はじめに
2025年4月にリリースされた「Reload」は、約20年の沈黙を破ったPhobia Of Thugの復活作品として、日本のヒップホップシーンに大きな衝撃を与えた。名古屋のアンダーグラウンドヒップホップシーンを代表するこのデュオの復活は、多くのファンが長年待ち望んでいたものであった。
Phobia Of Thugとは
グループ概要
Phobia Of Thugは1995年に結成され、Mr.OZとG.CUEからなる、名古屋を拠点に活動するヒップホップグループである。グループ名の「Phobia Of Thug」(サグへの恐怖症)は、ギャングスタラップへの強いこだわりと姿勢を表している。
活動歴
2005年にリリースされたファーストアルバム『Hydrophobia』には、シングル「DA WAY 2 DIE」や「CLICK DA TRIGGER」などが収録されており、BIG RON、II-J、來々、DS455のKayzabro、Ganxsta DX、LA BONOといったアーティストが参加している。その後、約20年間の長い沈黙期間を経て、2025年に「Reload」での再始動を果たした。
メンバー紹介
Mr.OZ(ミスター・オージー)
1993年よりヒップホップアーティスト・ラッパーとして活動を始め、DJ MOTO氏を師事し、1996年ヒップホップグループPHOBIA OF THUGを結成。その体から生み出される声は時に低く、時に高く、ハードコアバンドのボーカルもたじろぐほど激しく独特であると評される。
また、1998年 GANG TERRORIST PRODUCTION を設立し、以降 a.k.a.(またの名を)BIGGMACと名乗り数々のアーティストのCDジャケットデザイン・アートワーク、音楽プロデュース、テレビ番組、イベント等を手がけるなど、多方面での活動を展開している。
G.CUE(ジー・キュー)
1994年ラッパーとして活動を始め、DJ MOTOが立ち上げたDIAMOND CREWに所属。MC LONE、MC FATS、DJ 4-SIDEと名古屋ギャングスタ・ラップの礎、G-MENACEを結成。MC LONEの脱退後、MR.OZが加わり、95年にPHOBIA OF THUGを結成した。
また、名古屋のHIPHOPシーンを代表するラッパーでありながら、大須でアパレルショップ『ASIAN-P』を経営するなど、実業家としての顔も持っている。
楽曲「Reload」の分析
基本情報
- リリース日: 2025年4月
- 作詞: Mr.OZ, G.CUE
- 作曲・プロデュース: RIMAZI
- レコーディング: 鷹の目, RIMAZI
- ミキシング・マスタリング: Masao”swing”Okamoto
プロダクション
楽曲のプロデュースを手がけたRIMAZIは、AK-69の楽曲制作でも知られるプロデューサーであり、Flying B Studio で制作された。Produced & Recorded by RIMAZI at Flying B Studioという体制で制作されており、現代的なプロダクション技術と伝統的なギャングスタラップのサウンドが融合している。
サウンドの特徴
楽曲タイトル「Reload」が示すように、銃器をモチーフにしたハードコアなギャングスタラップサウンドが展開される。楽曲全体を通して「Reload Bullet Click」というフレーズが反復されることで、緊張感と威圧感を演出している。
リリックのテーマ性
楽曲のリリックは、ストリートでの生き様、悪名への自負、そして20年の沈黙を破って復活することへの決意が込められている。特に冒頭の「悪名ってのは またこれか 飽きずに繰り返す 敵は無しだ」という部分では、長年築き上げてきた自分たちの立ち位置への誇りと自信が表現されている。
名古屋ヒップホップシーンにおける意義
シーンの歴史的文脈
Phobia Of Thugは、AK-69が17歳の時に、バイト先の先輩だったG.CUEに誘われて、名古屋のクラブに行き、そこで初めて観たHIPHOPライブが「Phobia of Thug(フォビア・オブ・サグ)」のライブだったという逸話があるように、名古屋のヒップホップシーンの礎を築いた存在である。
AK-69は、当時のMr.OZ(ミスター・オージー)たちを見て、「めちゃくちゃでかい人と小さいめちゃくちゃ怖い人で、なんじゃこりゃ!?って感じで、絵に描いたような絵図で、Phobia of Thugのカッコ良さに衝撃を受けた」と語っており、多くの後進アーティストに影響を与えた。
WEST COAST CONNECTION(W.C.C.)との関係
今やその名を全国に轟かすWEST COAST CONNECTION(W.C.C.)、GANG TERRORIST PRODUCTION(G.T.P.)が立ち上がり、オリジナルメンバーとして所属しており、名古屋の大きなヒップホップムーブメントの中心的存在として機能してきた。
復活の意義と現代への影響
20年の空白期間
2005年のアルバム『Hydrophobia』以降、約20年間という長い沈黙期間があったPhobia Of Thugの復活は、日本のヒップホップシーンにとって歴史的な出来事といえる。この間に日本のヒップホップシーンは大きく変化し、よりメインストリーム寄りの楽曲が主流となっていた。
ギャングスタラップの再評価
「Reload」の登場は、原点回帰としてのギャングスタラップの価値を再確認させる作品となっている。現代のトラップやメロディアスなヒップホップが主流となる中で、Phobia Of Thugが提示するハードコアなギャングスタラップは、日本のヒップホップの多様性を示している。
技術的進歩とのバランス
RIMAZIによる現代的なプロダクション技術と、Phobia Of Thugの伝統的なギャングスタラップスタイルの組み合わせは、過去と現在を繋ぐ橋渡し的な役割を果たしている。これは単なるノスタルジーではなく、クラシックなスタイルの現代的な解釈として評価できる。
チャート成績と反響
iTunes Store • ヒップホップ/ラップ トップソング • 日本 • 20位 • 2025年4月20日という成績を記録し、約20年ぶりの復活作としては注目すべき結果を残している。また、Apple Music • 78 musi-curate TuneCore Japan zone • 2025年4月30日やSpotify • New Music Everyday – tuneTracks (curated by TuneCore Japan) • 2025年4月21日などの各種プレイリストにも選出されている。
まとめ
「Reload」は、Phobia Of Thugというレジェンドの復活を告げる重要な作品である。20年という長い沈黙を破って放たれたこの楽曲は、日本のギャングスタラップの原点を再確認させると同時に、現代のヒップホップシーンにおけるその価値を再定義している。
Mr.OZとG.CUEという二人のベテランMCが、RIMAZIの現代的なプロダクションと共に創り上げた「Reload」は、過去の栄光に甘んじることなく、現在のシーンに対しても強烈なインパクトを与える作品として完成している。
名古屋のヒップホップシーンの歴史を知る者にとって、この復活は感慨深いものがあり、同時に新しい世代のリスナーにとっては、日本のギャングスタラップの真髄を知る貴重な機会となるであろう。Phobia Of Thugの「Reload」は、日本のヒップホップの多様性と深度を示す重要な作品として、長く記憶されるに違いない。
コメント