はじめに
2023年9月7日、福岡の若きスターDADAが約1年1ヶ月ぶりとなる新曲「Satsutaba (feat. Watson)」をリリースした。客演には、徳島出身の新進気鋭ラッパーWatsonを迎え、両者ともKOHHに影響を受けたというバックグラウンドを持つ2人が、ラップで掴んだ成功を大胆不敵にフレックスする楽曲だ。
タイトルの「Satsutaba(札束)」が示す通り、この曲は金銭的成功をテーマにしながらも、そこに至るまでの苦労と葛藤、そして現在の心境をリアルに描いている。
楽曲「Satsutaba feat. Watson」解説
リリース背景
「Satsutaba」は、DADAが2022年7月にリリースしたAZUとの共作アルバム『Changes』以来、約1年1ヶ月ぶりのシングルリリースとなった。2023年のヒップホップシーンで「Feel Alive」や「Working Class Anthem」などで存在感を示し続けていたWatsonを客演に迎えた本作は、両者の成功への軌跡を象徴する重要な楽曲となっている。
MVは2023年9月5日22時に先行公開され、2人のラップシーンをモノクロの映像で捉えたクールな作品に仕上がっている。
プロデューサー:dubbybunny
本作のビートを手がけたのは、プロデューサーのdubbybunny。攻撃的なドリルビートを提供し、DADAとWatsonのアグレッシブなラップを引き立てている。dubbybunnyは2023年の日本のヒップホップシーンにおいて、ドリルサウンドを牽引する重要なプロデューサーの一人だ。
楽曲の世界観とテーマ
「札束」をめぐるリアルな心情
タイトル「Satsutaba(札束)」が示す通り、この曲は金銭的成功を正直に描いている。しかし単なる自慢ではなく、そこに至るまでの苦労と、成功を掴んだ今の心境が込められている。
楽曲の中では以下のようなテーマが展開される:
- 過去と現在のコントラスト: かつての貧しさと現在の成功を対比させる描写
- 税金問題: 「かさばるTAXと肩の埃を払う」という現実的な悩み
- 周囲の反応: 成功したことで変わる人間関係や妬み
- 努力の肯定: 「誰でもやれる簡単」「ただやるだけやろガンガン」という姿勢
- 個人事業主としての視点: 「税金対策個人事業主社長」というリアルなビジネス感覚
「ペンギンみたく歩く」というユニークな表現
フックの「ペンギンみたく歩く こうやって金の上歩く」というラインは、札束の上を歩く様子をペンギンの歩き方に例えたユーモアのある表現。Watsonらしいウィットに富んだ言葉選びが光る。
成功の証明と葛藤
「月に500万円」「去年ご飯なんて食えなかった」という具体的な数字と過去の苦労を対比させることで、リアリティを増している。また「クラブの中 毎回なるパンパン」という現在の状況描写も、彼らの人気を物語っている。
しかし同時に「圧力さえもありがとう 本当気にしてないなにも」という強がりとも取れるラインや、「これなきゃ俺死んだ目」という切実な思いも表現されており、成功の裏にある精神的な負担も垣間見える。
音楽性とスタイル
楽曲は3分10秒の尺で、ダークでアグレッシブなUKドリルビートが特徴。dubbybunnyの手がけるビートは重厚で、2人のラップを効果的に引き立てている。
DADAとWatsonはそれぞれの個性を活かしながらも、共通してKOHHから影響を受けたリアルでストレートなラップスタイルを展開。Watsonの特徴である倍速の詰め込みフロウと、DADAのエモーショナルなアプローチが絶妙にマッチしている。
モノクロのMVは、楽曲のダークな雰囲気と相まって、2人のシリアスな表現を際立たせている。派手な演出を抑え、ラップそのものに焦点を当てた作りとなっている。
2人の共通点:KOHHからの影響
DADAとWatsonには、いくつかの重要な共通点がある:
KOHHへのリスペクト
両者ともKOHHから決定的な影響を受けている。DADAは電柱に貼られたKOHHのフライヤーを見て「日本語なのにA$AP Rockyと同じやん!」と衝撃を受け、ラップを始めるきっかけとなった。Watsonも「KOHHさんは全曲聴いてる」と公言し、ありのままの思いを書くスタイルに影響を受けている。
リアルなリリック
両者とも自分を大きく見せるのではなく、等身大の自分や身の回りの出来事をリリックにする点で共通している。Watsonは「自分に忠実でいる」ことにこだわり、DADAは自身の壮絶な生い立ちを赤裸々に表現する。
地方からの成功
DADAは福岡・野芥、Watsonは徳島・小松島という地方都市出身でありながら、東京に移住せず地元を拠点に全国区での成功を掴んでいる点も共通している。
ストリートからの脱却
両者とも過去に「ストリートで色々やったり」していた経験を持ちながら、音楽で成功を掴み、新しい人生を切り開いている。
チャート実績
「Satsutaba (feat. Watson)」は、リリース直後に高い評価を獲得:
