はじめに
日本のヒップホップシーンにおいて、常に独自の道を歩み続けてきたAK-69。2016年2月24日にリリースされた「Flying B」は、単なるシングル作品を超えた、彼のキャリアにおける重要な転換点を象徴する記念すべき楽曲である。このシングルは、AK-69が自身で設立した事務所「Flying B Entertainment」からの第1弾リリース作品であり、まさに彼の「第2章」の幕開けを告げる作品として位置づけられている。
作品概要
基本情報
- リリース日: 2016年2月24日
- 形態: シングル(通常盤CD、初回限定盤CD+DVD)
- レーベル: Flying B Entertainment
- 発売元・販売元: ユニバーサルミュージック
- 収録曲数: 3曲
- 総収録時間: 11分26秒
- 品番: POCS-30005(通常盤)、POCS-39002(初回限定盤)
収録楽曲
- Flying B(表題曲)- 4分13秒
- We Don’t Stop feat. FAT JOE – 3分01秒
- Rolls-Royce, Diamonds, Bixxhes -REMIX- / BCDMG – 4分11秒
初回限定盤には特典DVDが付属し、「Flying B」のミュージックビデオをはじめ、「Beginning of Flying B」、メイキング映像、さらには「69’s prank show」といったボーナス映像まで収録された豪華仕様となっている。
楽曲の核心 – 「Flying B」に込められた意味
表題曲「Flying B」は、AK-69の音楽的哲学とライフスタイルが凝縮された、まさに彼らしい楽曲である。「B級から成り上がる」という意味を込めたこの楽曲は、「地べたから来た男」である彼自身の信念と決意を歌ったものだ。
楽曲の歌詞には、AK-69の人生観が色濃く反映されている。「恥と失敗こそが燃料、悔しさこそ飽きるほど味わう」という一節は、彼が歩んできた険しい道のりと、それを乗り越えてきた強い意志を表現している。この楽曲は、聴く者の闘志に火を付ける力強いメッセージを持ち、多くのリスナーに勇気を与える楽曲となっている。
Flying B Entertainment設立の意義
「Flying B」というタイトルは、楽曲名であると同時に、AK-69が2016年1月に設立した自身の事務所「Flying B Entertainment Inc.」の名前でもある。この事務所設立は、彼のキャリアにおいて極めて重要な意味を持っている。
AK-69は長年インディーズシーンで活動し、「インディペンデントである事」にこだわり続けてきたアーティストである。しかし、さらなる高みを目指すため、そして日本のヒップホップシーンをより広いフィールドに押し上げるために、自ら事務所を立ち上げるという「険しい道を敢えて選ぶ」決断を下した。
この決断について、AK-69自身は「現状維持ではなく1ミリの可能性だったとしてもステージを上げてもっとヒップホップを広げる第一人者になりたい、玉砕する可能性の方が全然高くてもそこに賭けたい」という想いで事務所を立ち上げたと語っている。まさに彼の楽曲に歌われる「険しい道を敢えて選ぶ」精神の体現である。
音楽的特徴とプロダクション
「Flying B」の楽曲は、クーリオの「Dangerous Minds」を思わせるメランコリックでありながらもポジティブなサウンドが特徴的だ。楽曲全体を通して流れるのは、困難な状況から這い上がろうとする強い意志と、決して諦めない精神力である。
プロダクション面では、ヒップホッププロデュースチーム「BCDMG」とのコラボ楽曲「Rolls-Royce, Diamonds, Bixxhes -REMIX-」も収録されており、多様な音楽的アプローチが1つのシングルに凝縮されている。MOITOによるリミックスも含め、楽曲の多面性を表現した構成となっている。
キャリアにおける位置づけ – 「第2章の幕開け」
「Flying B」は、AK-69のキャリアにおいて「第2章の幕開け」という重要な意味を持っている。彼は前作のアルバムで「成り上がりストーリーの第1幕を終わらせ」、このシングルから「また挑戦者として新章を迎える」と位置づけている。
この転換点は、単なる音楽的な変化ではなく、彼の人生哲学の発展でもある。インディーズからメジャーへ、そして自分の事務所設立へという流れの中で、常に新しい挑戦を続ける姿勢を示している。約1年半ぶりとなる待望のニューシングルでもあったこの作品は、ファンにとっても大きな意味を持つリリースとなった。
商業的成功と業界での評価
「Flying B」は商業的にも大きな成功を収めた。2016年のMTV Video Music Awards Japanでは「BEST HIP HOP VIDEO」を受賞し、楽曲だけでなくミュージックビデオとしても高い評価を獲得した。
この受賞は、AK-69の音楽性とビジュアル表現力の両方が認められた結果であり、日本のヒップホップシーンにおける彼の地位をさらに確固たるものにした。また、プロ野球選手の登場曲として多数使用されるなど、スポーツ界からの支持も継続して獲得している。
「Flying B」が描く世界観
楽曲「Flying B」の世界観は、単なる成功譚ではない。それは、失敗と挫折を繰り返しながらも決して諦めない人間の物語である。「目を見開け、ここなら戦場」という冒頭の歌詞から始まり、空の曇りや雨模様を人生の困難に例えながら、それでも飛び続ける意志を歌っている。
「B級から飛び立つ」というコンセプトは、決してエリートコースを歩んできたわけではない多くの人々の共感を呼ぶ。学歴や家柄に関係なく、自分の力で道を切り開いていこうとする全ての人へのエールとなっている。
音楽業界への影響
