Awich – “GILA GILA feat. JP THE WAVY, YZERR (Prod. Chaki Zulu)” 徹底解説

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2021年7月30日にリリースされた「GILA GILA feat. JP THE WAVY, YZERR (Prod. Chaki Zulu)」は、日本のヒップホップシーンにおいて歴史的な瞬間を記録した楽曲だ。Awichがメジャーレーベルでの活動を本格化させる中で、次世代を代表する二人のラッパーJP THE WAVYとYZERRを迎えて制作されたこの作品は、日本のヒップホップが新たな段階に突入したことを象徴するマイルストーンとなった。

楽曲誕生の背景 – メジャー進出とクイーンの覚悟

2020年にユニバーサルミュージックジャパンのサブレーベルUniversal Jとの契約を締結したAwichは、メジャーレーベルでの活動を本格的にスタートさせた。同年8月にはメジャーデビューEP「Partition」をリリースし、メジャーシーンでの地歩を固めつつあった。

「GILA GILA」は、そんなAwichが2022年3月にリリースするアルバム「Queendom」の先行シングルとして制作された楽曲だ。このアルバムのタイトルが示す通り、Awichは自らを日本のヒップホップシーンのクイーンとして位置づけ、その頂点に立つ意志を明確にしていた。

楽曲に込められた想いは、歌詞の中で明確に表現されている。「Mステ出たから何?ヒットなきゃ続きは無い」という直截的なラインは、彼女がメジャーシーンでの単発的な成功に満足することなく、継続的なヒットと真の成功を追求する姿勢を示している。これは、一時的な話題性ではなく、長期的な影響力の構築を目指すアーティストとしての覚悟の表れだった。

参加アーティストの顔ぶれ – 次世代の頂点に立つ三人

JP THE WAVY – バイラルヒットから世界へ

神奈川県平塚市出身のJP THE WAVYは、2017年にYouTubeに投稿した「Cho Wavy De Gomenne」がバイラルヒットを記録し、一躍脚光を浴びた。ヒップホップクルー「D.T.R.I」で「Lil Right」名義で活動していた彼が、ソロプロジェクト「JP THE WAVY」として活動を開始したのは2016年のことだった。

JP THE WAVYの音楽的特徴は、落ち着いたトーンのクールなラップでシーンの最先端を体現する新感覚のアプローチにある。刺激的なトラップビートと妙に耳に残るラップスタイルは、日本のヒップホップシーンに新たな潮流をもたらした。

「GILA GILA」での彼のパフォーマンスは、これまでの楽曲で培ったスキルが存分に発揮されている。「Haters お疲れ様、Work hard, play harder」というラインに代表されるように、成功への道筋を着実に歩んでいる自信と、それに対する批判者への余裕を併せ持った表現が印象的だ。

2021年の時点で、JP THE WAVYは既に世界規模での活動を視野に入れており、同年には世界的なメガヒットアクション映画「ワイルド・スピード/ジェットブレイク」のサウンドトラックにアジアのアーティストとして唯一選ばれるなど、その実力は国際的にも認められていた。

YZERR – BAD HOPの頭脳とファッションアイコン

本名を岩瀬雄哉というYZERRは、1995年生まれの神奈川県出身のラッパーだ。双子の兄であるT-PABLOWと共にBAD HOPの中核メンバーとして活動し、「BAD HOPの頭脳」「裏のBAD HOPのボス」と称される存在だった。

YZERRの音楽キャリアは「BAZOOKA!!! 高校生RAP選手権」から始まった。2012年に兄のT-PABLOWと共に「DIABLO」名義で第1回に出場し、2014年の第5回では見事優勝を果たした。兄弟揃っての優勝という偉業は、日本のヒップホップシーンの歴史に刻まれている。

YZERRの特徴の一つは、音楽活動と並行して見せるファッションへの強いこだわりだ。Burberry、Dior、Louis Vuitton、OFF-WHITE、PRADAなど、数々のハイブランドを愛用し、自身のInstagramでも様々な奇抜なファッションやYZERRにしか出来ない着こなしでフォロワーを魅了している。

