新たにリリースしたミュージックビデオ「Westside Function」は、監督にSovietを迎え、ロサンゼルス各地を舞台に撮影されたもので、高エネルギーな雰囲気と飾り気のないストリートの存在感をスクリーンに映し出したWest coastのアンセムとして、すでにシーンの注目を集めている。
まずBishop Snowというアーティストを知らない方のために、その背景から紹介しよう。砂漠の小さな町・トゥエンティナインパームズで生まれ、生後3ヶ月でカリフォルニア州オーシャンサイドに移住。それ以来、オーシャンサイドが彼の故郷となっている。オーシャンサイドはサンディエゴ郡の北部に位置する沿岸都市で、ヒップホップとの結びつきが強いカルチャーを持つ地域だ。Bishop Snowはそのコミュニティの空気を全身で吸収しながら育ち、やがてその文化を音楽として世界に発信する存在になっていく。
音楽との出会いは幼少期から始まっており、母親のDeborahが80年代のポップやロックの大ファンで、自身もボーカルを学び80年代にグループとツアーを行っていた経験を持つ。その影響でBishop Snowは幼い頃から様々な音楽に触れて育った。母親から受け継いだ音楽への愛が、やがてウェストコーストヒップホップという形で花開くことになる。
2021年11月にソーシャルメディアへの音楽投稿を本格的に開始し、そこから急速に活動を拡大させてきたBishop Snow。2022年のデビューアルバム「Bury Me A G」と「Lord, Forgive Me」を皮切りに、驚異的なペースで作品をリリースし続けている。その制作スピードもさることながら、注目すべきはサウンドの質と方向性だ。
彼のヒップホップはノスタルジーに満ちているが、同時に驚くほどフレッシュだ。カリフォルニアゴールドのように純粋なウェストコーストサウンドとの一致がそれを証明している。単に文化を外側から観察するラッパーではなく、その文化の中に深く根ざし、確実に形成された人物として音楽を生み出している。
サウンドの変遷も興味深い。同じオーシャンサイド出身のラッパー、Dezzy Hollowからのアドバイスがターニングポイントとなった。「見せた音楽に対して、G-funkをやるべきだとアドバイスをもらった」とSnow自身が語っており、そこからDr.Dreの作品を彷彿とさせるG-funkサウンドに深く傾倒していくことになる。「選んだビートはDeath Rowのビートに近いものだった」とも振り返っている。
その結果として生まれたのが、デス・ロウ・レコード期のサウンドをそのまま引き抜いてきたような本格派ウェストコーストサウンドであり、ボーカルデリバリーはIce Cubeを彷彿とさせると評される作風だ。 「Westside Function」もまさにその延長線上にある一曲で、うねるようなシンセラインと重低音のベース、そしてBishop Snowの落ち着いたフロウが絡み合い、ロサンゼルスの路上を走るローライダーが自然と脳裏に浮かぶような映像的なグルーヴを生み出している。
現在インスタグラムのフォロワーが35万人超にまで達しているBishop Snowの成長を支えたのは、単なる音楽の質だけではない。その背景にはオーシャンサイドのコミュニティとの強いつながりがある。彼のマネジメントを担うMadStrangeは、Ximenez兄弟のAndresとDanielが2014年にオーシャンサイドで設立した独立系レーベルであり、アーティストが地に足のついたファンベースを有機的に育てることを哲学の中心に置いている。AndresからMadStrangeのモデルとして声がかかり、音楽をどこまで本気でやりたいかと問われたSnowは「最高の一人になりたい」と答えた。兄弟たちは彼のために洋服屋の裏にスタジオを作り、プロデューサーとの繋ぎやSNSでのセルフプロモーションの方法を教えた。
この「Westside Function」のMVも、そうしたコミュニティとの連帯感が随所ににじみ出ている。ロサンゼルス各地でロケされた映像には、仲間たちとの温度感あるシーンが詰め込まれており、ただカッコいいだけでなく人間味が感じられる。それこそがBishop Snowの大きな魅力の一つだろう。彼の楽曲やMVの背景には、カーミート、バックヤードパーティ、キックバックの光景が広がっており、その世界の中に自らの物語を設定することで、厳しいリアルな世界と家族という柔らかな視点を合わせ持つ多面的な人物像を表現している。
個人的な動機も彼の音楽に深みを与えている。息子のGiovanniの存在が活動の大きな柱であり、「Gioは俺がこれをやっている大きな理由の一つで、彼が大きくなったとき安定していられるようにしたい」と語っている。また、音楽のキャリアを通じて母親をオーシャンサイドに呼び戻すことも究極の目標の一つだと話している。
2022年のデビューから現在に至るまで、2024年のアルバム「Mission Ave II」、2025年のシングル「Too Legit」やEP「Addicted To The Game」など、次々と作品を発表し続けながらBishop Snowはその歩みを止めない。「Westside Function」はその流れの中に位置する最新の一手であり、これまでのサウンドの到達点を示しながら、さらなる高みへの意欲を感じさせる。
90年代ウェストコーストヒップホップを愛するすべてのリスナーにとって、Bishop Snowは必ずチェックすべき名前だ。「Westside Function」から入って、そのまま過去作品を遡っても絶対に損はしない。カリフォルニアの太陽とストリートが同居するそのサウンドは、聴けば一発でその世界に連れていってくれるはずだ。


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