「Flying B」のリリースは、日本のヒップホップシーンに大きな影響を与えた。特に、自主レーベル設立という選択肢を示したことで、多くのアーティストに新たな可能性を提示した。また、Fat Joeとの国際的なコラボレーションは、日本のラッパーが世界と対等に渡り合えることを証明した象徴的な出来事となった。
さらに、このシングルは「地べたから這い上がる」というテーマを通じて、ヒップホップの本質である「ストリートからの声」を現代的な形で表現した作品として評価されている。
楽曲に込められたリリック一部引用解説
【Hook】
Hey yo 眼を見開け ここなら戦場 空は曇り 幾千の痛みは雨模様 Don’t wanna lose Count 3 (So we gotta stay fly) 地べたから来た男の背中には今 羽が (Fly now) 勝つのは我なり 負けを重ねたB級がFlying Bに
人生=戦場。苦しみや挫折(曇り空や雨模様)が絶えず降りかかる中でも、「地べたから来た」=下積み出身の自分に今は翼がある、と宣言。
“B級”と呼ばれ続けても、それをバネに“Flying B”へ進化したという自負が込められています。
【Verse 1】
おい聞いた?あいつは限界だとよ まさかのケツ割る展開 豪雨のMidnight 悲しめない 男にゃ要らねぇ二言と弁解
周囲に「限界だ」と言われても、言い訳はしない。ストリートの男に必要なのは結果と覚悟だけ。
恥と失敗こそが燃料 悔しさこそ呆れる程 味わうのがこの俺のやり方
恥や失敗を糧にして成長してきた、というAK-69のスタンス。
戦線離脱してく同志は夢の魔法が解けた とうに 少数でも立つ戦場に 死は覚悟だてこの通り
多くの仲間が夢を諦めて離脱していく中、死をも覚悟して立ち続ける自分の姿勢を強調。
【Verse 2】
オメーに笑いかける堕天使 いつでも襲いかかってくる邪念に負けんし 勝負に負けたとしても 己にゃ絶対に負けんし
内面的な葛藤(堕天使・邪念)との戦い。たとえ勝負に負けても、自分自身に負けなければ本当の敗北ではないという信念。
この無双の装備 まるで信長 切り捨てる媚び 孤高のシンフォニー
「戦国武将・織田信長」に自分を重ね、媚びず孤高に戦う姿を示す。
Flying Bの“B”は Ya know “B-Boy”, “Bad Boy”, “B級” That’s it
「B」は多重の意味を持つ。
- B-Boy:ヒップホップカルチャーに生きる者
- Bad Boy:型破りで反逆的な姿勢
- B級:格下扱いされた自分の原点
これら全てを背負って「Flying B」となる。
【Bridge / Outro】
散々B級扱い 泣き腫らす目 睨む未来 今こそ翼を背中に B級からFlying B
“B級扱いされ続けた悔し涙”を、未来への決意に変える瞬間を描いている。
ここで初めて「B級」からの逆転が「翼(自由・成功・飛翔)」に変換される。
総合解説
「Flying B」はAK-69の 自己証明ソング。
- 逆境や挫折を燃料に変える姿勢
- 仲間が脱落しても立ち続ける覚悟
- 媚びずに孤高を貫く武士道的精神
- “B級”から“Flying B”への逆転劇
これらが重なって、AK-69が 「名古屋のストリートから世界へ」 と羽ばたいた背景を物語っています。
「B級」というレッテルを逆にブランドへと昇華させた点は、ヒップホップの本質= 弱者からの逆転・自分の物語を誇る を体現しているとも言えます。
技術的な側面 – レコーディングとミキシング
「Flying B」のレコーディングは、AK-69の音楽的なこだわりが随所に現れた作品となっている。楽曲の持つ重厚感と同時に、ラップの明瞭さを保つバランスは、長年の経験と技術の蓄積の結果である。
特にビートとラップの絡み合いは絶妙で、楽曲全体を通して一切の無駄がない構成となっている。これは、AK-69が単なるラッパーではなく、総合的な音楽プロデューサーとしての能力を持っていることを示している。
後続作品への影響
「Flying B」で示された新たな方向性は、その後のAK-69の作品にも大きな影響を与えている。同年11月にリリースされたアルバム「DAWN」では、「Flying B」で打ち出した「新章」のテーマがさらに発展され、より壮大なスケールで表現されている。
また、Flying B Entertainmentというプラットフォームを通じて、他のアーティストとのコラボレーションや新人の育成にも積極的に取り組むようになり、日本のヒップホップシーン全体の発展に貢献している。
楽曲の普遍性と時代を超えた価値
リリースから8年以上が経過した現在でも、「Flying B」は色あせることのない価値を持っている。その理由は、楽曲に込められたメッセージが時代や環境を超えた普遍性を持っているからである。
経済格差の拡大や社会の流動性の低下が問題となっている現代において、「B級から飛び立つ」というメッセージはより一層重要性を増している。この楽曲は、時代を超えて多くの人々に勇気を与え続ける不朽の名作となっている。
結論
AK-69の「Flying B」は、単なるヒップホップ楽曲を超えた、現代日本の音楽史に残る重要な作品である。自主レーベル設立、国際的なコラボレーション、そして不屈の精神を歌った楽曲内容、これらすべてが組み合わさって、日本のヒップホップシーンに新たな地平を切り開いた。
この楽曲が示した「険しい道を敢えて選ぶ」という哲学は、AK-69個人のものにとどまらず、多くの人々に影響を与え続けている。音楽の力で人々を勇気づけ、社会に希望をもたらすという、アーティストの真の使命を体現した作品として、「Flying B」は永続的な価値を持ち続けるだろう。
AK-69の「第2章」の幕開けを告げたこの楽曲は、同時に日本のヒップホップシーンの新たな章の始まりでもあった。そして今なお、この楽曲に込められた精神は、新しい挑戦を続ける全ての人々の心に響き続けている。
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