Watson – 「OTAKARA」: 等身大の日常を宝に変えるリアルなストーリーテリング

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イントロダクション

2022年11月30日、徳島県出身のラッパーWatsonがセカンドアルバム『SPILL THE BEANS』をリリースした。その中でも特に印象的な楽曲の一つが、アルバムの4曲目に収録された「OTAKARA」である。3分44秒という楽曲の中に、Watsonの等身大の生活と心境が詰め込まれた本作は、彼の代表的な楽曲の一つとして多くのリスナーの心を掴んでいる。

タイトルの「OTAKARA」(お宝)が示すように、この楽曲は”どうしようもない俺みたいな奴でも人生書き出しゃお宝の山”というリリックに象徴されるように、一見何でもない日常の出来事や体験が、実は貴重な「宝物」であるという気づきを歌った作品となっている。

楽曲基本情報

リリース詳細

  • 楽曲名: OTAKARA
  • アーティスト: Watson
  • 収録アルバム: SPILL THE BEANS
  • リリース日: 2022年11月30日
  • 再生時間: 3分44秒
  • 作詞: Watson
  • 作曲: Hibachibeats

アルバムにおける位置づけ

SPILL THE BEANSは8曲構成で、”kick it”、”Hood Star”、”non scale”、”OTAKARA”、”Recycle (feat. Pedro the GodSon)”、”Blue balls (feat. Choppa Capone)”、”Hood Star (feat. T-STONE & RK Bene Baby) [Remix]”、”MARIKOKE”が収録されている。「OTAKARA」は、アルバムの中盤に位置し、Watsonの内面世界を深く掘り下げた重要な楽曲として配置されている。

チャート成績と業界評価

商業的成功

アルバム『SPILL THE BEANS』は、Apple Music ヒップホップ/ラップ トップアルバムで日本2位、iTunes Store ヒップホップ/ラップ トップアルバムで日本7位を記録し、Apple Music 総合 トップアルバムでも日本16位にランクインした。この成功により、「OTAKARA」も多くのリスナーに届けられることとなった。

プレイリスト選出

“OTAKARA”は、Spotify「The Pulse of J-Rap」に2023年4月15日に選出されるなど、業界からも高い評価を受けている。

楽曲分析: リアリティに根ざしたストーリーテリング

Watsonのリリック哲学

Watsonは、小説から情景の描写の仕方を学んでおり、「歌詞については…小説とかから、その情景の描写の仕方とかを学んでると思います。音楽を始めてからは意識して『読書しよう』と思ってめちゃくちゃ読んでて」と語っている。この文学的なアプローチが、「OTAKARA」のリリックにも反映されている。

日常の細部への着眼点

「OTAKARA」では、Watsonが得意とする身の回りの具体的な描写が随所に散りばめられている。楽曲の冒頭部分では、金銭面での現実的な状況から始まり、5〜6年使っているバラのカーテン、ボールペンやシャープペン、100円玉といった身近なアイテムが歌詞に登場する。

これらの描写は、単なる現状報告ではなく、成功への道のりにおける現在地を等身大で表現する手法として機能している。

成長と変化の対比

楽曲では、過去と現在、そして未来への展望が巧妙に織り交ぜられている。”汚れたフォースワンも今新品”というリリックに象徴されるように、以前とは変わった現在の状況を具体的なアイテムを通じて表現している。

音楽的特徴とプロダクション

ビートとフロー

「OTAKARA」は、Hibachibeatsによる楽曲制作が行われており、Watsonの特徴的な倍速ラップと絶妙にマッチしたトラックとなっている。彼の”もつれたフロウから吐き出されるリリックの強度は近年登場した若手でも群を抜き”と評される技術が存分に発揮されている。

ミュージックビデオ

Music Video Director: Kai Yoshihara、AC: Kanta Nakao、Gaffer: Shoki Kurookaによって制作されたミュージックビデオも公開されており、楽曲の世界観を視覚的に表現している。

