イントロダクション
2025年3月21日、日本のヒップホップシーンに衝撃が走りました。レジェンドラッパーSEEDAが、前作『23edge』から約13年ぶりとなる通算11枚目のアルバム『親子星』をリリースしたのです。長いブランクを経て制作されたこのアルバムは、SEEDAの人生、キャリア、そして家族への深い愛情が込められた、まさに集大成と呼ぶにふさわしい作品となりました。
アルバムタイトルの由来 – 息子からの贈り物
『親子星』というタイトルには、心温まるエピソードが隠されています。SEEDAが長男と夜にスーパーへ歩いていたとき、空に並ぶ月と星を見て息子が「あれパパと僕だね!親子星だね」と言ったのです。
この純粋な言葉に感動したSEEDAは、「素敵やな」と感じ、アルバムのタイトルに採用しました。ストリートのリアリティを描き続けてきたSEEDAが、父親としての顔を前面に出したこのタイトルには、彼の人生における大きな変化と成熟が表れています。
13年のブランク – その理由と復活のきっかけ
制作できなかった苦悩
SEEDAは『BREATHE』(2010年)の頃から歌詞が書けなくなったと明かしています。かつては多作なイメージがあったSEEDAですが、その後は新作アルバムをリリースできない状態が続きました。
2015年の「BUSSIN」は、書けない中でプロデューサーのChaki Zuluに何とか組み立ててもらった曲であり、クラウドファンディングのプレッシャーもあってかなり苦しかったと語っています。
チームの形成が転機に
復活のきっかけとなったのは、SEEDAのチームが固まったことでした。以前はひとりで音楽をつくっていたSEEDAですが、現代のいわゆる「コライト(Co-Write)」のスタイルに移行。一緒にやってくれるメンバーが2人、3人と増えていき、2023年の暮れくらいにチームとして固まりました。
このチームには、ラッパーやプロデューサーだけでなく、放送作家など音楽業界以外の人材も含まれています。文章が良いと思った人に来てもらい、「ここは綺麗な文章でいったら効果的なんじゃないか」「逆に直球でいこう」といったアイディアをもらうことで、楽曲のクオリティが上がったとSEEDAは語っています。
収録曲とコンセプト
アルバムには全13曲が収録されており、約35分という凝縮された内容となっています。
トラックリスト
- G.O.A.T. (prod by D3adStock)
- SLICK BACK ft. Tiji Jojo, Myghty Tommy & LEX (prod by D3adStock)
- OUTSIDE ft. IO & D.O (prod by ZOT on the WAVE & Homunculu$)
- Kawasaki Blue (prod by ghostpops & D3adStock)
- The tunnel to tomorrow skit (prod by Bohemia Lynch)
- L.P.D.N. ft. VERBAL (prod by HOLLY)
- 4AM ft. D3adStock (prod by Chaki Zulu)
- ニキskit
- みたび不定職者 ft. Jinmenusagi & ID (prod by BACHLOGIC)
- Summer in London ft. Amiide (prod by D3adStock)
- Daydreaming pt.2 (prod by KM)
- 親子星 (prod by ZOT on the WAVE, NOVA & Homunculu$)
- SUKIYAKI ft. Kamiyada+ & Braxton Knight (prod by Ryuuki)
注目楽曲
「Kawasaki Blue」 – 盟友STICKYへのトリビュート
SCARSのメンバーだった盟友STICKYに捧げられた楽曲です。ghostpopsとD3adStockによるプロデュースで、SEEDAの深い感情が込められています。I-DeAがリリックを手伝いに来たことから、クレジットにも名前が入っている貴重な一曲です。
「みたび不定職者 ft. Jinmenusagi & ID」
名盤『花と雨』(2006年)に収録されていた「不定職者」の三度目の続編的楽曲のアルバムバージョンです。BACHLOGICのプロデュースで、過去と現在をつなぐ作品となりました。JinmenusagiとIDという新世代を代表するラッパーを迎え、世代を超えたコラボレーションを実現しています。
「OUTSIDE ft. IO & D.O」
客演にIOとD.Oを迎え、彼らの若手時代のムーブやルーツをリリックに落とし込んだ、00年代初頭のヒップホップシーンを想起させる楽曲です。ZOT on the WAVEとHomunculu$がプロデュースを担当しています。
「L.P.D.N. ft. VERBAL」 – 歴史的な和解
