まず、この曲について知っておくべきこと
**「Lowrider」**は、カリフォルニア・サンタバーバラ出身のラッパー Sadboy Loko(本名:Mario Hernandez-Pacheco)が、Soloer と Blss をフィーチャーして制作したオフィシャルビデオ楽曲だ。
注目すべきは、このトラックのプロデューサーが Blss 本人だという点。ラッパーとしてマイクを握りながら、ビートも自ら手がけるというマルチな才能が、この曲の一体感を生み出している。映像(Official Video)は Ernesto Kleps がフィルム。公開はつい最近のことで、Sadboy Loko 本人のInstagramには「DESDE MORRO 💿 Y EL LOWRIDER VIDEO」という投稿があり、新作アルバム「DESDE MORRO」との関連も匂わせている。
Sadboy Loko という人間
Sadboy Loko(Mario Hernandez-Pacheco)は1989年生まれ、カリフォルニア州サンタバーバラ育ち。両親はメキシコのグアナフアト州とシナロア州クリアカン出身であり、チカーノ文化・メキシカン文化の両方が彼の血と音楽に流れている。
彼のキャリアを語る上で欠かせないのが「日本」との縁だ。DUBショーでのパフォーマンスを日本の音楽関係者に発掘され、東京・大阪をツアーするほどの人気を獲得した。当時、チカーノカルチャーやローライダー美学は日本でも熱狂的なファンを持ち、Sadboy 自身も「日本はロサンゼルスよりも俺たちのカルチャーに染まっている」と語っていた。
その後、2015年にYGの4Hunnid Recordsと契約。「Gang Signs」は6700万回以上再生され、「Bruisin’」ではYGとSlim 400とコラボ、3600万回以上再生されたという輝かしい実績を持つ。
しかし山あり谷あり——2018年から2020年にかけて約2年間の収監期間を経験。最終的に殺人未遂や強盗などの重大容疑を回避したが、その時間を彼は音楽制作と自己研鑽に費やした。出所後は「マイナーなつまずきからのメジャーな復活」と自ら表現し、新たな章を切り開いてきた。
Blss と Soloer ── この曲を支える2人
Blss は今回のトラックのプロデューサー兼フィーチャリングアーティスト。西海岸チカーノシーンで活動するアーティストであり、Soloer との「Advertencia」など複数のコラボ作品でも知られる。プロデューサーとラッパーを兼ねることで、ビートとライムの一体感が他にない深みを生んでいる。
Soloer はフィリピン発とも言われるチカーノシーンとも交差する独自の立ち位置を持つアーティストで、Apple MusicのディスコグラフィにはSadboy Lokoとの「Lowrider」を筆頭に、La Costa Oeste Bandidaや様々なチカーノラッパーとのコラボが並ぶ。そのスムースな存在感はこの曲の空気感を大きく左右している。
「ローライダー」という文化のシンボル
「Lowrider」というタイトルは、チカーノ文化においては単なる車の種類を指す言葉ではない。それはアイデンティティ、誇り、そして抵抗の象徴だ。
1940〜50年代のアメリカで、メキシコ系アメリカ人たちは主流社会に「急がない、急げない」と主張するかのように車体を限界まで低く改造し、街をゆっくりと流した。クロームをピカピカに磨き上げたボディ、ハイドローリクスでリズムを刻むシャシー、精緻な手描きのグラフィック——それはコミュニティとしての誇りであり、アートとしての自己表現だった。
Sadboy Loko はそのシーンを地で生きてきた人物だ。日本公演の縁もDUBショー(カーカルチャーイベント)がきっかけだったように、ローライダーと彼の音楽は切っても切れない関係にある。
サウンドとMV:深夜のストリートに溶け込む映像美
プロデューサーのBlssが手がけたビートは、重低音のベースラインと漂うようなメロディが絡み合い、深夜にローライダーで流すためのBPMとも言えるスローでグルーヴィーな質感を持つ。G-ファンクの遺伝子と現代のチルなアトモスフィアが融合した、どこか懐かしくも今らしいプロダクションだ。
映像監督のErnesto Klepsのカメラワークは、カリフォルニアの夜の光と影をリアルに切り取ることで定評がある。Sadboy Lokoのインスタグラムキャプションにある「DESDE MORRO(幼い頃から)」という言葉が示すように、このビデオはそのままひとつの記憶、ひとつの証言として機能している。
なぜ今、この曲なのか
出所後も着実にリリースを重ねてきたSadboy Lokoが、Blssという気鋭のプロデューサー兼アーティストと、Soloerという信頼の置けるコラボレーターと共に作り上げた「Lowrider」は、彼のディスコグラフィの中でも特別な意味を持つ一枚になりそうだ。
「DESDE MORRO」というアルバムタイトルが示唆するように、この曲はおそらく原点への回帰を語っている。ローライダーとは、どれだけ時代が変わっても変わらない「自分たちの流儀」の象徴。速くも激しくもなく、ただ誇りを持ってゆっくりと流す——その精神そのものがこの曲に宿っている。
まとめ
Sadboy Loko「Lowrider」ft. Soloer & Blssは、チカーノカルチャーの美学と現代ウエストコーストラップの感性が交差する場所に生まれた楽曲だ。Blssによる重厚なプロダクション、Soloerの存在感あるフロウ、そしてSadboy Loko自身の喪失と誇りが染み込んだライム——それらが一体となって、一枚の夜景画のような完成度を見せている。
サンタバーバラの夜道を、ローライダーと一緒にゆっくりと流してみてほしい。きっとこの曲の本当の意味が、身体で分かる瞬間がある。



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