Watson – 「ペンとノート」: 等身大の想いを綴る

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イントロダクション

2023年10月31日、徳島県出身のラッパーWatsonが放った楽曲「ペンとノート」は、日本のヒップホップシーンに新たな風を吹かせた。この楽曲は、彼の1stフルアルバム『Soul Quake』(2023年12月6日リリース)の14曲目に収録され、アルバムからの最後のシングルカットとして先行配信された。タイトルが示すように、リリックを書く道具そのものを歌った本作は、Watsonの音楽的哲学と人生観を最も直接的に表現した代表作の一つとなっている。

Watson: 徳島から全国へ駆け上がった新星

アーティストの背景

Watson(本名:ワトソン、2000年2月22日生まれ)は、徳島県小松島市出身のラッパーである。16歳の時に職場で考えた一発ギャグ「大怪獣ワトソン」が名前の由来という、彼らしいユーモラスなエピソードから始まったラッパー人生は、わずか数年で日本のヒップホップシーンの最前線に躍り出ることとなった。

ヒップホップとの出会いは「カラオケで友達が歌っていた」AK-69がきっかけだったが、当初はGReeeNやUVERworldといったJ-POPを好んで聴いていた。18歳で大阪に移住し、馴染みの彫り師のタトゥースタジオに併設されたレコーディングスタジオをきっかけに本格的にラップを始めるようになった。

音楽的特徴とスタイル

Watsonの大きな特徴は、トラップ、ドリルのビートに対して、3連フローやメロディアスなアプローチではなく、グライムやドリルの流れをくむ倍速ラップをたたみ掛けるスタイルにある。2022年3月にリリースしたミックステープ『FR FR』は、つやちゃんから「スキルフルで独創的でありながらも模倣を促すようなチープを感じるラップ」と高く評価され、「KOHH が『YELLOW T△PE』とともに現れた2012年以来、約10年ぶりにゲーム・チェンジャーとして抜本的にルールを変える力を秘めている」と論じられた。

「ペンとノート」: 楽曲の詳細分析

リリース背景とタイミング

本作は、10月21日にリリースされたJin Dogg「HAHAHA (feat. WATSON)」でのアグレッシブなスピットも記憶に新しいWatsonのニューシングルとして配信された。楽曲の配信に先駆けて、10月27日に映像制作チーム・DexFilmzが手がけたMVが公開され、さらに磨きをかけたラップスキルと新境地とも言えるメロウなムードがヘッズの間で話題を呼んだ。

プロダクション詳細

楽曲の作詞はWatson、作曲はKoshy/Azが担当し、再生時間は2分29秒となっている。『Soul Quake』アルバム全体は、千葉雄喜「チーム友達」を手掛けたKoshyが全曲のサウンドプロデュースを担当しており、「ペンとノート」もこのコンビネーションによる作品である。

チャート成績と評価

「ペンとノート」は、iTunes Store ヒップホップ/ラップ トップソングで日本28位(2023年11月1日)、Apple Music ヒップホップ/ラップ トップソングで日本92位(2023年11月5日)を記録した。また、Apple Music「最新ソング:J-ヒップホップ」、Spotify「The Pulse of J-Rap」「FNMNL」「Weekly Buzz Tokyo」など、多数のプレイリストに選出され、業界からも高い評価を獲得した。

リリックの世界観:等身大の描写とリアリティ

Watsonのリリック哲学

Watsonのラップスタイルは、自分に忠実でいることにこだわりを持ち、リアルなリリックで表現されている。本人曰く、「無理にカッコ付けたこと歌っとっても言うことなくなってくる。自然と身の回りのこと歌うしかなくなる。」という姿勢で楽曲制作に臨んでいる。

また、ラッパーZORNとKOHHに大きく影響を受けていて、ZORNの「リリックは好きなことを書けばいい」という言葉を大事に、大きく見せない等身大の自分を表現している。

