楽曲概要と背景
2020年5月22日にリリースされた「Best Way 2 Die feat. Jin Dogg, LEX & YOUNGBONG」は、日本のヒップホップシーンを牽引するプロデューサーデュオDJ CHARI & DJ TATSUKIが手がけた注目の楽曲です。この作品には、在日韓国人ラッパーのJin Dogg、次世代を代表する若手ラッパーのLEX、そしてタイからYOUNGBONGという国際的な布陣で制作されています。
プロデューサーデュオDJ CHARI & DJ TATSUKIの実力
DJ CHARIの背景
DJ CHARIは静岡県浜松市出身で、中学3年生の頃にKICK THE CAN CREWを聴き衝撃を受けてヒップホップにのめり込んだ人物です。国内最高峰のプロデューサーチーム・BCDMG所属で、2016年にはBCDMG内に新たなレーベル・AIR WAVES MUSICを設立しました。
DJ CHARIという名前の由来は興味深く、「クラブまで自転車で通ってたら、先輩に『お前いつもチャリで来るから、CHARIだ!』って言われて、DJ CHARIになりました」という実にシンプルで親しみやすいエピソードがあります。
DJ TATSUKIの音楽的背景
DJ TATSUKIは東京杉並区出身で、母方の祖母が琴の先生という音楽家の血筋に生まれました。4歳の頃からバイオリンを習い、中学2年の時にDABOが表紙に載っていた雑誌をきっかけにNITRO MICROPHONE UNDER GROUNDの存在を知り、ヒップホップと出会いました。
特筆すべきは、DJ TATSUKIが高校を1年で退学し、その後東京ビジュアルアーツ専門学校DJ科に入学するも半年ほどで退学したという経歴です。しかし、この専門学校でDJ CHARIと出会い、長年のパートナーシップが始まったのです。
二人のコラボレーションの軌跡
DJ CHARI & DJ TATSUKIは2018年4月に初のオフィシャルアルバム『THE FIRST』をリリースし、大きな話題を呼びました。同作に収録された「ビッチと会う feat. Weny Dacillo、Pablo Blasta & JP THE WAVY」がSNSを中心にバイラルヒットし、現在のJapanese Hiphopシーンを語る上で欠かすことのできないDJコンビとしての地位を確立しました。
参加アーティストの魅力
Jin Dogg:在日韓国人としてのリアリティ
在日韓国人三世として大阪で生まれ、10歳で韓国に渡りヒップホップと出会ったJin Doggは、代表曲「街風」でも示されるように、自身のアイデンティティと生きる場所の現実を正面から表現する実力派ラッパーです。
LEX:次世代を代表する天才ラッパー
2002年生まれ、神奈川県湘南エリア出身のLEXは、天性のメロウボイスと攻撃的な楽曲とのギャップ、感情むき出しのリリックがユース世代を中心に熱狂的な支持を得ています。14歳からSoundCloudに楽曲をアップロードし始め、2019年4月、16歳のときにファースト・アルバム「LEX DAY GAMES 4」で衝撃的なデビューを果たしました。
LEXの名前の由来は深い背景があり、アメリカ人の2人目の父親(継父)の名前「レックス」から取られています。DVなどで母親のことを悲しませていた継父のことを許せなかったLEXは、あえて継父の名をラッパー名として使うことで、忘れることなく強くなるという意志を込めています。
YOUNGBONG:国際的な視野を示すコラボレーション
YOUNGBONGはタイ出身のアーティストとして参加しており、この楽曲が単なる国内のコラボレーションにとどまらず、アジア圏でのヒップホップシーンの広がりを示しています。
歌詞の一部引用説明
Hook ― Jin Doggの生存宣言
まずはフックから。
「何にも上手く行かねえ
また頭抱えて悩んでる
歌ってないなら死んでる
これないならとっくに死んでる」
Jin Doggは自分にとって音楽=生きる理由であることをここで宣言しています。
「歌ってないなら死んでる」というフレーズは誇張ではなく、彼にとってラップこそが呼吸や心臓の鼓動と同じくらい不可欠だというメッセージ。
続くラインもリアルです。
「また誰かが泣いてる
またあいつ怒ってる
その間俺動いてる
その前に働いてる」
周囲で起きる悲しみや怒りに飲み込まれず、自分は「動く」ことで生き延びる。これはストリートで培ったサバイバル哲学です。
さらに 「ima just do it … like NIKEx4」 と繰り返すことで、「考える前に行動する」という彼の生き様をシンボル化しています。
Verse ― Jin Dogg & LEXの掛け合い
二人のヴァースはまさにストリートのリアル。
Jin Doggパート
「wake and bake filling up backwoods
朝のプクイチはとっておき」
「wake and bake」は起きてすぐ大麻を吸うライフスタイル。Backwoodsはラップカルチャーで象徴的な葉巻型の巻きタバコ。