「GILA GILA」における彼のパフォーマンスでも、このファッションセンスが歌詞に反映されている。「Alexにオーダーして作ってもらってるこのDrip」というラインは、彼が単なる消費者ではなく、クリエイティブなレベルでファッションに関わっていることを示している。

音楽的には、YZERRはBAD HOPにおいて楽曲の立案・制作指揮・プロデュースまでこなし、優れたリーダーシップとビジネスセンスを発揮していた。2024年2月にBAD HOPは解散したが、その後YZERRは起業家としての活動も開始し、音楽以外の分野でもその才能を発揮している。

Chaki Zuluのプロダクション – 現代的サウンドの結晶

「GILA GILA」のサウンドプロデュースを手がけたのは、YENTOWNレーベルの創立者であるChaki Zuluだ。静岡県沼津市出身の音楽プロデューサーである彼は、Awichの復活作「8」から継続して彼女の楽曲制作に携わっている。

「GILA GILA」でのChaki Zuluのプロダクションは、現代的なトラップビートを基調としながら、三人のラッパーそれぞれの個性を最大限に活かすサウンドデザインを実現している。特に、楽曲の中毒性のあるメロディーラインとヘビーなベースラインの組み合わせは、リスナーに強烈な印象を与えている。

楽曲の構成も計算し尽くされており、Awichの力強い導入から始まり、JP THE WAVY、YZERRそれぞれの個性的なバースが続き、最終的に三人の声が重なるクライマックスまで、聴き手を飽きさせない展開となっている。

ミュージックビデオ – 話題を呼んだ公開方法

「GILA GILA」のミュージックビデオは、フォトグラファーの赤木雄一が監督を務め、スタイリスト兼プロデューサーの服部昌孝とプロデューサーの沖鷹信の指揮で撮影が行われた。

特筆すべきは、このミュージックビデオの公開方法だ。Awich本人が自身のInstagramに「1万コメントでこの曲のミュージック・ビデオ公開する」という投稿を行い、投稿後わずか1時間で1万のコメントを達成し、その流れから公開された。このSNSを活用したマーケティング手法は、現代のアーティストにとって重要な戦略の一つを示している。

ミュージックビデオは公開から1週間で再生回数100万回を達成し、楽曲の人気の高さを証明した。映像では、三人のアーティストそれぞれの魅力が存分に表現されており、Awichの女神的な存在感、JP THE WAVYのクールなスタイル、YZERRの洗練されたファッションセンスが見事に融合している。

歌詞に込められたメッセージ – それぞれの成功への道筋

Awichのバース – 女神の君臨宣言

楽曲の冒頭でAwichが歌う「IllなLegacy 違うエナジー、病める民が求む この言葉がセラピー」というラインは、彼女の音楽が持つ治癒力と影響力を表現している。「Bad BitchのPedigree You’re not a friend to me 対等に話したいなら 登ってこいこのPyramid」という部分では、自らをピラミッドの頂点に位置づけ、対等な関係を築くためにはそのレベルまで上がってくる必要があると宣言している。

「女神君臨 与えるダメージ バース蹴ればSpinning bird kicks まるでChung-Li」という表現では、ストリートファイターのキャラクター春麗を引用しながら、自らの戦闘力の高さを表現している。これは単なる比喩ではなく、日本のヒップホップシーンにおける激しい競争を戦い抜く意志の表れだ。

特に印象的なのは、「『姉さんならもっとイケる』あの日YZERRが言ってくれた 天国から見守ってる 死ぬ前のあいつも言っていた」というパートだ。これは実際にYZERRが彼女に言った言葉であり、また亡き夫からの励ましの言葉でもある。この部分は、楽曲に深い人間的な温度を与えている。

JP THE WAVYのバース – 努力と成功の哲学

JP THE WAVYのパートでは、「Work hard, play harder」という成功哲学が明確に表現されている。「首元ならキラキラ 混ざり気ない純度100%のVVのChain」という表現では、彼の成功が本物であることを宝飾品を通じて象徴的に示している。

「俺達いつも ヒットヒットヒットずっとLit きっとHaters達ずっと嫉妬」というラインは、継続的な成功への自信と、それに対する批判者への余裕を示している。彼の楽曲における一貫したテーマである「継続的な成功」が、この楽曲でも明確に表現されている。