身の回りの人物描写

Watsonの歌詞に「カーチャン」「にいに」など自分の身の回りの人物がよく登場することも、ZORNの影響と考えられる。実際に、彼のリリックには身の回りのあらゆることが散りばめられており、平田みずの彼氏、前の会社の社長、パパ、早川こうた、元カノ、ギャルなど、様々な人物が登場する。

「ペンとノート」の楽曲的意義

アルバム『Soul Quake』における位置づけ

アルバム『Soul Quake』は、ANARCHY、C.O.S.A.、IO、Jin Dogg、DADA、¥ellow Bucks、eyden、Leon Fanourakisといった各地を代表する豪華ゲストに加え、地元の盟友Lucy、Neroも迎えた全16曲の超大作となっている。その中で「ペンとノート」は、客演を迎えずWatson一人で歌い上げる楽曲として、彼の内面世界を最も直接的に表現した作品となっている。

ライブパフォーマンスでの反響

2024年3月27日に東京・Spotify O-EASTで開催されたキャリア初のワンマンライブ『ONE-MAN LIVE “Soul Quake”』では、「ペンとノート」が22曲目に演奏され、「まさにそんな彼の人間味が表れているように感じる」楽曲として観客の心を打った。

新境地としての評価

「ペンとノート」は、自身の境遇や心の奥底に潜む思いを赤裸々に綴ったリリックと、エモーショナルなドリルビートが噛み合い、リスナーの魂を揺さぶる一曲として評価されている。これまでのアグレッシブなスタイルとは異なる、新境地とも言えるメロウなムードを見せた作品として注目を集めた。

現代日本ヒップホップにおける位置

Watson系の影響力

2023年の日本語ラップシーンにおいては、Watsonのフローに影響を受けた「Watson系」のラッパーが多く現れるほど、彼の音楽的影響力は絶大である。「ペンとノート」のような等身大のリリックを重視するスタイルは、多くの若手ラッパーに影響を与えている。

地方発信の成功例

徳島県という地方出身でありながら、RedBullマイクリレー「RASEN」に出演し、03-performanceの最初の出演者に抜擢されるなど、全国的な注目を集めているWatsonの成功は、地方のアーティストにとって大きな希望となっている。

未来への展望

2025年7月26日には徳島最大級のアリーナ「アスティとくしま」にて凱旋単独公演Watson ONE MAN LIVE “TOKUSHIMA”の開催が予定されており、地元への恩返しとして注目されている。

プロダクション面での評価

Koshyとのコラボレーション

マスタリングエンジニアにMetropolis StudiosのStuart Hawkesを起用し、UKマナーを取り入れた音響面でのクオリティも高く評価されている。Koshyとのコンビネーションは、Watsonの特徴的な声質とフローを最大限に活かすサウンドデザインを実現している。

ドリルビートとの融合

「ペンとノート」は、赤裸々に綴ったリリックとエモーショナルなドリルビートがマッチした魂を揺さぶる一曲として制作されており、現代的なドリルサウンドと彼の内省的なリリックが絶妙にバランスされている。

まとめ

「ペンとノート」は、Watson というアーティストの本質を最も直接的に表現した楽曲として、日本のヒップホップシーンにおいて重要な位置を占めている。文房具という身近なアイテムをテーマにしながら、ラッパーとしての成長、家族への思い、地元愛、そして未来への希望を込めた本作は、リスナーの心に深く響く作品となっている。

2023年のインタビューでは前日にベンツのAMGを購入した旨を語るなど、金銭的な成功を手にしたWatsonだが、「ペンとノート」で示された等身大の姿勢は変わることなく、これからも多くのリスナーに愛され続けることだろう。

徳島から全国へ、そして世界へ——Watsonの挑戦は始まったばかりである。「ペンとノート」は、その挑戦の記録であり、同時に新たなスタートラインでもあるのだ。


楽曲情報

  • タイトル: ペンとノート
  • アーティスト: Watson
  • リリース日: 2023年10月31日(シングル)/ 2023年12月6日(アルバム『Soul Quake』)
  • 作詞: Watson
  • 作曲: Koshy/Az
  • 再生時間: 2分29秒
  • 配信: 各種ストリーミングサービスにて配信中

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