2026年3月31日、福岡が生んだラッパーDADAが5年ぶりのソロアルバム『DADA』をリリースした。全28曲という圧倒的なボリュームで届けられたこの作品の中でも、特に聴き手の心を鷲掴みにする一曲が「gutsgear」だ。客演に迎えたのは、他ならぬ実の弟・taro(太郎忍者)。血を分けた兄弟が同じトラックに乗り、それぞれの言葉で野心と気迫をぶつけ合うこの楽曲は、アルバムの中でも異彩を放つ存在感を持っている。
まずDADAというアーティストを知るためには、その出生から語る必要がある。1999年生まれの福岡県福岡市野芥(のけ)出身。小学3年生のとき、父親が突然姿を消した。父がいた頃は金回りが良く、欲しいものは何でも買ってもらえた。しかし父親の蒸発により、生活は一変。毎日泣き続ける母親の姿を見て育ったDADAは、感情を表に出さないことを覚えていった。そんな少年が自分を解放する手段として選んだのが、ヒップホップだった。
中学3年生の頃、街を一人で歩いていたDADAは、電柱に貼られた「全身刺青だらけの日本人が真ん中に大きく映ってるフライヤー」を目にする。それがKOHHとの出会いだった。「日本語なのにA$AP Rockyと同じやん!」と衝撃を受けたその日から、DADAは曲を作り始めた。そして15歳のとき、小・中学校からの幼馴染たちとクルー「NokeyBoyz」を結成する。クルー名は地元・野芥(のけ)に由来するもので、メンバーはDADA、AZU、Qinceらで構成される。
家計を支えるために高校を中退したDADAは、それでも音楽を諦めなかった。その経験を赤裸々に綴った「High School Dropout」は2021年のリリース後にバイラルヒットを記録し、MVはYouTubeで1500万再生を突破するなど、DADAの名を日本のヒップホップシーンに轟かせることとなった。その後も2ndアルバム『Mine』、AZUとのコラボアルバム『Changes』と精力的にリリースを重ね、2026年、ついにセルフタイトル作品『DADA』をもって5年ぶりの本格的なソロ回帰を果たした。
「gutsgear」のトラックに乗せられた歌詞は、DADAのこれまでの生き様そのものだ。「口だけの奴にガッカリだ、くすぶってる奴ガッツが足りない」という強烈なフックが繰り返される構成は、聴く者の背筋を正すような強度がある。団地で育ち、常に上を目指してきた自分の姿、消えた父親への複雑な感情、仲間と共に這い上がってきた軌跡──それらすべてが凝縮されたリリックは、単なる自慢や虚勢ではなく、ひとつの証言として機能している。「雑魚は下を見てする安心、上を目指して飛ぶ団地で、響く鈍い音へこむコンクリート」という一節には、団地育ちのDADAのリアルな景色が見えるようだ。
そしてこの楽曲を特別なものにしているのが、弟・taroの存在だ。実弟である「taro(太郎忍者)」は2018年に楽曲「Pussy」でバイラルヒットを果たした人物であり、DADAは「最初は、自分が考えついたことであそこまでいくとは思っていなかったので太郎忍者も僕も、やっぱり俺にもできるんやって感じてたと思います」と振り返っている。その弟が、今や同じ舞台でフィーチャリングとして名を連ねている。兄が弟の才能に火をつけ、弟が兄に刺激を与え返す──NokeyBoyzの枠を超えた、家族という最小単位のクルーが生み出した一曲とも言えるだろう。
アルバム『DADA』のプロデューサーにはY-POLO、Rommy Montana、Koshy、Hashimoto、山岸竜之介らが参加しており、客演には同じNokeyBoyzのAZUとtaroが名を連ねている。「gutsgear」はアルバムの4曲目に収録されており、前後の楽曲の流れの中でもドライブ感と熱量が際立つポジションに置かれている。
「金ないやつは食えもやし、俺はブロッコリー燃やし」「高級車で263通り、ラップしてみんな食わす飯、他に出来ることもねーし」──笑いを含みながらも本気の言葉が続くこのトラックは、日本語ラップの醍醐味のひとつである「リアルな生活感とフレックス(自慢)の同居」を見事に体現している。Corvetteの納車を控え、クロムハーツを身につけながらも、その根っこには団地で育った少年の泥臭いハングリー精神が宿っている。
「gutsgear (feat. taro)」はDADAのライブセットリストにも組み込まれており、2026年5月から6月にかけて大阪・愛知・東京・福岡を巡る『DADA LIVE TOUR 2026』も決定している。ライブという生身の場でこの楽曲がどう鳴り響くのか、今から楽しみでならない。
「ガッツ」という言葉が示す通り、この曲はスキルや運ではなく、根性と気合で生き抜いてきた者たちの歌だ。しかしその根性は悲壮ではなく、むしろ清々しいほどにポジティブで前向きな熱を帯びている。「意味ないことしない、落ち着いてる暇じゃない、かっこついてく勝手に、俺らみたいなのそういない」──この言葉には、逆境を笑い飛ばしながらも確実に前へ進んでいく者の余裕と自信がある。
5年という時間をかけて熟成された感覚と、変わらないハングリーさ。DADAと実弟taroが共に作り上げた「gutsgear」は、2026年の日本語ラップシーンに刻まれるべき一曲だ。まだ聴いていない方はぜひ、今すぐ再生してほしい。



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