深夜に響くウェストコーストの鼓動 – Dezzy Hollow「Late Night」が織りなすファンクの系譜

CHICANO

「California Love」のDNAを継ぐ、新世代の夜想曲

2020年11月20日、Dezzy Hollow(デジー・ホロウ)はアルバム『Can U Handle The Funk』をリリースした。その中でも特に注目を集めたのが、アルバムの2曲目に収録された「Late Night」である。この楽曲は、西海岸ヒップホップの歴史的名曲へのオマージュを込めながら、独自の世界観を構築することに成功した、まさに新旧が融合した傑作と言える。

「Late Night」の最大の特徴は、2Pac feat. Dr. Dre & Roger Troutmanによる伝説的楽曲「California Love」(1995年)のサンプリングを大胆に使用している点だ。さらに遡れば、「California Love」自体がJoe Cockerの「Woman to Woman」(1972年)をサンプリングしており、この楽曲は実に半世紀近くに及ぶ音楽的系譜の最新章を刻んでいることになる。

『Can U Handle The Funk』- ファンクへの回帰宣言

「Late Night」が収録されたアルバム『Can U Handle The Funk』は、Dezzy Hollowにとって重要な転換点となった作品である。全10曲、約29分というコンパクトな構成の中に、彼の音楽的ルーツと未来への展望が凝縮されている。

アルバムは「22’s」で幕を開け、「Late Night」へと続く。その後も「Be Like That (feat. Ryan Anthony)」「Rather (feat. Hardini)」「Reporting Live From Oceanside (feat. Babee Loc & Jessica Duron)」といった楽曲が続き、オーシャンサイドという街の日常と、そこに生きる人々の物語を音楽として昇華させている。

タイトルの『Can U Handle The Funk』は、リスナーへの挑戦状であると同時に、ファンクという音楽ジャンルへの敬意の表明でもある。60年代、70年代のファンクレジェンドたちから受け継いだ音楽的DNAを、2020年代の感性でアップデートする試みは、まさにDezzy Hollowの真骨頂と言えるだろう。

深夜の街が語る物語

「Late Night」というタイトルが示す通り、この楽曲は夜の情景を描いている。「Gets tricky in the late night / On the west on the」というリリックからも分かるように、西海岸の深夜という特別な時間帯が持つ独特の雰囲気を音楽で表現している。

深夜の街は、昼間とは異なる顔を見せる。街灯の光、静まり返った道路、時折聞こえるエンジン音、そして夜を生きる人々の息遣い。これらすべてが、Dezzy Hollowの音楽を通じて一つの物語として紡がれていく。

オーシャンサイドのMid Valley地区で育った彼にとって、深夜の街は創造性が最も高まる時間帯だったのかもしれない。13歳で初めて楽曲を作った頃から、夜の静けさの中で音楽と向き合い、自身の表現を磨いてきた経験が、この楽曲に深みを与えている。

サンプリングが繋ぐ音楽の歴史

「Late Night」が「California Love」をサンプリングしたことは、単なる音楽的引用を超えた意味を持つ。1995年にリリースされた「California Love」は、2Pacが刑務所から釈放された後のカムバックシングルであり、Death Row Recordsでの最初の作品でもあった。この楽曲は2週間にわたって全米チャート1位を獲得し、西海岸ヒップホップの代表曲となった。

「California Love」のプロデュースを手掛けたDr. Dreは、Joe Cockerの「Woman to Woman」からピアノとホーンのループを抽出し、Roger Troutmanのトークボックスと組み合わせることで、独特のファンキーなサウンドを生み出した。さらに、Zappの「Dance Floor」やKleerの「Intimate Connection」といった楽曲の要素も取り入れられており、複層的な音楽的構造を持っている。

Dezzy Hollowの「Late Night」は、この複雑な音楽的遺産を引き継ぎながら、2020年代の新しい視点を加えている。彼は過去へのリスペクトを示しつつ、自身の世代が持つ独自の感性と経験を音楽に込めることに成功している。

MadStrangeレーベルの挑戦

「Late Night」を含む『Can U Handle The Funk』は、オーシャンサイドを拠点とする独立レーベルMadStrangeからリリースされた。このレーベルは、メジャーレーベルに依存せず、地元のアーティストたちが自由に表現できる場を提供することを目的としている。

MadStrangeの創設者であるXimenez兄弟とDezzy Hollowの関係は、単なるビジネスパートナーシップを超えた、創造的な協力関係として機能している。音楽制作だけでなく、ミュージックビデオの制作、マーチャンダイジング、ライブイベントの企画など、多角的な活動を通じて、オーシャンサイドの音楽シーンを盛り上げている。

「Late Night」のリリースは、地方都市から世界へ向けて音楽を発信することの可能性を証明した。SpotifyやApple Music、TIDAL、Amazon Musicといった主要なストリーミングプラットフォームで配信され、世界中のリスナーにオーシャンサイドの音を届けている。

継承と革新のバランス

Dezzy Hollowが「Late Night」で実現したのは、音楽的伝統の継承と革新の絶妙なバランスである。彼は「California Love」という西海岸ヒップホップの金字塔をサンプリングすることで、先人たちへの敬意を示しながら、同時に自身の世代が持つ新しい視点と感性を表現している。

この楽曲は、単なるノスタルジックな回顧ではない。むしろ、過去の偉大な作品を土台として、現在の物語を紡ぐという創造的な挑戦である。2Pacが「California Love」で描いた90年代のカリフォルニアと、Dezzy Hollowが「Late Night」で描く2020年代のカリフォルニアは、時代こそ異なれど、同じ土地に根ざした生活と文化を共有している。

コミュニティとの絆

「Late Night」の成功は、Dezzy Hollow個人の才能だけでなく、彼を支えるコミュニティの存在なくしては語れない。オーシャンサイドという街が持つ多様性と創造性が、彼の音楽に深みと説得力を与えている。

2022年5月にオーシャンサイド美術館で開催されたライブパフォーマンスでは、「Late Night」を含む楽曲群が、地元の観客の前で披露された。家族や友人、そして地元のファンたちが見守る中での演奏は、音楽が単なる商品ではなく、コミュニティを結びつける重要な文化的要素であることを再確認させた。

未来への展望

「Late Night」は、Dezzy Hollowの音楽的旅路における重要な一歩である。この楽曲を通じて、彼は西海岸ヒップホップの伝統を尊重しながら、新しい世代の声を力強く響かせることに成功した。

2020年の『Can U Handle The Funk』から、2022年の『One Nation Under The Funk』、そして2025年の最新作『OCEANSIDE』へと続く彼の作品群は、一貫してファンクの精神を現代に蘇らせる試みを続けている。「Late Night」は、この継続的な探求の中で生まれた、過去と現在、そして未来を繋ぐ架け橋となる作品である。

深夜のオーシャンサイドの街角で、若者たちが音楽に身を委ね、自分たちの物語を紡いでいく。「Late Night」は、そんな瞬間を音楽として永遠に刻み込んだ、時代を超えて愛される楽曲となることだろう。Dezzy Hollowが示したのは、地元への愛と誇り、伝統への敬意、そして革新への勇気が、優れた音楽作品を生み出す原動力となることである。

コメント

タイトルとURLをコピーしました