はじめに
2018年3月21日にリリースされたDJ RYOWの記念すべき10作目のアルバム「NEW X CLASSIC」から生まれた「all green feat. 唾奇」は、日本のヒップホップシーンにおいて特別な意味を持つ楽曲です。この作品は、名古屋のヒップホップ界の重鎮DJ RYOWと沖縄出身の才能溢れるラッパー唾奇がタッグを組み、失われた友への想いを込めた深い感情の楽曲として話題となりました。
楽曲詳細
楽曲名: all green feat. 唾奇
アーティスト: DJ RYOW feat. 唾奇
リリース日: 2018年3月21日
収録アルバム: NEW X CLASSIC
プロデューサー: DJ RYOW
ビートメイカー: Space Dust Club
ミュージックビデオ公開日: 2018年4月
アーティスト紹介
DJ RYOW(プロデューサー・DJ)
岐阜県大垣市出身のDJ RYOWは、名古屋を拠点に活動するヒップホップDJ/プロデューサーとして、25年以上のキャリアで培った確かな選曲センスとミックススキルで知られています。
17歳の時、ILLMARIACHIのライブを観て衝撃を受け、ラップにのめり込んでいくことからキャリアがスタートしました。M.O.S.A.D.やBALLERSのメンバーと一緒にいれれば良いという気持ちを持っていたDJ RYOWの意識を変えたのは、2004年にTOKONA-X、BALLERSのホストMCのKEISHIが続けて亡くなったことでした。
この悲しい出来事をきっかけに、「自分でやれることやろう」「曲をもっと作ろう」などの意識が芽生え、本格的にDJとしての歩みを始めます。2005年に初のソロアルバム「PROJECT DREAMS」をリリースして以降、2005年の「PROJECT DREAMS」から2024年の「DRIVE MY DREAMS」まで、実に14枚ものリリースを数えるに至っています。
主な功績:
- DJ MISTER CEE、DJ ENVY、DJ GREEN LANTERNらアメリカのトップDJとの共作ミックス
- 5度の日本武道館公演を成功させたAK-69のバックDJを務める
- 2020年には地元・中日ドラゴンズのサウンドを手がけた
- 2020年、NEW ERAの創業100周年を記念して発売された書籍の”ニューエラを被りこなす日本の100組”に選出
唾奇(ラッパー)
1991年8月4日生まれ、沖縄県出身のラッパーである唾奇は、本名新城安成で、Pitch Odd Mansion所属として活動しています。
名前の由来とキャリア: 名前の「唾奇」の由来は漫画、アニメの「ソウルイーター」のキャラクターの「椿」から来ているがそのままだとホストみたいなので、あえて汚いイメージの「唾」を使ったことから生まれました。
17歳ごろかラップのリリック(歌詞)を書き始め、19歳ごろから曲を作り始めていた唾奇は、2017年、音楽番組流派-Rで「最もアツいラッパー」に選ばれてから知名度が爆発的に上がったという経歴を持っています。
壮絶な生い立ち: 沖縄県那覇市寄宮出身。家庭環境は荒れており、不遇な幼少期を過ごした。その後は祖母に育てられるという厳しい環境で育った唾奇の楽曲には、自らの思いや体験をありのまま発信する等身大の歌詞が特徴的です。
音楽的影響: ヒップホップは小学6年生の時、姉の彼氏の影響で聴いたキングギドラの「トビスギ」という曲に衝撃を受け、本格的に聴くようになることがきっかけとなりました。
アルバム「NEW X CLASSIC」の背景
DJ RYOWが活動20周年の節目となる今年、記念すべき10作目のアルバムとしてリリースした作品である「NEW X CLASSIC」は、特別な意味を持つアルバムです。タイトルに使用されているXは10枚目を意味するXと、過去と未来を繋ぐ意味、そして自身が大きな影響を受けたアーティストTOKONA-Xへのリスペクトを込めてつけられているという深い思いが込められています。
「all green feat. 唾奇」の楽曲分析
楽曲のテーマと背景
リリックは唾奇が亡き友について歌ったもので、鹿児島の気鋭ビートメイカーKUJA(クジャ)の「betty blue feat. 唾奇」の続編となる楽曲として制作されました。この楽曲は、人生には様々な困難がつきまとうが、最後にはみんながHappyなれることを願って作られた曲というメッセージが込められています。
チャート成績と話題性
「all green feat. 唾奇」は、iTunes HIP HOPシングル・ランキングで1位を獲得という商業的成功も収めており、ファンからの高い評価を得ています。
ミュージックビデオの特徴
MVには唾奇と親交が深い〈ALL GREEN LABEL〉のメンバーらが友情出演し、歩みを進める唾奇と交差しながらも、最後にはみんなが集まって楽しい時を分かち合う様を表現しているという構成となっています。
ディレクションはクリエイター集団〈Pitch Odd Mansion〉の主宰であり映像プロデューサーの國枝真太朗が手がけ、唾奇が歩くシーンは一本撮りで撮影され”歩くだけで絵になる男”の魅力を余すことなく表現しているという技術的な工夫も話題となりました。
DJ RYOWのコメント
制作について、DJ RYOWは次のようにコメントしています:
1本撮り。唾奇 & 監督や協力してくれたみんな、流石っす。撮影自体楽しかったし、この曲が出来た内容は涙なんだけど、こうやってみんなで笑って撮影が出来てることが素晴らしいと思うし、こういう機会を一緒に共有できて最高でした。
このコメントからは、悲しいテーマの楽曲でありながらも、制作過程では仲間たちとの絆を感じられる温かい雰囲気があったことが伝わってきます。
楽曲の音楽的特徴
「all green feat. 唾奇」は、DJ RYOWのプロデュースとSpace Dust Clubのビートメイキングによる、エモーショナルでありながらもグルーヴィーなサウンドが特徴です。唾奇の独特なフロウと内省的なリリックが、心に響く仕上がりとなっています。
楽曲は失われた友への想いを歌ったものでありながら、最終的には希望と前向きさを感じさせる構成となっており、聴く者の心に深く刻まれる作品となっています。
日本のヒップホップシーンにおける意義
この楽曲は、名古屋と沖縄という異なる地域のアーティストがコラボレーションすることで、日本のヒップホップシーンの多様性と結束力を示した作品として評価されています。DJ RYOWの長年のキャリアと唾奇の新世代としての才能が融合した、世代を超えたコラボレーションの好例と言えるでしょう。
まとめ
「all green feat. 唾奇」は、友情、喪失、そして希望というユニバーサルなテーマを、日本のヒップホップの言語で表現した傑作です。DJ RYOWの20年間のキャリアの集大成とも言える「NEW X CLASSIC」アルバムの中でも特に印象的な楽曲として、多くのリスナーに愛され続けています。
この楽曲は、技術的な完成度の高さと感情的な深さを兼ね備えた、日本のヒップホップシーンの重要な作品として、今後も語り継がれていくことでしょう。音楽を通じて人と人を繋ぎ、困難な時でも希望を見出すことの大切さを教えてくれる、珠玉の一曲です。
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