YZERRのバース – ビジネスマインドとライフスタイル

YZERRのパートは、彼のビジネスマインドとライフスタイルが色濃く反映されている。「Alexにオーダーして作ってもらってるこのDrip いくら稼いでも足りないなYen やりたい事にBet Bet Bet 投資しては稼ぐ」というラインは、単なる消費ではなく、投資的な思考で行動していることを示している。

「夜中にちょっと相談 そっちの方調子はどう AtlantaのYZERRに電話 IceboxでBuss down良いね」という部分では、アメリカとの繋がりやグローバルな視点を持っていることが表現されている。これは、日本のヒップホップシーンが世界と直接的に繋がっていることの象徴でもある。

楽曲の社会的インパクト

「GILA GILA」は単なるヒット曲を超えて、日本のヒップホップシーンに大きな社会的インパクトをもたらした。まず、この楽曲はAwichにとって初めてBillboard Japan Hot 100にチャートインした楽曲となり、92位でピークを記録した。これは彼女のメジャーシーンでの成功を数値的に示す重要な指標となった。

また、2022年3月14日に開催されたAwich初の日本武道館単独公演「Welcome to the Queendom」では、JP THE WAVYとYZERRを迎えて「GILA GILA」が披露された。この公演は日本の女性ラッパーとして初の武道館単独公演であり、日本のヒップホップ史における歴史的な瞬間となった。

楽曲は音楽番組でも取り上げられ、2022年5月6日に放送された日本テレビ系「MUSIC BLOOD」でAwichがJP THE WAVY、YZERRと共に「GILA GILA」をテレビで歌唱した。これにより、楽曲の知名度はヒップホップファンを超えて一般層にも拡大した。

次世代ヒップホップの方向性

「GILA GILA」が示したのは、日本のヒップホップが新たな段階に入ったということだ。従来のアンダーグラウンドシーンとメジャーシーンの境界が曖昧になり、実力のあるアーティストが自然にメインストリームで活動できる環境が整いつつあることを示している。

三人のアーティストがそれぞれ異なる背景とスタイルを持ちながら、一つの楽曲で見事に融合している点も注目に値する。Awichの人生経験に裏打ちされた重厚な表現力、JP THE WAVYの現代的でクールなセンス、YZERRのビジネスマインドとファッションセンス。これらが組み合わさることで、日本のヒップホップの新たな可能性が示された。

また、楽曲制作からプロモーション、ライブパフォーマンスまで、現代的なマーケティング手法とSNSの活用が効果的に行われた点も、次世代のアーティストにとって重要なモデルケースとなっている。

国際的な評価と影響

「GILA GILA」の成功は国内にとどまらず、国際的な注目も集めた。参加アーティストの三人がそれぞれ国際的な活動を展開していることもあり、楽曲は海外のヒップホップファンからも高い評価を受けた。

特にJP THE WAVYの国際的な活動と、YZERRのBAD HOPでの実績、そしてAwichの多様な音楽的背景が組み合わさることで、日本のヒップホップの国際的な認知度向上に大きく貢献した。

この楽曲の成功は、日本のヒップホップアーティストが世界市場でも通用することを証明する重要な事例となり、後続のアーティストたちにとって大きな励みとなった。

結論 – 新時代の幕開けを告げるアンセム

「GILA GILA feat. JP THE WAVY, YZERR (Prod. Chaki Zulu)」は、日本のヒップホップシーンにおいて新時代の幕開けを告げる記念碑的な作品だ。Awichの確立された実力、JP THE WAVYの革新的なセンス、YZERRの戦略的思考、そしてChaki Zuluの卓越したプロダクション能力が結集した結果、日本のヒップホップの新たな可能性を示すマスターピースが誕生した。

楽曲タイトルの「GILA GILA」が示すように、この作品は輝きに満ちた次世代のヒップホップアンセムとして機能している。三人のアーティストがそれぞれの「GILA GILA」(輝き)を持ち寄り、一つの楽曲として昇華させることで、個々の魅力を超えた圧倒的な存在感を創出している。

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