DJ TATSUKI「Invisible Lights feat. Kvi Baba & ZORN」

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はじめに

2019年1月31日、DJ TATSUKIが自身名義でリリースした「Invisible Lights」は、当時19歳の新鋭ラッパーKvi BabaとヒップホップシーンのレジェンドZORNを客演に迎えた、深い内省性を持つ楽曲だ。

タイトルの「Invisible Lights」は「見えない光」を意味する。人生における虚しさや孤独を歌いながらも、最後には希望の光が見えてくる——そんな人間の心の旅を描いた、約5分間の魂の対話である。

楽曲基本情報

楽曲タイトル: Invisible Lights feat. Kvi Baba & ZORN
アーティスト: DJ TATSUKI feat. Kvi Baba & ZORN
リリース日: 2019年1月31日
レーベル: AIR WAVES MUSIC
長さ: 4分46秒

DJ TATSUKIのキャスティング

この楽曲は、DJ TATSUKIによるキャスティングの元、彼がバックDJを務める盟友ZORNと、大阪在住19歳の新鋭ラッパーKvi Babaが客演で参加している。

20歳の頃からZORNのライブDJとして活動してきたDJ TATSUKIにとって、ZORNは特別な存在だ。2021年の横浜アリーナでのZORNワンマンライブ「汚名返上」では、オーケストラの一員としてバイオリン奏者としても出演しており、音楽的なパートナーシップの深さを物語っている。

Kvi Baba – 19歳の天才ラッパー

繊細な魂を持つ若き才能

Kvi Babaは1999年生まれ、大阪府茨木市出身のラッパー/シンガーソングライター。本名のカイ(KAI)のAを逆さにしたV(KVI)と、トランプのジョーカーであるババ(BABA)を組み合わせた名前は、「唯一無二の存在でありたい」という願いが込められている。

音楽との出会い

友人の付き添いで大阪・西成のスタジオに訪れたことをきっかけに、2017年頃からSoundCloudで楽曲を公開し始めた。18歳まで全く音楽経験がなかったKvi Babaだが、その圧倒的なセンスから1年もしないうちに世に出ることになる。

勉強も運動もできず、何も取り柄がなかった少年が、ラップと出会って「僕にも何かひとつできることがあったんだ」と思えた。感受性豊かだった自分の心に抱えている闇を、あえて歌にすることで光をもたらしてくれるのではないか——音楽に可能性を感じ始めた。

クリスチャンとしてのアイデンティティ

Kvi Babaはクリスチャン(キリスト教徒)であることを公言しており、曲名やアルバム名、歌詞の中にもその要素が頻出する。「神様、救い、赦し、祈り」などキリスト教の重要な概念がテーマとして使われており、「Invisible Lights」でもそうした精神性が色濃く反映されている。

エモーショナルなラップスタイル

歌とラップの境界のようなメロディックなフロウが特徴で、内省的かつ鬱屈した心情を歌ったリリックが魅力。「初心者でも分かりやすい」ことを意識し、普段使わない言葉を無理して使うより、簡単でシンプルなワードを使うことを大切にしている。

ZORN – 等身大のリリシスト

東京下町が生んだレジェンド

ZORNは1989年2月16日生まれ、東京都葛飾区新小岩出身のラッパー。本名は杉山雄基。生活に根差した等身大のリリックと、複雑に重ねられる圧倒的な韻が評価されている。

波乱の青春時代

幼少期は決して恵まれた環境ではなく、幼稚園のカバンから注射器が出てきたり、錠剤が転がっていたりという家庭で育った。小さい頃から悪さを繰り返し、3回逮捕され、高校進学後も中退。18歳・19歳の2年間を少年院で過ごした。

しかし少年院で更生の道を歩み始め、少年院内の作文コンクールで最優秀賞を受賞し主席で卒業。出所後は本格的にラッパーとして活動し、「THE罵倒」3連覇、「ULTIMATE MC BATTLE 2008」ベスト4など、MCバトルで圧倒的な実力を示した。

昭和レコードから独立へ

2014年、般若主宰の昭和レコードに加入し、活動名を「ZONE THE DARKNESS」から「ZORN」に改名。2015年の5thアルバム『The Downtown』収録の「My Life」では、ラッパーと兼業している塗装工で働く姿も映し出され、「洗濯を干すのもヒップホップ」という一節が大きな話題となった。

2019年7月、30歳を区切りに昭和レコードを脱退し独立。2021年1月24日には日本武道館でワンマンライブ「My Life at 日本武道館」を成功させ、東京下町から武道館へという夢を実現させた。