- iTunes Store Hip-Hop/Rap TOP SONGS(日本): 21位(2023年9月8日)
- Apple Music Hip-Hop/Rap Top Songs(日本): 92位(2023年9月10日)
ストリーミング時代において、インディペンデントなリリースでこの順位に入ることは、両者の人気と楽曲の質の高さを証明している。
日本のヒップホップシーンにおける位置づけ
新世代のドリルムーブメント
2023年の日本のヒップホップシーンは、UKドリルの影響を受けた楽曲が多数リリースされた年だった。「Satsutaba」はその中でも、商業的な洗練とストリートのリアリティを両立させた作品として注目された。
地方発のムーブメント
東京一極集中ではない、地方発のヒップホップムーブメントの象徴的な楽曲でもある。福岡のDADAと徳島のWatsonがコラボすることで、地方都市間の新しいネットワークの可能性を示した。
等身大のフレックス
従来のヒップホップにおける「フレックス(誇示)」は、しばしば誇張や虚構を含むものだったが、DADAとWatsonのフレックスは極めてリアル。税金の話や個人事業主としての視点など、実際に成功を掴んだアーティストだからこそ描ける具体性がある。
Watson系ラッパーの登場
2023年のヒップホップシーンでは、Watsonのフロウに影響を受けた「Watson系」のラッパーが多く現れた。これについてWatson本人は肯定的に捉えており、「俺も最初は誰かの真似から始めた」と語っている。
「Satsutaba」は、そんなWatsonのオリジナリティと影響力を再確認させる楽曲となった。
2人のその後の活動
DADA
「Satsutaba」リリース後も精力的に活動を続け、2024年には「Midnight Drive」「Echoes of You」などの楽曲を立て続けにリリース。TikTokでも使用されるなど、SNSでも話題を集め続けている。
Watson
2023年12月6日に1stアルバム『Soul Quake』をリリース。ANARCHY、¥ellow Bucks、C.O.S.A.、Jin Doggなど豪華アーティストが参加した全16曲入りの充実した作品となった。「Satsutaba」の成功を経て、さらなる高みへと進んでいる。
また、2023年には念願のベンツAMGを購入し、「ベンツ買ってやる」から「ベンツを買ったぞ」と歌えるまでになった。
楽曲の影響と意義
リアルな成功物語
「Satsutaba」は、日本のヒップホップにおける「サクセスストーリー」の新しい形を提示した。派手な演出や誇張ではなく、税金や個人事業主といった現実的な話題を交えながら、本物の成功を描いている。
若手への影響
DADAもWatsonも20代前半という若さで大きな成功を掴んでいる。彼らの姿は、同世代や後輩ラッパーたちに「自分もできるかも」という希望を与えている。
地方ヒップホップの可能性
福岡と徳島という地方都市出身の2人がコラボし、全国規模でヒットを生み出したことは、地方ヒップホップの可能性を大きく広げた。
まとめ
DADA「Satsutaba feat. Watson」は、2023年の日本のヒップホップシーンを象徴する楽曲の一つだ。共にKOHHから影響を受け、ストリートから音楽の世界へと飛び込んだ2人のラッパーが、それぞれの成功を大胆にフレックスする。
しかしこの曲が単なる自慢ソングではないのは、そこに至るまでの苦労と葛藤、そして成功を掴んだ今も続くプレッシャーがリアルに描かれているからだ。「月に500万円」稼ぐ一方で、「去年ご飯なんて食えなかった」過去を持つ。税金に悩み、周囲の反応に気を配りながらも、「本当気にしてないなにも」と強がる。
この等身大のリアリティこそが、「Satsutaba」の最大の魅力であり、多くのリスナーの共感を呼んだ理由だろう。
dubbybunnyの手がける攻撃的なドリルビート、モノクロで撮影されたクールなMV、そして2人の研ぎ澄まされたラップスキル。全ての要素が完璧に調和し、2023年のヒップホップシーンに残る傑作が生まれた。
福岡の野芥と徳島の小松島――日本地図の端と端から現れた2人の若きスターが、「Satsutaba」という楽曲で示したもの。それは、本物の努力と才能があれば、どこからでも成功できるという希望だ。
「ペンギンみたく歩く こうやって金の上歩く」――このユーモラスでありながら力強いラインが、彼らの成功への道のりと、これからの未来を象徴している。
楽曲情報
- タイトル:Satsutaba (feat. Watson)
- アーティスト:DADA feat. Watson
- リリース日:2023年9月7日
- 楽曲時間:3:10
- プロデュース:dubbybunny
- レーベル:NokeyBoyz / NBE
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