LEX「OCEAN」- 湘南が生んだ若き才能の夏の讃歌

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はじめに

2025年8月20日、神奈川・湘南出身の若きラッパーLEX(レックス)が新曲「OCEAN」をリリースした。夏の終わりを告げるこの時期に放たれた楽曲は、軽やかなビートに肩の力を抜いたラップをリズミカルに乗せた、ポジティブなバイブスに満ちた一曲となっている。

LEXという存在

LEX(レックス)は2002年5月1日、神奈川県湘南地域に生まれた。音楽好きの家庭で育ち、物心ついたときから音楽に興味を持っていた。3歳のときからヒップホップ・ダンスを習い始め、幼少期はジャスティン・ビーバーをよく聴いていたという。

しかし、LEXの人生は決して平坦なものではなかった。生みの父親は彼が生まれたときにはすでに家庭におらず、家族は父親の残した借金を背負っていた。数年後、LEXにできた2人目の父親はアメリカのオレゴン州出身で、「レックス」という名前だった。しばしば母親に暴力をふるったこの継父は、LEXにとって「俺の人生で最大に大切で大嫌いな人」であった。

「LEX」というアーティスト名は、この2人目の父親に由来している。憎しみと複雑な思い入れが交錯する名前を自らに冠することで、LEXは過去と向き合い続けることを選んだのだ。

音楽との出会いと自殺未遂

14歳からSoundCloudに楽曲をアップロードし始めたLEX。最初に発表した楽曲はXXXTentacionの『Look At Me』のリミックスで、2017年3月11日にアップロードした。この曲が「けっこう横浜ローカルのアンダーグラウンドで広がって」いき、LEXは自分の可能性を再認識した。

しかし、音楽を始めた頃に付き合い始めた彼女が亡くなったことなどを理由に、LEXは深い鬱状態に陥る。2018年頃、川崎で投身自殺を試みたLEXは、救急車で搬送され一命を取り留めた。この経験から「自分にはやることがあるから死ねなかったのではないか」という使命感を覚えるようになる。

亡くなった恋人への想いを歌った楽曲「Flower」は、今もSoundCloudで多くの人に聴かれている。LEXの右腕には「flower」というタトゥーが刻まれており、彼の人生における重要な出来事を忘れないための刻印となっている。

センセーショナルなデビュー

2019年4月26日、わずか16歳のLEXは1stアルバム『LEX DAY GAMES 4』を発表し、彗星のごとくシーンに現れた。映画『レディ・プレイヤー1』の影響を強く受けたこのアルバムは、エレクトロ・ミュージックをはじめとする他ジャンルの音楽をヒップホップに落とし込む野心的な試みだった。

先行発表した「STREET FIGHTER 888」は、「この曲ができた時にはじめて『アルバムを作ろうかな』って思えた」とLEX自身が語る重要な楽曲だ。

その後、2019年12月にセカンドアルバム『!!!』を発表し、初のツアーを敢行するもコロナの影響で中止に。しかし2020年もコロナ禍で「NEXT」EPの緊急リリースやオンライン・ライブの実施など積極的に活動を続け、8月には15組のゲストを招いたサードアルバム『LiFE』を発表した。

天性のメロウボイスと攻撃的な楽曲のギャップ

LEXの最大の魅力は、天性のメロウボイスと攻撃的な楽曲とのギャップ、そして感情むき出しのリリックにある。アグレッシブな勢いとメロウボイスを共存させながら、アコースティックなトラックからダンスチューンまで、自らチョイスした多彩なタイプビートを変幻自在に乗りこなす。

英語を交えながらも、ノリを重視したリリックは日本語の表現にフォーカスし、絶望と希望のはざまで揺れるティーンエージャーの内面をありのままに投影している。

特に印象的なエピソードとして、セカンドアルバム収録の「あなたの幸せが1番」がある。これはLEXが作った楽曲として初めて日本語をタイトルとしたもので、レコーディング中にLEXは感情が乗りすぎて涙が止まらなくなってしまったという。日本語で歌詞を書く方がより感情をさらけ出しやすいという思いから、同アルバム以来、LEXは日本語を好んで用いるようになった。

家族という絆

LEXは三人兄弟の真ん中として育った。姉はダンス講師のLILI、妹はシンガー・ラッパーのLANAとして活動している。LEXは家族のことを「ジャネットジャクソン的な音楽一家」と表現している。

特に妹のLANAとの関係は深く、楽曲「明るい部屋」での共演は多くのファンの感動を呼んだ。THE HOPE 2024でLEXとLANAが涙を流し抱き合いながらこの曲を披露したシーンは、今も語り草となっている。

LANAはインタビューでLEXについて「とにかく優しい」と語り、「『買ってあげようか?』と言ってくれる」と兄への愛情を惜しみなく表現している。初めはLEXがサイファーをやることが恥ずかしかったというLANAだが、今では兄のひらめきの速さやリリック、言葉のメモの量に驚き、リスペクトしているという。

