MC漢「新宿ストリート・ドリーム (LIBRO Remix)」

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はじめに

2018年2月28日にリリースされたアルバム「ヒップホップ・ドリーム」に収録された「新宿ストリート・ドリーム (LIBRO Remix)」。この楽曲は、MC漢の人生を象徴する代表曲の一つを、LIBROがリミックスした特別なバージョンです。2017年3月にシングルとしてリリースされたオリジナル版「新宿ストリート・ドリーム」を再解釈し、新たな魅力を加えた作品となっています。

アルバム「ヒップホップ・ドリーム」について

自伝と同名のアルバム

「ヒップホップ・ドリーム」は、MC漢にとって2005年の『導〜みちしるべ〜』以来、実に13年ぶりとなる2作目のオリジナル・フルアルバムです(ミックスCD形式の作品を除く)。

このアルバムは、2015年6月に出版された自伝『ヒップホップ・ドリーム』と同じタイトルを冠しています。自伝では、新宿のストリートで育った漢の生い立ちから、ラッパーとしての成長、DABOやLibra Recordsとのビーフまでを赤裸々に語っており、日本のヒップホップシーンの壮絶なリアルを描き出した名著として高い評価を受けました。

アルバム「ヒップホップ・ドリーム」は、その自伝の内容を音楽として結実させたものといえます。自身の生い立ちやシーンのリアリティを、ストレートなヒップホップアルバムとして表現しています。

フリースタイルダンジョン後の作品

このアルバムがリリースされた2018年は、MC漢が2015年から出演していたテレビ朝日の「フリースタイルダンジョン」により、ヒップホップの枠をはるかに超えた全国的な知名度を獲得した後の時期でした。

初代モンスターとして番組に出演し、「ミスターフルボッコ」の異名でその圧倒的なバトルスキルを見せつけた漢。テレビという大衆メディアへの露出が増える中で、彼はどのような音楽を作るのか。多くの人が注目していました。

しかし漢は、過度に大衆に迎合したり大風呂敷を広げたりすることなく、ある種のすがすがしさを感じさせるほどストレートなヒップホップアルバムを完成させました。刺激的なボキャブラリーを駆使しながらタイトなライミングで畳み掛ける、彼ならではのラップの魅力が存分に楽しめる作品となっています。

アルバムの収録曲

「ヒップホップ・ドリーム」は全11曲で構成されています:

  1. 始まり
  2. Beginning Of The End [Track by GRADIS NICE & DJ SCRATCH NICE]
  3. Rhythm Of Street Life [Track by Drum Gang]
  4. 新宿ストリート・ドリーム (DJ BAKU REMIX)
  5. ワルノリデキマッテル [Track by LORD 8ERZ]
  6. Luvletter For Trash [Track by Clyde Strokes]
  7. 分岐点 [Track by LORD 8ERZ]
  8. おい! boy [Track by Hitman D]
  9. ヒップホップ・ドリーム [Track by I-DeA]
  10. 新宿ストリート・ドリーム (LIBRO REMIX)
  11. Luvletter For Trash (I-DeA REMIX)

「新宿ストリート・ドリーム」というタイトルの意味

1978年から始まる物語

楽曲の歌い出しは「1978とある田舎町で生まれて 移り住んだ新宿で育ち」という言葉から始まります。MC漢は1978年6月7日、新潟県長岡市で生まれました。その後、家族の事情で東京都新宿区に移り住み、そこで育ちました。

新宿という街は、MC漢にとって人生のすべてといえる場所です。自伝『ヒップホップ・ドリーム』でも、新宿のストリートで学んだこと、出会った人々、そしてラッパーとして成長していく過程が詳細に描かれています。

「ストリート・ドリーム」の二面性

タイトルの「ストリート・ドリーム」には、複雑な意味が込められています。インタビューで漢自身が語っているように、サビの部分では「ヒップホップに首突っこんだことで道を踏み外してるんじゃないか」という問いかけがあります。

