KOWICHI「一十百千万」― 愛と金を一直線に結ぶ、純粋な誓いの歌

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はじめに

KOWICHIというラッパーを語るとき、ストリートへの忠誠心や自らの成り上がりを描いた楽曲が注目されがちだ。「Self Made 2」や「Lost」に代表されるような、骨太な哲学を持った楽曲群がKOWICHIの代名詞として語られることが多い。しかし彼のディスコグラフィーには、もう一つの顔がある。それは、好きな女性への飾り気のない本音をそのまま言葉にしてしまう、KOWICHIならではのラブソングの世界だ。2020年リリースのアルバム『Higher』に収録された「一十百千万」は、まさにそのKOWICHIの「もう一つの顔」が最もストレートに表れた一曲であり、シンプルな言葉の中に深い愛情と意地が凝縮された楽曲となっている。

楽曲の基本情報

「一十百千万」は、KOWICHIが2020年12月18日にリリースしたアルバム『Higher』の3曲目に収録された楽曲で、再生時間は2分29秒だ。

作詞はKOWICHI、作曲はKOWICHIとRYUUKI BEATZが共同で手がけている。アルバム『Higher』は全11曲・約29分というコンパクトな構成で、「Update」「Self Made 2 feat. YZERR」に続く3曲目としてこの楽曲が配置されており、アルバム序盤においてストリート色の強いトラックに挟まれる形で、突然この甘い世界観が飛び込んでくる。その流れのギャップ自体が、KOWICHIという表現者の幅を如実に示している。

また、2021年8月27日にリリースされた「Higher (Deluxe)」には全20曲が収録されており、「一十百千万」はデラックス版でも引き続き収録されている。

タイトルの持つ意味

「一十百千万」というタイトルは、日本語の数の数え方をそのまま並べたものだ。一、十、百、千、万——つまり1から10000への指数的な増加を表している。これはそのまま歌詞のテーマと直結している。「1円でも多く」稼ぎ続け、それを積み重ねて「チリ積もで山になる万券」にしていく。1円、10円、100円、1000円、そして万券(1万円)へと積み上がる金の流れを、タイトルが視覚的に表現している。

日本語には「塵も積もれば山となる」ということわざがあるが、この曲はまさにその精神を体現している。一度にすべてを叶えることは誰にもできない。しかし諦めずに1円ずつ積み重ねていけば、やがてそれは山になる。KOWICHIはその積み重ねを、好きな人への誓いとして歌っている。数字を並べただけのシンプルなタイトルの中に、これだけの意味が詰まっているのだから、このネーミングセンスは見事だ。

リリックの世界観

歌詞の中でKOWICHIは、「君はプリンセス 俺はアメ車に乗るプリンス」と宣言し、「予定通りに迎えにいく」と約束する。そして「いつかはKingとQueenだよBaby」と続ける。この言葉は単なる夢ではなく、「有言実行してきた男だぜ」というフレーズが示す通り、これまで言ったことを必ず実行してきた男としての自信から来る言葉だ。

「買い物なら銀座、表参道どこへ行く」「外食ならA5の肉」「旅行ならLA ハワイで結婚式をあげる」という具体的な言葉の羅列も印象的だ。KOWICHIのリリックの特徴のひとつは、こういった固有名詞や具体的な数値・場所を織り交ぜることで、夢物語ではなくリアルなプランとして描写する点にある。ハワイで結婚式を挙げるというのは大それた夢のようにも聞こえるが、「そんな未来も遠くはないから あ少しだけ待ってお姫様」という歌詞がそれを現実の射程圏内に引き寄せる。

また「ブリリアンカットの指輪 服はフランス イタリア」という高級志向のフレーズの直後に、「でも家で飲もう金宮」というラインが来る。金宮とは下町の大衆的な焼酎「金宮焼酎」のことだ。どこまでも豪華な未来を語りながら、最後は家で二人でリーズナブルな焼酎を飲もうという、この落差がたまらなく愛おしい。ラグジュアリーな夢と日常の温もりが同居するこのバランスは、KOWICHIというラッパーの人間らしさが滲み出ている部分だ。

