GADORO-クソ親父へ (Prod. LITTLE_D&GOWLAND)

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はじめに

宮崎県出身のラッパー・GADORO(ガドロ)が2023年2月にリリースしたアルバム『リスタート』。その中でも特に注目を集めているのが、11曲目に収録された「クソ親父へ」という楽曲だ。LITTLE_D & GOWLANDによる鍵盤が印象的なトラックの上で、GADOROが数々の思い出とともに自身の父親へのメッセージを歌ったこの作品は、多くのリスナーの心を揺さぶり続けている。

GADOROというアーティスト

1990年11月29日生まれ、宮崎県児湯郡高鍋町出身のGADOROは、高校2年生の時に般若の影響でラップを始めた。その後、日本一のバトルMCを決める大会「KING OF KINGS」で2016年と2017年に史上初の2連覇を達成し、テレビ朝日「フリースタイルダンジョン」にも過去3度出演するなど、MCバトルシーンで確固たる地位を築いてきた。

2017年1月にリリースした1stアルバム「四畳半」のリード曲「クズ」が多くの共感を呼び、YouTubeでの再生回数も400万以上を記録。バトルMCの枠を超えて、アーティストとしての評価を高めていった。

彼の音楽の特徴は、等身大の自分をさらけ出すスタイルにある。失敗や後悔など、己の弱さをあえて歌詞にぶつけることで、人生に迷ったり、葛藤に苦しんだりする人々の共感を集めてきたのだ。

アルバム『リスタート』について

『リスタート』は、GADOROが自身で新たに設立したレーベル「Four Mud Arrows」から放つ初のアルバムとなる。「レールの外れた列車から再出発する」という意味を込めて「リスタート」というタイトルにしたとGADORO本人は語っている。

サウンドプロデューサーとしてLIBRO、hokuto、PENTAXX.B.F、ikipedia、Kiwy、S-NA、DJ RYU-G、LITTLE_D&GOWLANDが参加した全13曲を収録。宮崎の田舎町で平凡に生きてきた中での私生活や感情、風景、当時から現在に至るまでの考えをそのまま楽曲に落とし込んだ作品となっている。

GADOROは制作当時について次のように振り返っている。「新たに独立という道を選んで動き始めたものの、正直右も左も前も後ろも分からない状態でした。そんな中での制作は本当に大変でしたが、立ち上げた新しいレーベル「Four Mud Arrows」の仲間達が自分のことを信じて頑張ってくれて、自分自身もその頑張りをこの目で見て力にして制作に向けての感情を保ちながら音楽を作ることが出来ました」

「クソ親父へ」の背景と歌詞の世界

「クソ親父へ」は、「刑務所から帰ってきた平日の昼 自分のほっぺたをつねり現実と知る」という衝撃的なフレーズから始まる。GADOROの父親は、彼が小さい頃から5年間ほど刑務所に入っており、ほとんど会えなかったという。

この曲は、そんな複雑な家庭環境の中で育ったGADOROが、大人になってから父親と向き合い、父への想いを率直に綴った作品だ。タイトルには「クソ親父」という荒々しい言葉が使われているが、楽曲全体を通して感じられるのは、怒りや憎しみだけではなく、理解、感謝、そして愛情が混在した複雑な感情である。

波乱万丈な人生を生き、GADOROに様々な教えを説いた父親に向けての感謝を綴った1曲であり、いさかいも合った時代を超え、親子としてだけでなく大人の男同士として父親として向かい合うことができるようになったGADOROの喜びが伝わってくる内容となっている。

ミュージックビデオについて

「クソ親父へ」のミュージックビデオは、2023年5月に公開され、GADOROと同じく宮崎県出身のとろサーモン・久保田かずのぶが出演している。監督はGADOROの「ヤマトナデシコ」「月が照らす夜 feat. NOBU」の映像も手がけた竹内諒が務めた。

このMVは、多くの人が心に秘めている”父親への思い”に訴えかける内容となっており、楽曲と相まって視聴者に強い印象を残している。

GADOROの家族への想い

GADOROは恋人に向けた曲「Sugar hope」や父親に向けた曲「クソ親父へ」、母親に向けた曲「はなみずき」のように家族や親族に向けた曲を何曲か出しており、その中でも祖母に向けた曲は「カタツムリ」と「最の詩」「もういちど feat.紅桜」の3曲を出している。

特に祖母との関係は深く、GADOROの母親も仕事が忙しく、小さい頃は母方のおばあちゃんとよく一緒に過ごして遊んでいたという。家族への深い愛情と、その関係性の複雑さを包み隠さず音楽で表現することが、GADOROの大きな魅力となっている。

楽曲の音楽性

LITTLE_D & GOWLANDによる鍵盤が印象的なトラックは、GADOROのエモーショナルなリリックと完璧にマッチしている。メロディアスでありながら、どこか切なさを感じさせるビートの上で、GADOROは父親との思い出を丁寧に紡いでいく。

彼のラップスタイルは、バトルMCとして培った韻を踏む技術と、心に刺さる言葉選びが特徴だ。「クソ親父へ」では、攻撃的なバトルラップとは対照的に、静かな語り口で感情を表現している。

GADOROのその後の活躍

アルバム『リスタート』のリリース後、GADOROは2025年3月6日、目標と公言していた日本武道館でのワンマン公演「四畳半から武道館」を成功させた。2025年7月には武道館公演後初のアルバム「HOME」をリリースし、全国5都市を巡るZeppツアーを敢行。9月には地元・宮崎県高鍋町で凱旋公演を開催した。

2026年4月には、自身初の横浜アリーナでの単独公演を予定しており、その勢いはとどまることを知らない。

地元・宮崎への愛

GADOROは現在でも宮崎県に住みながら全国のライブに飛び回るほど、地元の宮崎を愛している。高鍋町のふるさと応援大使にも就任し、曲中に散りばめられた高鍋町の風景や、時折織り交ぜられる宮崎弁から深い地元愛がうかがえる。

都会に出ることなく、地元を拠点に活動を続けるGADOROのスタイルは、彼の音楽の根幹をなす重要な要素だ。田舎町での日常、そこで感じる喜怒哀楽が、彼のリリックにリアリティと普遍性を与えている。

おわりに

「クソ親父へ」は、単なる父への感謝の曲ではない。複雑な家庭環境、離れていた時間、そして大人になって初めて理解できる親の想い。そのすべてを包み隠さず表現した、GADOROだからこそ作れた楽曲だ。

ストレートなタイトルとは裏腹に、楽曲全体から伝わってくるのは、父への深い愛情と、過去を乗り越えて前を向く強さである。多くの人が抱える「親子関係の複雑さ」を代弁するこの曲は、聴く人それぞれの人生に寄り添い、心を揺さぶる力を持っている。

「全ては天国で見守る祖母の耳に届くまで」という信念のもと、GADOROは今日も音楽を作り続けている。四畳半から始まった物語は、今や日本中に響き渡り、多くの人々の心に届いている。「クソ親父へ」は、その軌跡の中で重要な一曲として、これからも多くの人に聴き継がれていくことだろう。

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