2017年9月6日にリリースされたBAD HOPの楽曲「これ以外 feat. YZERR & Tiji Jojo」は、日本のヒップホップシーンにおいて特別な意味を持つ作品だ。BAD HOPの記念すべき1stアルバム「Mobb Life」のラストトラック(16曲目)として収録されたこの楽曲は、彼らの音楽への純粋で熱い想いが込められた代表作の一つである。
楽曲概要
基本情報
- アーティスト: BAD HOP feat. YZERR & Tiji Jojo
- リリース日: 2017年9月6日
- 収録アルバム: Mobb Life
- 作詞: YZERR・Tiji Jojo
- 作曲: Lil’Yukichi
- 楽曲時間: 約4分
「これ以外」というタイトルが表すのは、ヒップホップ以外に自分たちがやりたいことは何もないという強い意志である。この楽曲は、音楽への献身と情熱を歌った、BAD HOPの本質を表現した重要な作品となっている。
参加アーティスト紹介
BAD HOP – 川崎が生んだ日本最大のヒップホップ・クルー
2014年に神奈川県川崎市川崎区で結成された8人組のヒップホップクルーであるBAD HOPは、T-Pablow、YZERR、G-k.i.d、Yellow Pato、Bark、Benjazzy、Vingo、Tiji Jojoからなる。川崎からリアルを発信し続けるヒップホップ・クルーとして、日本のヒップホップシーンに大きな影響を与えた。
2024年2月19日の東京ドーム公演「THE FINAL」を最後に解散したが、その10年間の活動で日本のヒップホップシーンを大きく変革した伝説的なグループである。
YZERR – グループの頭脳と呼ばれた双子のラッパー
1995年生まれの神奈川県出身で、双子の兄弟T-Pablowと共にBAD HOPの中核を担った。川崎市川崎区の母子家庭で育ち、14歳で逮捕され少年院に入所した過酷な経験を持つ。
BAD HOPでは楽曲制作の統括やプロデュースを担当する「頭脳」的存在として活動し、日本の音楽シーンにビッグヒットを生み出し続けた。グループ解散後は、ソロアーティスト兼起業家として新たなキャリアを歩んでいる。
Tiji Jojo – 韓国系ハーフのリリシスト
本名・吉村敦也、1996年2月12日生まれの神奈川県川崎市川崎区池上町出身。日韓ハーフであり、BAD HOPで唯一の純粋な日本人ではないメンバーだった。
幼少期にT-Pablow、YZERR、Barkらと保育園で出会い。やんちゃをする日々を過ごした。高校1年生で逮捕され少年院に送られた経験を持ち、T-Pablowが第1回高校生ラップ選手権で優勝したことをきっかけにラップを始めた。
プロデューサー Lil’Yukichi について
横須賀の米軍基地で生まれ、幼い頃から両親の影響で音楽に囲まれて育ったLil’Yukichi(リル・ユキチ)は、15歳の時にCherry Brownとしてラップを始め、オリジナルビートでラップしたかったが当時ビートを作れる人を知らなかったため、自分でビートメイクを始めた。
アトランタやメンフィスなどのアメリカ南部(Dirty South)のヒップホップスタイルに影響を受け、主にTRAPスタイルの楽曲を制作している。これまでにKOHH、SALU、BAD HOP、KOWICHI、KEIJU、漢 & D.O、JP THE WAVYなど様々なアーティストに楽曲提供を行っている。
楽曲の歌詞と込められたメッセージ
「これ以外 他にやりたい事も無いんだ / これ以外 無いんだ取り柄が俺ら / これ以外 考えてる暇も無いんだ / これ以外 何も考えず好きな事したい」
この楽曲の核心となるリフレインは、ヒップホップへの絶対的な献身を表している。彼らにとってラップは単なる趣味や職業ではなく、生きる理由そのものなのだ。