ここで描かれるのは、朝から非日常をルーティン化する彼の生き方。
「薬 女 金 ぶち込んどく酒
あれもこれもダメ 黙れお前誰」
快楽と欲望を並列しながら、それを批判する外野には「黙れ」と突き放す。ここにも「俺は俺」という強烈な自己確立が出ています。
LEXパート
LEXは若さ特有の破壊力を持ったフロウ。
「ケミ食うlike pets oh pets
それでdo racks on racks
俺ゲット 尻 go to bed
my bro like ウォーキングデット」
薬物・金・女といったトピックを、まるでゲームのように軽快にラップ。
「walking dead」に例えるのは、夜通し遊び続けてゾンビのようになるライフスタイルの隠喩です。
「無理手がない 逃げる手はない
likeaキチbitchスニッチand rich
てかやっぱ俺狙われてた」
人気者ゆえのリスク=狙われることを認めつつも、それすらも燃料に変えて「今しかない」とラップに全てを注ぎ込む姿勢を見せています。
商業的成功とチャート実績
「Best Way 2 Die」は多くの配信プラットフォームでリリースされ、以下のような実績を残しています:
- iTunes Store ヒップホップ/ラップ トップソング:インドネシア 6位(2021年9月23日)
- iTunes Store 総合 トップソング:インドネシア 74位(2021年9月23日)
- iTunes Store ヒップホップ/ラップ トップソング:日本 86位(2021年5月28日)
- Apple Music ヒップホップ/ラップ トップソング:パラグアイ 119位(2021年4月12日)
これらのチャート実績は、楽曲が国内外で幅広く受け入れられていることを示しています。
ミュージックビデオの映像表現
2020年8月18日にミュージックビデオがリリースされ、楽曲の持つエネルギーを視覚的に表現しています。映像は約2分10秒の長さで、各アーティストの個性と楽曲のコンセプトを効果的に伝える内容となっています。
日本ヒップホップシーンでの意義
この楽曲は、現代日本のヒップホップシーンにおいて重要な意味を持っています。まず、異なる世代とバックグラウンドを持つアーティストたちのコラボレーションが実現している点が挙げられます。在日韓国人のアイデンティティを持つJin Dogg、10代の新世代を代表するLEX、そして国際的な視点を持つYOUNGBONGという組み合わせは、日本のヒップホップシーンの多様性と国際化を象徴しています。
また、DJ CHARI & DJ TATSUKIという日本を代表するプロデューサーデュオが手がけることで、技術的なクオリティと商業的な成功を両立した作品となっています。
プレイリストでの評価
楽曲は様々なストリーミングプラットフォームのプレイリストに収録され、以下のような評価を受けています:
- Spotify「ラップスタア誕生」
- Spotify「japanese rap songs」
- Spotify「japanese rap/trap」
- Apple Music「はじめての LEX」
- Apple Music「Hip-Hop: Japan」
これらのプレイリスト収録は、楽曲が日本のヒップホップシーンにおける重要な作品として認識されていることを示しています。
技術的側面での評価
楽曲は現代的なプロダクション技術を駆使して制作されており、各アーティストの声質と特徴を活かしたミキシングが施されています。DJ CHARI & DJ TATSUKIの持つ国際的なプロダクション感覚と、参加アーティストたちの個性的なラップスタイルが見事に調和した仕上がりとなっています。
文化的影響と今後への期待
「Best Way 2 Die」は、日本のヒップホップが持つ可能性を示す重要な作品として位置づけられます。異なる文化的背景を持つアーティストたちが一つの楽曲で共演することで、音楽を通じた文化的な交流と理解の促進に貢献しています。
また、この楽曲の成功は、今後の日本ヒップホップシーンにおいて、より多様でインターナショナルなコラボレーションが増加する可能性を示唆しています。
結論
DJ CHARI & DJ TATSUKI「Best Way 2 Die feat. Jin Dogg, LEX & YOUNGBONG」は、現代日本ヒップホップシーンの到達点を示す重要な作品です。優れたプロデュース技術、多様性に富んだアーティスト参加、そして国際的な視点を兼ね備えたこの楽曲は、日本のヒップホップが世界に通用するクオリティに達していることを証明しています。
同時に、異なる世代とバックグラウンドを持つアーティストたちの共演は、音楽の持つ普遍的な力と、文化的境界を超えた表現の可能性を示しており、今後の日本ヒップホップシーンの発展に大きな影響を与える作品として評価されるべきでしょう。
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