コーラスで繰り返される「稼ぎいく金 全部君のため 諦めたら負け チリ積もで山になる万券」というフレーズは、この曲の核心をひと言で表している。稼ぐ動機が「君のため」であること。諦めることを「負け」と定義すること。そして地道な積み重ねこそが大きな山になるという信念。これはKOWICHIが「Self Made 2」で語った成り上がり哲学と根っこで繋がっている。愛する人のために稼ぐこと自体が、彼にとっての「Self Made」の一形態でもあるのだ。

プロデューサー・RYUUKI BEATZについて

RYUUKI BEATZは栃木県宇都宮市出身のビートメイカーで、19歳でヒップホップレーベル「h.g.p.」に加入し、全国を飛び回りながら数々の楽曲制作に携わってきた。帰省後は地元のシーンを盛り上げるべくレコーディングスタジオ「84studio」を設立し、名プロデューサーZOT on the WAVEとも共同でビートメイキングやミキシングの手法を追求してきた実力派だ。

RYUUKI BEATZが自身のお気に入り作品として挙げている楽曲には「KOWICHI – Day Ones feat. T-Pablow & DJ TY-KOH」があり、KOWICHIとの関係は長く、互いへの深い信頼が感じられる。「一十百千万」においてもRYUUKI BEATZのビートは楽曲の温度感に非常によくマッチしており、甘くも落ち着いた質感のトラックがKOWICHIの言葉を丁寧に包み込んでいる。ZOT on the WAVEが手がける楽曲がクールでスタイリッシュな印象を与えるとすれば、RYUUKI BEATZのビートはどこかアーバンでメロウな温もりを持っており、「一十百千万」のような愛をテーマにした楽曲との相性は抜群だ。

「Higher」というアルバムの中での位置づけ

KOWICHIは、カジュアルなボキャブラリーと、リリックが聴き取りやすい鮮明なフロウを駆使するラッパーであり、率直な語り口にユーモアも交えながらラップをエンターテインメントとして成立させる個性派MCだ。自身の欲望にただただ忠実で極めてパーソナルな内容でありながら、リスナーはどこかで共感しつつその情景を思い浮かべながら楽しめる不思議な魅力がある。

「一十百千万」はまさにその魅力が最も直球で発揮されたトラックだと言える。「Self Made 2」でのストリートの誓い、「雲の上」での喪失と悲しみ、「Alien」での孤高の世界観——こうした多彩なトーンを持つアルバム『Higher』の中で、この曲は恋愛という普遍的なテーマで真正面から勝負している。難しい言葉は何もない。難解なメタファーもない。ただ「好きな人のために稼ぎ続ける」という、人間の最も根本的な感情がストレートに歌われている。

KOWICHIのラブソングという文脈

KOWICHIはこれまでのキャリアでも、「湘南ビタースイート」「高嶺の花」「7」「No Brake」など、女性への想いを歌った楽曲を数多くリリースしてきた。しかし「一十百千万」はその中でも特に純粋で揺るぎない誓いが込められている点で特別だ。「口だけじゃなく君の為に死ねる」という一節は、KOWICHIのリリックの中でも特に重い覚悟が感じられる言葉だ。ラッパーとして言葉を生業にしている男が「口だけじゃなく」と言う。そこには、言葉だけで終わることへの自己批判と、それを超えた行動への決意が宿っている。

まとめ

KOWICHI「一十百千万」は、2分29秒という短い時間の中に、愛と金と誓いが凝縮された一曲だ。難しいことは何も言っていない。ただ「好きな人のために死ぬ気で稼ぎ続ける」という一点を、KOWICHIは曲のはじめから終わりまでブレることなく歌い続ける。作曲にRYUUKI BEATZを迎えた、このトラックは、メロウなビートとKOWICHIのフロウが絶妙に絡み合い、聴き終わったあとに不思議な清々しさを残す。

「一十百千万」というタイトルが象徴するように、1円から始まり、10円、100円、1000円、そして1万円へと積み上げていく。その地道な積み重ねの先に、ハワイでの結婚式がある。銀座でのショッピングがある。A5の肉を食べる夜がある。そして家で金宮を飲む夜もある。豪華な夢と素朴な日常、その両方を抱きしめながら前に進み続けるKOWICHIの姿が、この2分半に詰まっている。

「諦めたら負け」——その言葉はストリートでも、恋愛でも、人生全般においても変わらない真実だ。KOWICHIはその真実を、どこまでもシンプルに、そして力強く歌い続ける。

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