DADA & AZU「Changes」

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はじめに

2022年7月30日、福岡・野芥を拠点とする幼馴染のラッパーデュオ、DADA & AZUが待望のダブルネームアルバム『Changes』をリリースした。そのオープニングを飾り、アルバムタイトルにもなっている楽曲「Changes」は、2人の内面的な葛藤と変化への願いを赤裸々に描いた、作品全体の核心となる重要な一曲だ。

タイトルの「Changes(変化)」という言葉には、成功を掴みつつある若きラッパーたちが直面する自己との闘い、そして変わらなければならないという強い意志が込められている。

アルバムのオープニングトラックとしての意味

「Changes」は、全12曲で構成されるアルバムの1曲目に配置された楽曲だ。アルバム全体のテーマと方向性を示すオープニングトラックとして、この曲は極めて重要な役割を担っている。

成功への道のりで直面する内面的な苦悩、自己否定、鬱との闘い、そして変化への願望——これらすべてが冒頭で提示されることで、アルバム『Changes』全体の物語が動き出す。

プロデューサー:10pm

楽曲のプロデュースを手がけたのは、Young CocoやOnly Uの楽曲を手がけてきた若手実力派プロデューサー・10pm。アルバム『Changes』において、10pmは「Changes」「Typhoon (feat. DAB)」「Dawn」「Hug」「災い」の5曲でプロデュースを担当しており、作品の中心的な役割を果たしている。

10pmの作り出すエモーショナルでメロディアスなビートは、DADAとAZUの内省的なリリックを完璧に引き立てている。特に「Changes」では、ダークで重厚なサウンドスケープが、2人の苦悩と葛藤を音楽的に表現している。

楽曲のテーマと世界観

自己否定と鬱との闘い

「Changes」の核心にあるのは、激しい自己否定と鬱との闘いだ。楽曲は自分自身を愛せない苦しみ、鏡に映る自分を受け入れられない葛藤から始まる。

成功を掴みつつある一方で、精神的な充足感を得られない矛盾。周囲から見れば順風満帆に見える人生の裏側で、激しい自己嫌悪と戦っている姿がリアルに描かれている。

「Change my life」への願い

繰り返される「Change my life まだ歌う」というフレーズは、この曲の中心的なメッセージだ。自分の人生を変えたい、今の状況から抜け出したいという強い願望と、それでも音楽を続けるという決意が表現されている。

成功の虚しさ

「血を吐く思いで歌ってた 俺だけが幸せと思ってた 家族泣かしても俺はやってた 自分が望むステージに立ってた」というリリックは、音楽活動に打ち込む過程で周囲を犠牲にしてきた後悔を表している。

さらに「だけど俺は自分のためやってない なら誰のために俺はやってた?」という問いかけは、成功を掴んだ後に直面する存在意義の喪失を描いている。目標を達成した後の虚無感——これは多くのアーティストが経験する普遍的な問題だ。

仲間の存在と救い

しかし、この曲は絶望だけで終わらない。「言葉を交わせば 俺たちは分かり合える 何故だか愛してない自分のことも 好きになる」というラインには、仲間との対話を通じて自分を受け入れられるようになる希望が示されている。

「それでも壊して夜は死ぬ思いをして それでも生きてる俺たちは生きてる」という力強い宣言は、苦しみの中でも生き続ける決意を表している。

変化の兆し

楽曲の後半では「けど俺も1人じゃないし 前までとは違う毎日を手に入れたよ 友達と一緒なんだ今も」という前向きなメッセージが登場する。孤独ではなく、仲間と共にいることの意味。それが自己変革への第一歩となる。

「桁違いの年収」という経済的成功への言及もあるが、それは単なる自慢ではなく、変化の一部として描かれている。

DADAとAZUの関係性

幼馴染だからこその深さ

DADAとAZUは小・中学校時代からの幼馴染であり、15歳の時に共にNokeyBoyzを結成した。この長年の関係性が、「Changes」のリリックに深みを与えている。

お互いの苦しみを理解し合える関係。「言葉を交わせば 俺たちは分かり合える」というラインは、単なる音楽的なパートナーシップではなく、人生を共に歩んできた2人だからこそ書ける言葉だ。

共通の経験

2人とも福岡・野芥という同じ環境で育ち、同じ夢を追いかけ、同じ苦労を経験してきた。「Changes」で描かれる苦悩は、DADAやAZU個人のものであると同時に、2人が共有してきた経験でもある。

