はじめに
2002年1月1日、日本のヒップホップシーンにとって歴史的な瞬間が訪れました。横浜を拠点とするヒップホップデュオDS455が、ユニバーサルミュージックジャパンからメジャーデビューアルバム「DabStar Clique」をリリースしたのです。このアルバムは、単なるデビュー作を超えて、日本におけるウェストコースト風ヒップホップの真髄を示した記念碑的作品となりました。
DS455について
DS455は、MCのKayzabro(ケイザブロ)とDJ・プロデューサーのDJ PMXによる2人組ヒップホップユニットです。グループ名の「DS」は「Dabstar」の造語、「455」はKayzabroの地元である横浜市鶴見区の電話番号が045-5〜となっていることに由来しています。
メンバー構成の変遷
DS455は1989年に横浜で結成されました。初期メンバーには現在のKayzabroとDJ PMXに加え、ShalllaやMACCHO(後のOZROSAURUS)も在籍していました。しかし、MACCHOは1996年頃にソロ活動に専念するため脱退、Shallaも2001年にグループを離れ、最終的に現在の2人組体制となりました。
アルバム「DabStar Clique」の詳細
基本情報
- リリース日: 2002年1月1日
- レーベル: ユニバーサルミュージックジャパン (Universal J)
- 収録曲数: 17曲
- 総再生時間: 約58分
- ジャンル: ジャパニーズ・ヒップホップ / ウェストコースト・スタイル
収録楽曲一覧
- Str8 Outta Locohama
- DabStar Clique (feat. MACCHO for OZROSAURUS)
- Tha Message from HIGH LIFE
- Kagero ~for my Alize~
- Ride Wit tha D.S.C. ~Just Like Me~
- Since I Lost You
- SURVIVE ~重なり合うVIBE and M.I.C.~ (feat. MCMAILA)
- LOWRIDE 4 LIFE
- 僕の中の少年~遠い記憶IV~
- Deee’z Nutz FM Station 213 HIGH ROLLERZ, J-GREN
- Night 4 Playaz (feat. MAY)
- Tha Message from DIG DA GOOD RECORDS, THA2 DOGGZ
- WESSYDE STORY (feat. PHOBIA OF THUG and BIG RON)
- BAYSIDE RIDAZ!? (feat. MACCHO for OZROSAURUS)
- NIGHTCRUISE ~星降る夜に~
- Smoke In Tha Marmalade!? (feat. CORN HEAD)
- Smoke Conversation2
音楽的特徴とスタイル
「DabStar Clique」は、DS455が横浜から発信するウェストコースト風ヒップホップの集大成と言えます。アルバム全体を通して、以下のような特徴が見られます:
G-Funkサウンドの日本的解釈
DJ PMXの手がけるメロディアスでスムースなG-Funkサウンドは、Dr. DreやWarren Gといったカリフォルニアのアーティストからインスピレーションを得ながらも、日本独自の解釈を加えたものです。シンセサイザーを多用したメロディアスなサウンドは、当時の日本のヒップホップシーンにおいて非常に革新的でした。
Kayzabroのフロウとリリック
Kayzabroのメロディアスでスムース、時にゲットーで豪華なフロウは、このアルバムの大きな魅力の一つです。彼のラップスタイルは、ハードコアな内容からメロウなラブソングまで幅広く対応し、聴く者を魅了します。
商業的成功と評価
「DabStar Clique」は大きな成功を収め、チャートの30位まで上昇し、1年足らずで5万枚以上を売り上げました。これは、当時としてはメディアに露出の少ないグループにとって驚異的な数字でした。
アルバムからのシングルカット楽曲も好評を博し、特に「Ride Wit’ Tha DSC」と「NIGHTCRUISE」は代表的な楽曲として現在でも愛され続けています。
日本ヒップホップシーンにおける影響
横浜ヒップホップの確立
横浜は「日本のウェストコースト」として知られ、東京がニューヨーク風のオールドスクールからの影響を受けているのに対し、横浜は1990年代半ばのLA G-Funkの影響を受けているとされています。DS455は、この横浜スタイルの確立において中心的な役割を果たしました。
後続アーティストへの影響
DS455のスタイルは、その後の多くの日本人ヒップホップアーティストに影響を与えました。G-Funkサウンドを基調とした楽曲制作や、メロディアスなフロウスタイルは、現在でも日本のヒップホップシーンで見ることができます。
制作背景とストーリー
メジャーデビューまでの道のり
DS455は1999年にG-Funkの伝説的人物Warren Gとその従兄弟Daz Dillinger(Tha Dogg Pound)の注目を集め、彼らと共にDPG Records Japanを設立しました。インディーズでの活動を経て、2002年にユニバーサルジャパンとの契約を獲得し、念願のメジャーデビューを果たしました。
アルバム制作時の状況
「DabStar Clique」の制作時、DS455は新たな体制でのスタートを切っていました。DJ PMXが自身のソロキャリアも追求し始め、Kayzabroがより自信に満ちたスムースなデリバリーを見せるようになった時期でもありました。
楽曲解説
代表的楽曲の特徴
「DabStar Clique」(タイトルトラック) 元メンバーMACCHOをフィーチャーした楽曲で、グループの結束とスタイルを宣言する重要な楽曲です。
「LOWRIDE 4 LIFE」 ローライダー文化への愛を歌った楽曲で、ウェストコーストヒップホップの典型的なテーマを日本風にアレンジした代表例です。
「NIGHTCRUISE ~星降る夜に~」 メロウでロマンティックな楽曲で、DS455の持つメロディアスな一面を表現しています。
現在への影響と継承
「DabStar Clique」は、2000年代の日本ラップを代表するアルバムの一つとして位置づけられています。このアルバムが確立したサウンドやスタイルは、現在でも多くのアーティストに影響を与え続けています。
ローカルシーンの国際化
DS455の成功は、地方(横浜)発のヒップホップが全国的、さらには国際的にも通用することを証明しました。これは後の日本のヒップホップアーティストにとって大きな励みとなりました。
まとめ
DS455の「DabStar Clique」は、単なるデビューアルバムを超えて、日本のヒップホップ史における重要なマイルストーンとなった作品です。ウェストコーストヒップホップの日本的解釈を完成させ、後続のアーティストたちに道筋を示したこのアルバムは、今聴いても色褪せない魅力を持っています。
日本のヒップホップが多様化し、グローバルな注目を集める現在においても、「DabStar Clique」が示した「ローカルなアイデンティティを大切にしながら普遍的な音楽を創る」という姿勢は、多くのアーティストにとって参考になる重要な指針となっているのです。
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