映画における「伏線」のようなものだという視点。一見ネガティブに見える出来事も、後から振り返れば意味のある伏線だったと理解できる、という人生観が示されています。

「泥だらけの言葉足らねぇ綺麗事」

「泥だらけの言葉足らねぇ綺麗事 並べ後付けで言ってる台本通り」

多くの人々は、泥にまみれながらも綺麗事を並べ、後付けで「台本通り」だったと言い訳する。これは、社会における偽善や建前に対する痛烈な批判です。

「楽して手に入れた大金」の虚しさ

「楽して手に入れた大金 で得た物程手に残ってねぇもう」

苦労せずに手に入れた金で得たものは、結局何も残らない——この教訓は、Benjazzyの人生経験から来るものでしょう。BAD HOPとして成功を収めた彼だからこそ、この言葉に重みがあります。

「人の上に人作んないと言って作った 一万円」

「Richでも貧乏でも皆平等で 人の上に人作んないと言って作った 一万円 傑作だよな」

「人の上に人を作らず」という理念を掲げながらも、実際には一万円札という「格差」を生む道具を作った社会。この矛盾を「傑作だよな」と皮肉るBenjazzyの視点は鋭いです。

ここには、表面的な平等を謳いながら、実際には格差が存在する社会システムへの批判が込められています。

「人の失敗喜ぶ奴等」への警告

「人の失敗喜ぶ奴等とっては 今だモトが取れてねえ」

他人の失敗を喜ぶような人々にとっては、まだ「元が取れていない」——つまり、Benjazzyはまだまだこれから成功し続けるという宣言でもあります。

この一節には、BAD HOPの解散を「失敗」と見る人々への返答でもあり、これから個人として活躍していくという強い意志が感じられます。

楽曲のテーマ:「主役」として生きること

映画のメタファー

「UNTITLED」は、人生を映画に例えたメタファーで構成されています:

  • エキストラと主役: 他人の人生の脇役ではなく、自分の人生の主役になること
  • 台本: 社会や他人が用意した「台本」に従うのではなく、アドリブで自分の台本を書くこと
  • 一本撮り: 失敗を恐れず、やり直しのきかない「一本撮り」のような緊張感を持って生きること
  • エンドロール: 人生の最後に「本音のサントラ」が流れるような、偽りのない生き方をすること
  • 伏線: 過去の出来事や苦労も、すべて意味のある「伏線」として受け入れること

「UNTITLED」という状態からの脱却

楽曲タイトルの「UNTITLED」——「名無し」「無題」という状態は、自分の人生にタイトルがついていない、つまり自分らしい生き方をしていないことを意味します。

Benjazzyは、この楽曲を通じて、リスナーに対して「君の人生にタイトルをつけろ」「名無しのエキストラではなく、名前のある主役になれ」というメッセージを発しているのです。

Chaki Zuluのプロダクション

哀愁あふれるサックス

「UNTITLED」のトラックは、Chaki Zuluがプロデュースしました。哀愁あふれるサックスが印象的なこのビートは、Benjazzyの内省的で感情豊かなリリックを完璧にサポートしています。

感情を引き出すサウンド

サックスの音色が持つ哀愁と温かみが、Benjazzyの「人生における真実」を求める叫びに深みを与えています。ジャズ的な要素も含んだこのトラックは、ヒップホップの枠を超えた音楽性を持っています。

MVのコンセプト

Renichi Murakoshi(branch)によるディレクション

ミュージックビデオは、BAD HOPと共に歩みを進めてきたbranchのRenichi MurakoshiとKoretaka Kamiikeらが手がけています。

MVでは、Benjazzyがひたすらラップする姿が映し出され、その真剣な表情からは、この楽曲に込められた魂が伝わってきます。

「UNTITLED」が現代社会に問いかけるもの

SNS時代の「名無し」

現代は、SNSで誰もが情報を発信できる時代です。しかし、その中で多くの人々は「いいね」を求めて他人の期待に応える投稿をし、本当の自分を押し殺しています。

Benjazzyが歌う「名無し」「UNTITLED」という状態は、まさにこのような現代人の姿を象徴しています。

「台本通り」の人生への疑問

就職、結婚、マイホーム——社会が用意した「台本通り」の人生を歩むことが幸せなのか。「UNTITLED」は、そのような価値観に疑問を投げかけます。

失敗を恐れない生き方

「アドリブで変える台本 一本撮りでかからないカット」——失敗を恐れず、その場その場で真実を追求する生き方。これは、完璧主義に陥りがちな現代人へのメッセージでもあります。

まとめ:自分の人生にタイトルをつけろ

Benjazzy「UNTITLED」は、自分の人生を「名無し」のエキストラではなく、「主役」として生きることの重要性を説いた楽曲です。

望んでもいない役目のために自分を押し殺すのではなく、たとえNGを出しても自分らしく生きること。他人の人生の脇役で終わるのではなく、自分の人生の主役になること。偽りの台本通りではなく、アドリブで自分の台本を書くこと。

2024年12月27日にリリースされたこの楽曲は、BAD HOPの解散という大きな転換点を経たBenjazzyの、新たな決意表明でもあります。

「エキストラ 名無しで未だUNTITLED」——この状態から脱却し、自分の人生にタイトルをつける。それこそが、Benjazzyが「UNTITLED」というタイトルに込めた、逆説的なメッセージなのです。

Chaki Zuluの哀愁あふれるトラックに乗せて、Benjazzyはひたすらスピットします。その言葉の一つ一つには、「スキルモンスター」と呼ばれるラッパーの、真実を追求する姿勢が貫かれています。

人生という映画のエンドロールで「本音のサントラ」が鳴るように——そんな生き方を、あなたも始めてみませんか。

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