家族への愛

ZORNの楽曲には、家族への愛が頻繁に登場する。再婚した妻と3人の娘(うち2人は連れ子)との生活をリリックにし、「My life」「Letter」「シャウエッセン」など、度々娘への想いを歌っている。ラッパーとして成功した現在も週6で塗装工の現場仕事を続けており、「独房から新築一軒家」という一節に、彼の人生の変化と家族を守る決意が込められている。

楽曲のテーマ

孤独と虚しさからの脱却

「Invisible Lights」は、人生における孤独、虚しさ、そして喜びと悲しみの狭間で揺れる心情を描いている。Kvi Babaは冒頭で、強がりだけを人に見せ、優しさを閉ざした結果、孤独になった自分の姿を歌う。

疲れていく心と体、過去の過ちが追い討ちをかける——そんな暗闇の中で、「何ができて何をして死にたい? 何を残し空の方へゆきたい?」と自問する。息を閉ざす時にまで後悔したくはないという、切実な願い。

愛せる自分を探す旅

「愛せる自分を探すため」——Kvi Babaのこの一節は、楽曲全体のテーマを象徴している。足りないのは時間じゃなく、会えないのは誰かじゃなく自分自身。自分を受け入れ、愛することができなければ、本当の光は見えてこない。

そして微笑んでいた自分の最期の声が語る「その悲しみも光る未来」——悲しみさえも、未来の光の一部となる。この希望のメッセージが、「見えない光」というタイトルの意味を明らかにする。

ZORNが描く人生のUp&Down

ZORNのヴァースでは、より具体的な人生の現実が描かれる。降り掛かる日々を凌ぎ、欲しいものを欲張るあまり大事なものを無くす——よくある話だと、冷静に振り返る。

望んでいた変化が訪れても、心がすり減っていく。久々に帰って娘を抱いても、自分が分からずに泣かれてしまう。「無理ねぇか」という一言に、父親としての葛藤が込められている。

「地べたを這ってた」という過去から、「人生はそうUp&Down」という現実認識へ。数字や欲望が信念を曲げてしまい、似合わない服や見合わない靴を脱いで、シンプルに自分流に生きていきたい——そんなZORNの率直な想いが伝わってくる。

消えない光は愛情

Kvi Babaの最後のヴァースでは、人生の有限性が意識される。生まれて育ち、時を得て息を閉ざすその間に残せるものは何か? 死んだ後にでも残せるものなら——。

「消えないのは痛みじゃないようで 消えないのは確かな愛情で」というリリックが、楽曲の結論を示している。痛みは消えても、愛情は消えない。その「光の愛情」こそが、タイトルにある「見えない光」の正体なのだ。

ミュージックビデオ

「Invisible Lights」のミュージックビデオでは、DJ TATSUKI、Kvi Baba、ZORNの3人が真剣な表情でラップする姿が映し出されている。シンプルな映像ながら、3人の真摯な姿勢と楽曲のメッセージが強く伝わってくる内容となっている。

19歳と30歳の対話

この楽曲の特別な意味は、19歳のKvi Babaと30歳のZORNという、11歳の年齢差がある二人のラッパーが共演している点にある。

Kvi Babaは人生の入り口で、自分を探し、光を求めている。一方のZORNは、少年院、家族、仕事という具体的な人生経験を経て、それでもなお前を向いて歩き続けている。

若さゆえの繊細な感受性と、経験を重ねた者の諦観と希望——二つの異なる視点が「見えない光」という共通のテーマで結ばれている。

DJ TATSUKIの役割

DJ TATSUKIは、この楽曲でプロデューサーとして、二人のラッパーを繋ぐ役割を果たしている。ZORNのライブDJとして長年活動してきた信頼関係と、新進気鋭のKvi Babaの才能を見抜く眼力。

幼少期からバイオリンを習い、音楽家の血筋に生まれたDJ TATSUKIならではの音楽的感性が、この楽曲の深みを生み出している。

おわりに

DJ TATSUKI「Invisible Lights feat. Kvi Baba & ZORN」は、人生の暗闇の中で「見えない光」を探し続ける、普遍的なテーマを描いた楽曲だ。

2019年、19歳のKvi Babaと30歳のZORNが、DJ TATSUKIのプロデュースの元で共演し、世代を超えた魂の対話を実現した。強がりと孤独、虚しさと希望、痛みと愛情——人生のあらゆる感情が、この一曲に込められている。

「消えないのは光の愛情で」——Kvi Babaの最後の言葉は、すべての人への希望のメッセージだ。どんなに暗い夜でも、愛情という光は消えない。その光を信じて、空へ向かって歩き続ける。

DJ TATSUKIがバイオリンで参加した楽曲「NOISE feat. Benjazzy & Jin Dogg」、美空ひばりをサンプリングした「TOKYO KIDS」など、常に新しい挑戦を続けるDJ TATSUKIにとって、「Invisible Lights」は彼の音楽性の深さを示す重要な作品となった。

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