つまり、これは単純な成功の物語ではありません。ヒップホップという夢を追いかけることで、別の道を失い、代償を払い、現実の厳しさと向き合わなければならなかった。そのリアルな葛藤を描いた曲なのです。

漢は語っています。「綺麗事をどう綺麗事に言わないようにするかも心掛けた。周りの奴が聴いたら『これイイ感じのこと言ってない?』って思うだろうけど、人によっては超バッドだと思うんですよ」

日本のヒップホップ・ドリームとは

漢は日本におけるヒップホップ・ドリームの現実についても語っています。「俺らは日本であるであろうとされているヒップホップ・ドリームに向かってる途中だし、俺は日本にまだヒップホップのスターは現れたことないと思ってる」

アメリカのヒップホップには、貧困から成功へという明確な「ドリーム」の物語があります。しかし日本では、その文脈は異なります。漢が描くのは、「日本でやってくヒップホップはこうだよ」という現実的な姿なのです。

LIBROによるリミックス

LIBROというアーティスト

LIBROは、日本のヒップホップシーンで活動するラッパー/プロデューサーです。MSCとも縁が深く、MSCの楽曲にも関わってきた信頼できるアーティストの一人です。

LIBROは、MC漢やMSCの音楽性を深く理解している人物であり、だからこそこの重要な楽曲のリミックスを任されたのでしょう。

リミックスの意義

オリジナル版「新宿ストリート・ドリーム」は2017年3月にシングルとしてリリースされ、その後アルバムには2つのリミックスバージョンが収録されました:

  • 4曲目:新宿ストリート・ドリーム (DJ BAKU REMIX)
  • 10曲目:新宿ストリート・ドリーム (LIBRO REMIX)

同じ楽曲の異なるリミックスが一つのアルバムに収録されていることは、この曲がMC漢にとってどれほど重要かを示しています。DJ BAKUとLIBRO、それぞれの解釈による「新宿ストリート・ドリーム」が、アルバム全体に多様性と深みを与えています。

アルバムにおける配置

LIBRO Remixは、アルバムの10曲目、つまり最後から2番目に配置されています。アルバムの締めくくりに近い位置で、改めて「新宿ストリート・ドリーム」を提示することで、このテーマがアルバム全体を貫く核心であることを強調しています。

MC漢の「リアル」へのこだわり

日本のヒップホップにおける「リアル」論争

日本のヒップホップシーンでは、しばしば「リアル」が議論されてきました。アメリカのヒップホップが持つ、ストリート、貧困、暴力といった要素を、どこまで日本で表現できるのか。あるいは表現すべきなのか。

MC漢は、DABOとのビーフにおいても、この「リアル」の問題を中心に据えていました。自伝『ヒップホップ・ドリーム』では、DABOのミュージックビデオで車を運転しているのに実際は免許を持っていないこと、銃を構えるジャケット写真の意味など、「日本のヒップホップのリアルとは何か?」という問題提起をしています。

「新宿ストリート・ドリーム」が描くリアル

この楽曲が描くのは、漢自身が実際に経験した新宿のストリートです。1978年に生まれ、新宿に移り住み、その街で育ち、ラッパーになった。この事実そのものが、彼の「リアル」です。

作り話ではなく、誇張でもなく、自分が見て、感じて、生きてきたことを歌う。それが漢のスタイルであり、「新宿ストリート・ドリーム」はその集大成ともいえる楽曲なのです。

自伝『ヒップホップ・ドリーム』との関係

書籍の内容

2015年6月に河出書房新社から出版された『ヒップホップ・ドリーム』は、MC漢の初の自伝です。全体は以下のような章立てになっています:

  • INTRO
  • 第1章 新宿ストリート育ち
  • 第2章 ピリつくキャンパスライフ
  • 第3章 MC漢の誕生
  • 第4章 二十歳で迎えた人生の分岐点
  • 第5章 どん底から這い上がれ
  • 第6章 日本語ラップの新地平
  • 第7章 マイクロフォン・コントロール
  • 第8章 アンダーグラウンド・コネクション
  • 第9章 これはビーフだ、ガッツリ食うぜ
  • 第10章 黒い噂が渦巻く”氷河期”
  • 終章 ヒップホップ・ドリーム