「好きな街で好きな仲間達といたい / 夢か現実か未だわからない / 見えない物に俺ら人生賭けていたい」という歌詞からは、音楽という不確実な道に人生を賭ける覚悟と、仲間との絆の大切さが伝わってくる。
「学校なんて居場所ない / 合ってるかもわからない / 歴史学びたくはない / でも口だけじゃ終われないって」では、既存の教育システムや社会の枠組みに馴染めない彼らの心境を率直に表現している。
青春の葛藤と成長への渇望
「いつもの公園朝まで溜まってた / 仲間と飲んでいつまでも笑ってた / 聴いた事無い曲がある日流れた / あれからずっと耳から離れない」
この部分では、ヒップホップとの運命的な出会いが描かれている。何気ない日常の中で聞いた音楽が、彼らの人生を大きく変えるきっかけとなったのだ。
「変わらないんじゃなく変われない / 下らん事で笑えた日が懐かしいが / 戻りたくはない / 適当じゃつまらない」という歌詞は、過去への郷愁を抱きながらも、前に進み続ける強い意志を表している。
音楽的特徴
Lil’Yukichiが手がけたプロダクションは、彼の得意とするTRAPスタイルを基調としながらも、メロディアスで情緒的な要素を含んでいる。重厚なベースラインとシンプルなドラムパターンの上で、YZERRとTiji Jojoがそれぞれの個性を活かしたラップを披露している。
楽曲全体を通して、激しさよりも内省的で哲学的な雰囲気が漂っており、彼らの音楽への真摯な向き合い方が音楽的にも表現されている。
アルバム「Mobb Life」における位置づけ
「Mobb Life」は16曲からなるBAD HOPの初の全国流通盤であり、「これ以外」はそのクライマックスを飾る最終トラックとして収録されている。
アルバム全体がBAD HOPの多面性を示す構成になっている中で、「これ以外」は彼らの最も純粋で本質的な部分を表現した楽曲として位置づけられている。派手さや攻撃性ではなく、音楽への愛と献身を歌ったこの楽曲は、BAD HOPというグループの真の姿を映し出す鏡のような作品だ。
日本ヒップホップシーンへの影響
「これ以外」は、2017年当時の日本のヒップホップシーンにおいて、アーティストの内面や音楽への想いを率直に表現した楽曲として話題となった。特に若いリスナーたちにとって、夢への純粋な情熱と諦めない姿勢を歌ったこの楽曲は、大きな共感と励ましを与えた。
BAD HOPが川崎という地域から発信した等身大のメッセージは、全国の若者たちに「自分たちにもできるかもしれない」という希望を与え、日本のヒップホップシーンの裾野を広げることに貢献した。
BAD HOP解散後の意味
2024年2月にBAD HOPが解散した現在、「これ以外」は彼らの10年間の活動を振り返る上で特別な意味を持つ楽曲となっている。「これが無けりゃ俺ら何になる?」という歌詞は、今も変わらず彼らの心の中に響き続けているだろう。
メンバーそれぞれが新たな道を歩む中で、この楽曲で歌われた「音楽への純粋な愛」は、彼らの原点として永遠に残り続ける。
まとめ
「これ以外 feat. YZERR & Tiji Jojo」は、BAD HOPの楽曲の中でも最も内省的で感情的な作品の一つである。華やかな成功や派手なライフスタイルを歌うのではなく、音楽への純粋な愛と献身を歌ったこの楽曲は、日本のヒップホップが持つ真摯さと深さを象徴している。
「見えない物に俺ら人生賭けていたい」という歌詞が示すように、不確実な未来に向かって歩き続ける勇気と情熱こそが、この楽曲の最大のメッセージなのだ。BAD HOPは解散したが、「これ以外」で歌われた音楽への愛は、今後も多くの人々の心に響き続けるであろう。
「これ以外 feat. YZERR & Tiji Jojo」は、Spotify、Apple Music、YouTubeなど各種音楽配信プラットフォームでも聴くことができます。アルバム「Mobb Life」と共にお楽しみください。
コメント