2009年に起きたビーフ「TERIYAKI BEEF」で大きな話題を集めた当事者同士が、約16年の時を経て初のコラボレーションを果たしました。このコラボレーションの実現には、VERBALの所属するm-floの☆Taku Takahashiが間に入ったことが明かされています。
過去の確執を乗り越え、音楽で再び繋がった二人の姿は、多くのファンに感動を与えました。
「親子星」 – アルバムタイトル曲
SEEDAが自身の子供や家族に向けたエモーショナルな楽曲で、個人的なテーマが色濃く反映されています。ZOT on the WAVE、NOVA、Homunculu$がプロデュースを担当。
ストリートのリアリティを描き続けてきたSEEDAが、父親としての視点から家族への愛を歌った本曲は、アルバムの核となる重要な一曲です。
「Daydreaming pt.2」~「親子星」~「SUKIYAKI」
アルバム後半のこの3曲の流れは、非常にパーソナルな内容となっています。これらの曲もチームでのコライトによって制作されており、SEEDAの個人的なエピソードや思い出を共有しながら、最適な表現方法を模索して完成させました。
アートワークとフィジカルリリース
ジャケットのコンセプト
アルバムのカバーアートは、SEEDAが全裸で写ったものです。上裸ではなく「飾らない自分」をテーマに、自然体の姿を表現しています。
これまでストリートのイメージが強かったSEEDAが、ここまで自分をさらけ出すことは、アルバムのテーマである「素の自分」「家族への愛」と一致しています。
CD + Tシャツセット
待望のCDリリースは、原宿Awesome BoyとのコラボレーションによるTシャツとのセットで販売されました。
セット内容:
- Tシャツ2タイプ(『親子星』ジャケットTシャツ(ホワイト)/ SEEDAフェイスTシャツ(ブラック))
- オーガニックコットン製 / 8.2オンスの厚手の生地
- デジパック仕様のCD(歌詞カード封入)
- <SEEDA『親子星』 x Awesome Boy x P-VINE>の特製ジップロック
完全受注生産という形式で、CD単体やTシャツ単体での販売はなく、ファンにとって特別なコレクターズアイテムとなりました。
チャート成績と反響
配信チャート
- Apple Music: ヒップホップ/ラップ トップアルバム 日本25位
- iTunes Store: ヒップホップ/ラップ トップアルバム 日本36位
13年ぶりのリリースにもかかわらず、配信チャートで健闘し、SEEDAの根強い人気を証明しました。
プレイリスト入り
- Spotify「+81 Connect: J-Hip Hopの「今」と「その先」」
- Spotify「Frontline -ヒップホップ最前線-」
- Spotify「POP YOURS」
- Apple Music「POP YOURS」
主要な日本のヒップホッププレイリストに軒並み選出され、新世代のリスナーにもSEEDAの音楽が届けられています。
SEEDAのキャリアにおける『親子星』の位置づけ
人生の変化を反映
1980年11月17日生まれのSEEDAは、現在44歳。2012年にEMI MARIAと結婚し、同年に第1子男児、2017年に第2子男児が誕生しています。
『親子星』は、父親としての顔、家族を持つ一人の人間としての顔を前面に出した作品であり、ストリートラッパーとしてのSEEDAから、より成熟した表現者としてのSEEDAへの進化を示しています。
過去と現在を繋ぐ
アルバムには、過去の名曲の続編である「みたび不定職者」、かつてのビーフ相手VERBALとの和解を示す「L.P.D.N.」、盟友STICKYへのトリビュート「Kawasaki Blue」など、SEEDAのキャリアの様々な側面が詰め込まれています。
これらの楽曲を通じて、過去の自分と現在の自分を繋ぎ、一つの物語として提示することで、『親子星』はSEEDAの集大成と呼ぶにふさわしい内容となりました。
コライトという新しい挑戦
一人で制作してきたSEEDAが、チームでのコライトに挑戦したことは、彼のキャリアにおいて大きな転換点となりました。
I-DeAやBACHLOGICといった長年の盟友だけでなく、放送作家などの新しい才能を取り入れることで、SEEDAの表現の幅が広がり、より深みのある作品が生まれました。
まとめ – 13年の沈黙を破った傑作
SEEDA『親子星』は、13年という長いブランクを経て制作された、レジェンドラッパーの復活作であり、同時に家族への愛を綴った感動的な作品です。
息子の純粋な言葉から生まれたアルバムタイトル、チームでのコライトという新しい制作スタイル、世代を超えた豪華な客演陣、そして何より、SEEDAの人生経験が凝縮された全13曲。
ストリートのリアリティを描き続けてきたSEEDAが、父親としての視点、家族を持つ一人の人間としての視点から音楽を制作したことで、より普遍的で、多くの人の心に響く作品が生まれました。
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