第1章の「新宿ストリート育ち」では、楽曲「新宿ストリート・ドリーム」で歌われている内容の背景が詳しく語られています。

音楽と文章の両方で表現する

MC漢は、自分の人生とヒップホップへの思いを、文章と音楽の両方で表現しました。

自伝では、詳細なエピソードや心境の変化を丁寧に描写しています。一方、楽曲「新宿ストリート・ドリーム」では、同じテーマを凝縮し、ビートとリリックという形で表現しています。

両方を体験することで、MC漢という人物とその音楽をより深く理解することができます。アルバムを聴いた後に自伝を読む、あるいはその逆。どちらの順序でも、新たな発見があるでしょう。

2018年というタイミング

「フリースタイルダンジョン」での活躍

2015年から2018年にかけて、MC漢は「フリースタイルダンジョン」への出演により、これまでヒップホップに馴染みのなかった層にまで知名度を広げました。

番組での圧倒的なバトルスキルと、時にコンプライアンスを無視した過激な発言は、視聴者に強烈な印象を与えました。「ミスターフルボッコ」という異名は、彼のスタイルを完璧に表現しています。

メインストリームとアンダーグラウンドの狭間で

テレビ出演という「メインストリーム」への進出は、アンダーグラウンドを拠点としてきた漢にとって、ある意味での転換点でした。

しかしアルバム「ヒップホップ・ドリーム」は、そうした状況下でも、漢が自分のスタイルを変えなかったことを証明しています。過度に商業的にならず、かといって頑なに閉鎖的にもならず、ストレートなヒップホップアルバムを作り上げました。

「新宿ストリート・ドリーム」は、その姿勢を象徴する楽曲です。自分の原点である新宿のストリート、そしてそこで見た夢と現実を、変わらぬスタイルで歌い続ける。それがMC漢のリアルなのです。

客演集「ON THE WAY」からの流れ

アルバム「ヒップホップ・ドリーム」のリリース直前、2018年1月には客演集ミックスCD「ON THE WAY」がリリースされていました。

「ON THE WAY」は、漢がこれまで様々なアーティストの楽曲に客演として参加してきた楽曲を集めたものです。MSCのメンバーをはじめ、日本のヒップホップシーンの多彩なアーティストとのコラボレーションが収録されており、漢の多面的な魅力を示す作品となりました。

「ON THE WAY」で他のアーティストとの関係性を示し、「ヒップホップ・ドリーム」で自分自身の物語を語る。この二つの作品は、MC漢の2018年を代表する重要なリリースとなりました。

まとめ

「新宿ストリート・ドリーム (LIBRO Remix)」は、MC漢の人生とヒップホップへの思いを凝縮した楽曲の、LIBROによる再解釈です。

1978年に新潟で生まれ、新宿に移り住み、その街で育ちラッパーになった。マイク1本で頂点を目指すと決めた時から始まる、彼のヒップホップ・ドリーム。しかしそれは単純な成功物語ではなく、道を踏み外したかもしれないという葛藤、代償を払いながら進む現実的な物語でもあります。

2018年、「フリースタイルダンジョン」での活躍により全国的な知名度を得た後も、漢は自分のスタイルを変えませんでした。自伝と同名のアルバム「ヒップホップ・ドリーム」は、彼のリアルを貫く姿勢を示す作品となりました。

LIBROによるリミックスは、この重要な楽曲に新たな解釈を加え、アルバムに多様性をもたらしています。DJ BAKUのリミックスと共に、「新宿ストリート・ドリーム」がアルバムの核心であることを強調しています。

自伝を読み、アルバムを聴き、この楽曲の背景にある物語を知ることで、MC漢というラッパーの真の姿が見えてきます。新宿のストリートで育ち、ヒップホップという夢を追いかけ、現実と向き合いながら歩み続ける。その姿こそが、彼の「ヒップホップ・ドリーム」なのです。

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