『SPILL THE BEANS』アルバムの文脈

アルバム全体のコンセプト

今年大きく躍進を遂げた徳島のMC・Watsonがアルバム『SPILL THE BEANS』をリリースした。アルバムタイトルの「SPILL THE BEANS」(秘密を漏らす、本当のことを話す)が示すように、Watson自身の本音や真実を包み隠すことなく表現した作品集となっている。

「OTAKARA」は、このコンセプトに沿って、彼の日常生活の「本当のこと」を歌った楽曲として位置づけられる。

客演アーティストとの関係性

アルバムには、Pedro the GodSon、Choppa Capone、T-STONE、RK Bene Babyといったアーティストが客演として参加しているが、「OTAKARA」はWatsonのソロトラックとして、彼の個人的な想いがストレートに表現されている。

Watsonのアーティストとしての成長

キャリアの転換点

Watson自身は「だから手応えはありますけど、まだまだです。元々は再生数とかも全然気にしてなかったんですけど、(再生数が)回るようになって初めて見てて『面白い』って思えるようになったりもして」と語っており、「OTAKARA」がリリースされた2022年は、彼にとって大きな転換点となった年であることがうかがえる。

創作への姿勢

“自分、ちゃんと曲を作り続けないと病んでくるんですよ。で、良い曲を作らないと意味がないし、良い曲は常に最新じゃなきゃあかんって思います”という彼の創作に対する真摯な姿勢が、「OTAKARA」のクオリティにも反映されている。

現代日本ヒップホップにおける意義

リアリズムの重要性

「OTAKARA」は、虚飾を排した等身大の表現によって、多くのリスナーの共感を得ている。これは、SNS時代における「見栄を張る」文化に対するアンチテーゼとしても機能している。

地方発信の可能性

徳島という「超田舎の出身」でありながら、全国的な注目を集めているWatsonの成功は、地方のアーティストにとって大きな励みとなっている。「OTAKARA」のような楽曲が評価されることで、東京以外の地域からの音楽発信の可能性が証明されている。

リリック分析の深層

言葉遊びとパンチライン

Watson は”リリシストかつパンチライン巧者”として評価されており、「OTAKARA」でもその技術が随所に発揮されている。特に、日常的な体験を独特の視点で捉え直し、それを印象的なフレーズに昇華させる能力は、彼の大きな武器となっている。

時間軸の巧妙な操作

楽曲では、過去・現在・未来が自然な流れで行き来しており、リスナーをWatsonの人生の軌跡に引き込む構成となっている。これにより、単なる現状報告を超えた、物語性のある楽曲に仕上がっている。

今後への展望

アーティストとしての進化

「OTAKARA」で見せたストーリーテリングの技術は、その後の『Soul Quake』(2023年)などの作品でさらに磨きがかけられており、Watsonの代表的な楽曲制作スタイルの基礎となったと言える。

影響力の拡大

“T-STONEに続き、一気に徳島をHIPHOP地図に書き加える存在になるか”と期待されているWatsonにとって、「OTAKARA」は彼の可能性を示した重要な楽曲として位置づけられる。

まとめ

「OTAKARA」は、Watsonの等身大の日常を題材にしながら、そこから普遍的な価値を見出すという、彼の音楽的哲学が最も直接的に表現された楽曲である。リアルな体験に基づいたリリック、巧妙な言葉遊び、そして文学的な情景描写が組み合わさることで、単なる自分語りを超えた、多くの人の心に響く作品に仕上がっている。

2022年という彼のキャリアにおける重要な転換点にリリースされた本作は、Watsonというアーティストの本質を理解する上で欠かすことのできない楽曲と言えるだろう。平凡な日常の中にある「お宝」を見つけ出し、それを音楽として昇華させる彼の才能は、今後の日本のヒップホップシーンにおいても大きな影響を与え続けることは間違いない。


楽曲情報

  • タイトル: OTAKARA
  • アーティスト: Watson
  • 収録アルバム: SPILL THE BEANS
  • リリース日: 2022年11月30日
  • 再生時間: 3分44秒
  • 作詞: Watson
  • 作曲: Hibachibeats
  • 配信: 各種ストリーミングサービスにて配信中

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