日本ヒップホップ界の精鋭4人が集結した「WAVEBODY (Remix)」は、JP THE WAVYが2021年にリリースした注目の楽曲だ。オリジナル版にOZworld、LEX、そして¥ellow Bucksを新たに迎えたこのリミックスは、「今年のコラボレーション候補」と称され、WAVY TAPE 2デラックス版の目玉楽曲となった。
楽曲の背景と制作秘話
楽曲のプロダクションはBankroll Got Itが手掛け、2000年代初頭のアトランタ発のベースヘビーなプロダクション、特にクランクからインスパイアされている。この選択は、現代の日本ヒップホップが海外のサウンドを巧みに取り入れながらも、独自の進化を遂げていることを象徴している。
ミュージックビデオはMESSとWAVY FRIENDSが監督を務め、4人が お揃いのベースボールジャージを着用し、子ども版の彼らも登場するという愛らしい演出が話題となった。興味深いことに、このビデオのコンセプトはデスティニーズ・チャイルドの「Bootylicious」リミックス featuring ミッシー・エリオットを彷彿とさせるという指摘もあり、ノスタルジックな要素も含んでいる。
参加アーティストたちの魅力
JP THE WAVY – 湘南発の革新的ラッパー
1993年12月15日生まれ、神奈川県湘南出身のJP THE WAVYは、新ジャンルな音楽性とハイセンスなファッションで国内外問わず注目を集めるラッパーだ。ダンサーとして活動後、2017年5月にMVを公開した「Cho Wavy De Gomenne」が記録的なバイラルヒットとなり、SALUを迎えた同曲のRemixはYouTubeで現在約2,000万再生を記録している。
2021年『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』のオリジナル・サウンドトラックに参加し、GQ JAPANが主催するGQ MEN OF THE YEAR 2021にて、「メン・オブ・ザ・イヤー・ベスト・ラップ・アーティスト賞」を受賞した。彼の音楽は、英語が分からない小さい時からずっと洋楽を聴いていた影響から最初に重視するのは聴こえ方であり、言語の壁を超えたグローバルなアプローチが特徴的だ。
OZworld – 沖縄が生んだ神秘的な世界観
1997年11月17日、沖縄県嘉手納町で誕生したOZworld(オズワールド)は、高校生ラップ選手権やフリースタイルダンジョンなど人気番組でその実力が認められてきたラッパーだ。ファーストアルバム「OZWORLD」でアーティスト名をR’kuma(レオクマ)からOZworld(オズワルド)と改め、その独特な世界観の表現を深めてきた。
「R’kuma」という名義がバトルラップと結びつきすぎていることに悩んだ彼は、2018年2月に「畳 -Tatami-」をリリースしたタイミングで名義を「OZworld」に変更する。この前は突如思いついたものであったという。OZworldは足にハンディキャップを抱えており、「生まれつき下半身の感覚がなく、今歩けていることが奇跡」と語っている。この体験が彼の楽曲に深い精神性をもたらしている。
LEX – 次世代を代表する若き天才
2002年5月1日生まれ、神奈川県湘南地域出身のLEXは、天性のメロウボイスと、攻撃的な楽曲とのギャップ、感情むき出しのリリックがユース世代を中心に熱狂的な支持を得ている。14歳からSoundCloudに楽曲をアップロードしはじめ、2019年4月、16歳のときにファースト・アルバム「LEX DAY GAMES 4」で衝撃的なデビューを果たした。
LEXの楽曲は「英語にちゃんぽんされている日本語含め、海外の人が聞いても、この曲って英語も聞こえてくるけど別の言語も少し入ってるよね、くらいの感覚で聞ける」ものであり、「USメインストリーム的な音」で勝負していると評価されている。2021年にはGQ Men Of The YearのBest Breakthrough Artistを受賞するなどその活動が高い評価を受けた。
¥ellow Bucks – 東海が誇るヤングトウカイテイオー
1996年8月5日生まれ、岐阜県高山市出身の¥ellow Bucks(本名:坂口 和)は、ラップスタア誕生シーズン3の優勝者で、別名ヤングトウカイテイオーとして知られる。¥ellowは日本人などの黄色人種を意味するYellowと「お金を稼ぐ」という意味のBucksという単語を繋げて作ったそうで、YellowのYの字を¥に変えることで、よりお金を稼げるラッパーになりたいという意思を明確にしている。
高校を卒業すると、居酒屋バイトで貯めた70万円を元手に単身でニューヨークに渡米して現地のラッパーやDJと親交を深め、本場のイベントにも多く出演した。この経験が彼のラップスタイルに本場仕込みの要素を加えている。2019年には「ラップスタア誕生」のシーズン3に出演し、ANARCHYをして「たまらない」と評された地元愛、自分のフッドを見事に表現したリリックで優勝を果たした。
楽曲の音楽的特徴
「WAVEBODY (Remix)」は、4人それぞれの個性が際立つ構成となっている。JP THE WAVYの洗練されたフロウ、OZworldの神秘的な世界観、LEXの革新的な言語感覚、そして¥ellow Bucksの地に足のついたリアルなリリックが見事に調和している。
楽曲のタイトル「WAVEBODY」は、JP THE WAVYの代名詞でもある「WAVY」の概念を体現したもので、音楽に身を委ねる状態や、流れに乗る感覚を表現している。リミックス版では、この概念が4人の異なる解釈によって多層的に展開される。
日本ヒップホップシーンにおける意義
この楽曲は、現在の日本ヒップホップシーンの多様性と成熟度を象徴する作品として位置づけられる。湘南、沖縄、東海という異なる地域出身のアーティストが集結し、それぞれの地域性を保ちながらも普遍的な音楽を創造している点は特筆すべきだろう。
また、世代的にも20代前半から20代後半という若手の中心世代が結集していることで、日本ヒップホップの次世代を担う人材たちの連帯感も感じられる。彼らはそれぞれが異なるルートでシーンに登場し(バイラルヒット、MCバトル、オーディション番組、SoundCloud等)、多様化する音楽の入り口を体現している。
まとめ
「WAVEBODY (Remix)」は、JP THE WAVYが日本最高峰のラッパーたちを集めた豪華絢爛なコラボレーション楽曲として、2021年の日本ヒップホップシーンを代表する一曲となった。それぞれが持つ独自の魅力を損なうことなく、一つの作品として昇華させた手腕は見事としか言いようがない。
この楽曲は単なるコラボレーションを超えて、現在の日本ヒップホップが到達した多様性と質の高さを証明する重要な作品として、長く語り継がれることだろう。4人の才能が交差する瞬間を捉えたこの楽曲は、日本ヒップホップの新しい可能性を示すマイルストーンとなっている。
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