アルバム『Changes』全体との関係

物語の起点

オープニングトラック「Changes」は、アルバム全体の物語の起点となる。ここで提示された自己変革への願いが、その後の楽曲を通じて様々な形で展開されていく。

2曲目「Typhoon (feat. DAB)」、4曲目「Whatever」、5曲目「Dawn」など、アルバムを通じて変化のプロセスが描かれ、最終的に12曲目「次どこ行く?」で未来への前進が示される。

内省から行動へ

「Changes」は内省的で暗い雰囲気の楽曲だが、これがアルバム全体のダイナミックな展開の基盤となっている。内面の葛藤を正直に表現することで、その後の楽曲で描かれる成長や前進がより説得力を持つ。

現代のヒップホップにおける意義

メンタルヘルスへの言及

「Changes」は、ヒップホップにおいてまだタブー視されがちなメンタルヘルスの問題を正面から扱っている。鬱や自己否定について率直に語ることで、同じ問題に苦しむリスナーに共感と勇気を与えている。

特に若い世代にとって、成功を掴んだアーティストが内面的な苦悩を正直に語ることの意味は大きい。成功=幸福ではないというリアルな真実を伝えている。

成功後の葛藤

多くのヒップホップが成功への渇望を描く一方で、「Changes」は成功を掴んだ後の虚無感を描いている。これは現代のラッパーが直面する新しいタイプの苦悩だ。

「望むモノは多分俺の手の中 だけど何かが足りないでもまだ」という矛盾した感情は、物質的な成功では埋められない心の空虚さを表現している。

弱さを見せる勇気

ヒップホップは伝統的に強さや自信を誇示するジャンルだが、「俺は弱い弱いや」と自分の弱さを認めることは、新しいタイプの強さを示している。

完璧を装うのではなく、欠点や弱さを含めた全てを受け入れようとする姿勢は、現代のヒップホップにおける重要な進化だ。

10pmのプロダクション

エモーショナルなサウンドスケープ

10pmが作り出したビートは、ダークで重厚でありながらも、美しいメロディが織り込まれている。このサウンドが、DADAとAZUの内省的なリリックと完璧にマッチしている。

空間の使い方

「Changes」のプロダクションで特筆すべきは、空間の使い方だ。音が詰め込まれすぎず、適度な余白が2人のボーカルとメッセージを引き立てている。この余白が、聴き手に考える時間を与え、リリックの重さを感じさせる。

アートワーク:K2

アルバム『Changes』のアートワークは、Young Thugなどへの作品提供で知られるK2が手がけた。視覚的にもアルバムのテーマである「変化」を表現しており、「Changes」という楽曲のムードと呼応している。

リリース後の反響

リスナーからの共感

「Changes」は、リリース後多くのリスナーから深い共感を得た。特にメンタルヘルスの問題に悩む若者や、成功と幸福のギャップに苦しむ人々にとって、この曲は大きな意味を持った。

SNS上では、自分の経験と重ね合わせるリスナーの声が多数見られ、音楽が持つ癒しの力を改めて証明した。

アルバム全体への入り口

オープニングトラックとして、「Changes」はアルバム全体への完璧な導入となった。この曲を聴いた後、リスナーは残りの11曲を通じてDADAとAZUの変化の旅に付き合うことになる。

まとめ

DADA & AZU「Changes」は、アルバム『Changes』の核心を成す楽曲であり、2人の内面的な葛藤と変化への願いを赤裸々に描いた重要な作品だ。

自己否定、鬱との闘い、成功の虚しさ、そして変化への希望——これらすべてが一曲の中に凝縮されている。10pmの作り出すエモーショナルなビートと、DADAとAZUの内省的なリリックが完璧に調和し、聴く者の心に深く響く楽曲となっている。

「Change my life まだ歌う」という繰り返されるフレーズは、苦しみの中でも音楽を続ける決意を表している。人生を変えたいという願望と、それでも前に進み続ける意志。この矛盾した感情こそが、「Changes」という楽曲の本質だ。

幼馴染として長年の信頼関係を築いてきたDADAとAZUだからこそ、ここまで正直に自分の弱さを曝け出すことができた。お互いの存在が、自己変革への勇気を与えている。

オープニングトラックとして、「Changes」はアルバム全体の方向性を示し、その後の11曲への完璧な導入となっている。内面の葛藤を正直に表現することで、アルバムを通じて描かれる成長のストーリーに説得力を与えている。

福岡・野芥から発信されるこのメッセージは、場所や環境に関係なく、多くの人々の心に響くユニバーサルなものだ。成功を掴んでも、心の平穏は簡単には得られない。しかし、仲間と共に、音楽と共に、変化を求め続けることはできる。

「Changes」は、そんな全ての人への応援歌であり、自己変革への第一歩を踏み出す勇気を与えてくれる楽曲なのだ。

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