「OCEAN」に込められたメッセージ

2025年8月20日にリリースされた「OCEAN」は、LEXの新たな一面を見せる楽曲だ。これまでの感情むき出しのスタイルとは異なり、軽やかなビートに肩の力を抜いたラップをリズミカルに乗せた、夏のポジティブなバイブスを表現している。

歌詞では、愛する人への想いと、彼女が母親にも認められる存在であることへの喜びが綴られている。「oh 君ゲットthat’s my love my mama喜ぶcause you like a フェアリー」というラインからは、家族を大切にするLEXらしい価値観が見て取れる。

「一緒に ridin’ ocean baby i’m the one 誰より良いジェントルマンになる」というフレーズには、愛する人のために成長しようとする決意が込められている。

楽曲の中盤では、裏切りが多発する街で生きる中での葛藤も描かれる。「この町ならさcrazy 金にたかる町 裏切り多発」というリアルな描写の中でも、「i just wanna 知りたい君は良い子かな 悪い子はもういい 信用 50/50 lady 嘘は嫌い」と、真実の関係を求める姿勢が表れている。

ワンマンライブ「主人公」

「OCEAN」リリースの3日後、8月23日には東京・EX THEATER ROPPONGIでワンマンライブ「主人公」が開催された。チケットは発売直後に即完売となり、LEXの人気の高さを証明した。

このライブのタイトル「主人公」には、LEX自身が自分の人生の主人公であり続けるという強い意志が込められている。壮絶な過去を乗り越え、音楽という表現方法を見つけたLEXにとって、ステージに立つことは自分の存在を肯定する行為そのものなのだ。

音楽性の進化

2024年7月にリリースされた6枚目のアルバム『Logic 2』では、これまでの作品よりもリリカルかつエモーショナルな世界観が話題を呼んだ。LANAとの共作「明るい部屋」や¥ellow Bucksをフィーチャーした「力をくれ」など、多彩な楽曲が収められている。

LEXは作品を重ねるごとに目覚ましい進化を遂げている。初期の頃は多いときには1週間に8曲作ることもあったというが、次第に曲を作るスピードよりも品質や内容を意識するようになり、楽曲制作のペースは1か月に3〜4曲程度に落ち着いた。

サードアルバム『LiFE』では”人生”をテーマに思索を深めるなど、音楽面での進化と精神面の成長がアーティストとしての存在感を急速に高めている。

湘南というルーツ

LEXにとって湘南は単なる出身地ではなく、アイデンティティの根幹を成す場所だ。海の近くで育ったLEXにとって、「OCEAN」というタイトルは自らのルーツへの回帰でもある。

地元の友人を中心とするクルー「S.O.G」の一員としても活動しているLEXは、湘南のストリートカルチャーを体現する存在だ。クルーのうち8〜9人ほどが楽曲制作に取り組んでおり、彼らと共に湘南のヒップホップシーンを盛り上げている。

若者世代からの支持

LEXの音楽は、同世代のティーンエージャーから絶大な支持を得ている。Red Bullサイファー「RASEN」への出演や爆発的なライブ・パフォーマンスで注目を集め、ユース世代を中心に熱狂的なファンベースを築いている。

LEX自身も若者世代について「表に出さない人の方が多い」と分析し、「SNSにアップする自分は理想のなりたい自分であって、リアルな自分とは距離を感じてる人はたくさんいる」と語っている。そのギャップで苦しむ若者たちの心情をすくい上げるように、LEXの音楽は等身大の感情を表現している。

ライブに来るファンについても「〜〜系ってくくれない」と語るLEX。地元もバラバラで、ロックな格好の人もいれば、普通の女子高生もいる。「僕らのライブはエナジーをお客さんと与えあってる感じがある」というLEXの言葉通り、彼のライブには特別なバイブスが存在する。

おわりに – 使命を背負って生きる若者の光

「OCEAN」は、LEXのキャリアにおいて新たなマイルストーンとなる楽曲だ。これまでの感情的で攻撃的なスタイルとは一線を画し、夏のポジティブなバイブスを全面に打ち出したこの楽曲は、LEXの音楽性の幅広さを証明している。

自殺未遂から生還し、「自分にはやることがある」という使命感を持って音楽活動を続けるLEX。16歳でデビューしてから、わずか数年で6枚のアルバムを発表し、着実にキャリアを積み重ねてきた。

母親を守るため、家族を支えるため、そして自分自身の存在を証明するため。LEXの音楽には、壮絶な過去を乗り越えた者だけが持つ重みと、それでも前を向いて歩き続ける若者の輝きがある。

湘南の海を背景に、oceanと共に生きる若者の歌。「OCEAN」は、LEXという才能が放つ、夏の終わりの希望の光なのだ。

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