GADORO – 心音 (Pro. S-NA)

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ラッパーとビートの切っても切れない絆

2024年4月3日にリリースされたアルバム『TAKANABE』の10曲目に収録されている「心音」は、GADOROがビートに対する思いを歌い上げた特別な楽曲です。S-NAが手掛けた哀愁漂うビートの上で、GADOROは音楽との出会い、そしてビートとの切っても切れない関係性を情感豊かに表現しています。

ラッパーにとってビートとは、単なる伴奏ではありません。それは言葉を乗せる器であり、パートナーであり、時には人生そのものです。「心音」はそんなビートへの愛を、まるでラブソングのように綴った作品となっています。

S-NAが生み出す哀愁のサウンドスケープ

サウンドプロデュースを手がけたのは、広島を拠点に活動するビートメイカー、アレンジャー、プロデューサーのS-NAです。彼は10年間大阪より全国のアーティストへ数多く楽曲、ビートを提供してきた実力派プロデューサーで、2018年に同郷広島にてTAG DOCKへ加入し、本格的に活動を開始しました。

S-NAはこれまでにBERRY GOODMAN、崇勲、輪入道といった有名アーティストに楽曲を提供してきた実績を持っています。彼の特徴は、哀愁と温もりが同居するビート作りにあり、「心音」でもその才能が存分に発揮されています。

メロディアスでありながら切なさを感じさせるトラックは、GADOROのエモーショナルなリリックを最大限に引き立てています。ビートそのものが、まるで心臓の鼓動のように静かに、しかし確実にリスナーの心に響いてきます。

「心音」というタイトルに込められた意味

楽曲のタイトル「心音」は、文字通り心臓の音を意味します。人間が生きている限り止まることのない鼓動——それはまさに、GADOROにとってのビートそのものを表しているのでしょう。

ビートと出会い、ラップと出会ったことで人生が変わったGADORO。その出会いは運命的で、もはや切り離すことができない存在になっています。楽曲の中では、ビートを擬人化し、まるで恋人に語りかけるように想いを伝えています。

「やることも無え、楽を望んで 俺の目の前は常に真っ黒の光景 そんな時に出会って思わず捨てたのさ覚悟の童貞」という冒頭のリリックからは、どん底の状況からビートに救われた過去が垣間見えます。暗闇の中で光を見出した瞬間、それがGADOROにとってのヒップホップとの出会いだったのです。

小林慎一朗が描く感情の機微

ミュージックビデオの監督を務めたのは、GADOROの「はなみずき」なども手がける小林慎一朗です。彼はGADOROの感情の機微を映像に落とし込むことに長けており、「心音」でもその手腕が発揮されています。

映像では、GADOROが一人で部屋にいる姿や、思索にふける表情が映し出されます。派手な演出はなく、むしろ静かに、内省的に、ビートとの対話を続けるGADOROの姿が印象的です。シンプルながらも深い余韻を残す映像は、楽曲の世界観を完璧に表現しています。

片思いのような、ビートへの想い

「君の良くない噂などもう聞きたくないよ 俺のものにすらもなれやしないのに ずっと手離せず生きていた」というリリックからは、まるで叶わぬ恋をしているかのようなGADOROの心情が伝わってきます。

ヒップホップという音楽、ビートという存在は、決して楽な道ではありません。成功の保証もなく、周囲から理解されないこともあります。それでもGADOROはビートを愛し続け、ビートに言葉を乗せ続けてきました。

「三日と持たねえ坊主が唯一長続きした片思い」という表現は、飽きっぽい性格のGADOROが、唯一続けられたものがラップであり、ビートとの関係性だったことを示しています。それは単なる趣味や仕事ではなく、人生そのものだったのです。

アルバム『TAKANABE』における重要な位置づけ

「心音」はアルバム『TAKANABE』の10曲目、つまり終盤に配置されています。アルバム全体を通して地元への愛、人生への向き合い方、仲間との絆などを歌ってきたGADOROが、最後に語るのは音楽そのものへの愛でした。

1曲目の「ガラクタ」から始まり、Awichとの「Pain」、地元愛溢れる「JIMOTO feat. SHINGO★西成」を経て、最後に自分自身のルーツであるビートへの想いを歌う——この構成は、GADOROというアーティストの核心に迫る流れとなっています。

ビートは心臓の音、そして人生の音

「ピリオドのように丸めた背中 いつもさすってくれたビート」というリリックには、辛い時、苦しい時、常にそばにいてくれたビートへの感謝が込められています。言葉にならない想いを、ビートは音で表現してくれる。GADOROはその上に自分の人生を乗せてきたのです。

「誰の教えにも貸さずにいた耳も 隣で君が囁くたびにいつの間にか揺れた心臓」という表現からは、頑固で人の話を聞かなかったGADOROが、ビートの声だけは聞き続けてきたことが分かります。それは恋であり、信仰であり、人生の指針でもありました。

歌モノとしての側面

「心音」の特徴の一つは、GADOROがラップだけでなく、歌としての表現も取り入れている点です。哀愁漂うメロディに乗せて、時にはメロディアスに、時にはささやくように言葉を紡ぎます。

これまでのGADOROの楽曲でも歌モノ要素は見られましたが、「心音」ではそれがより際立っています。ビートへの愛を歌うこの楽曲において、ラップだけでなく歌という手段を使うことで、より深い感情表現が可能になっているのです。

音楽と共に生きる覚悟

「顔も知らない君の声が今 隅に置いたオセロのように この気持ちならば変わらないよ」という締めくくりのリリックには、これから先もビートと共に生きていく覚悟が表れています。

2025年3月には日本武道館でのワンマンライブを成功させ、さらなる高みを目指すGADORO。しかし、どれだけ成功しても、どれだけ有名になっても、彼の根底にあるのはビートへの純粋な愛です。「心音」は、そんなGADOROの音楽家としての原点を再確認させてくれる楽曲となっています。

まとめ

GADORO「心音 (Pro. S-NA)」は、ラッパーとビートの関係性を、まるでラブソングのように描いた珠玉の作品です。S-NAの哀愁漂うビートと、GADOROの感情豊かなリリックが見事に融合し、リスナーの心に深く響きます。

音楽と共に生きる者にとって、ビートは心臓の音そのもの。この楽曲を聴けば、GADOROがなぜ音楽を続けているのか、なぜ宮崎という地方都市から全国へと発信し続けているのか、その理由が痛いほど伝わってくるはずです。

心音——それは、GADOROの人生そのものが奏でる音なのです。

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