はじめに
福岡のヒップホップシーンから登場した注目株、DADA & AZU。2022年7月30日にリリースされた共同アルバム『Changes』の12曲目に収録された「次どこ行く?」は、2人のケミストリーと地元への想いが詰まった楽曲だ。
この曲は、成功を掴み始めた若きラッパーたちの「次はどこへ向かうのか」という問いかけと、変わらない仲間たちとの絆を描いている。
アーティスト紹介
DADA(ダダ)
1999年生まれ、福岡県福岡市早良区野芥出身のラッパー。本名は「れんた」で、母親が誕生日ケーキに書いた「れんたパパ」からインスピレーションを得て「DADA」という名前を付けたという。
DADAの人生は波乱に満ちている。父親がいた幼少期は裕福な生活を送っていたが、小学3年生の頃に父親が突然蒸発。その後の生活は一変し、家計を支えるために高校を中退せざるを得なくなった。この経験が後に代表曲「High School Dropout」の歌詞に反映されることになる。
中学3年生の頃、電柱に貼られたKOHHのフライヤーを見て日本のヒップホップに衝撃を受け、15歳でラップを始める。2021年にリリースした1stアルバム『Yours』収録の「High School Dropout」がTikTokを中心にバイラルヒットし、YouTubeでは1300万回再生を突破。日本のヒップホップシーンに新たなスターとして名乗りを上げた。
UKドリル、トラップ、ハイパーポップなど幅広いサウンドを操り、自身の内面を赤裸々に綴ったエモーショナルなリリックが特徴。実弟には同じくラッパーの太郎忍者がいる。
AZU(アズ)
DADAとは小・中学校時代からの幼馴染で、共にNokeyBoyzを結成したメンバー。DADAとは対照的に、メロディセンスとエモーショナルなリリックが持ち味のラッパーだ。
2021年にDADAとの楽曲「Enemy」「HIT IT!!!」がスマッシュヒットを記録。2023年4月には初のソロEP『Inside Me』をリリースし、Jin Dogg、Watson、柊人といった実力派アーティストを客演に迎えた。2024年2月には2nd EP『Fear』、2025年1月には1stアルバム『Aurora』をリリースし、ソロアーティストとしても着実にキャリアを重ねている。
バンドセットでのワンマンライブも行うなど、従来のヒップホップの枠を超えた表現にも挑戦している。
NokeyBoyz(ノーキーボーイズ)
DADAとAZUが15歳の時に地元・野芥(のけ)の幼馴染たちと結成したヒップホップクルー。クルー名は地名「野芥」に由来する。
主要メンバーはDADA、AZU、Qince、Kirathesavior、Yawnの5人。当初は現役高校生クルーとして、福岡の大人たちの協力を得ながらイベントで活動していた。DADAの自宅がスタジオになっており、後輩たちも含めて毎日一緒に音楽制作に励んでいるという。
「次どこ行く?」楽曲解説
制作背景
「次どこ行く?」は、DADA & AZUの共同アルバム『Changes』のラストトラックとして収録された楽曲。プロデュースはOuttaspace!が手がけている。
アルバム『Changes』自体が、幼少期からの幼馴染である2人の絆と成長を表現した作品となっており、この曲はそのクライマックスとして位置付けられる。
歌詞の世界観
楽曲は「次どこ行く?」というフレーズの反復から始まる。買い物に行く、LIVEに行く、スタジオに行く――成功を掴み始めた彼らの日常が描かれる。
サビの部分では以下のようなテーマが展開される
- 買い物に行く、何を食うか考える日常
- 変わらないクルーと愛する人(Boo)への想い
- 全国を回るLIVE活動と家族への愛情
- 次の目標に向かって進み続ける姿勢
ヴァースでは具体的な描写が続く
高級ブランド(Gucci、Fendi、Prada、Dior、Louis Vuitton)への言及や、ポケットに200万円という成功の証。しかし同時に「なんも気にせず2人だけで使おう」という仲間との絆も強調される。
「幕張で歌う来週」という具体的なライブ予定や、「お前が文句言う間また稼ぐ」というハングリー精神も垣間見える。Chrome Heartsのシャツを自分だけでなく仲間にも買ってあげるという描写は、成功を分かち合う姿勢を表している。
音楽性
楽曲は2分52秒というコンパクトな尺ながら、キャッチーなフックと勢いのあるビートが特徴。ドリル的なトラップビートの上で、DADAとAZUがそれぞれの個性を活かしたフロウを展開する。
「Big Money, Big Booty, Big Brodda, Big Move」といった英語フレーズも織り交ぜながら、現代的なヒップホップサウンドに仕上がっている。
アルバム『Changes』について
『Changes』は全12曲、約38分の作品。タイトルが示す通り、2人の変化と成長をテーマにしたアルバムだ。
収録曲
- Changes
- Typhoon (feat. DAB)
- Remember 2019
- Whatever
- Dawn
- I gotta go
- Bad Dream (feat. QINCE)
- kill me
- Different
- Hug
- 災い
- 次どこ行く?
特にリード曲「Dawn」はSNSを中心に注目を集め、アルバム全体の成功に貢献した。クルーメンバーのDABやQINCEも参加し、NokeyBoyzの結束を感じさせる内容となっている。
プロデューサー陣には10pm、Outtaspace!、cozinなど若手の実力派が名を連ねており、多様なサウンドを楽しめる作品に仕上がっている。
福岡ヒップホップシーンとの繋がり
DADAとAZUは福岡のヒップホップシーンにおいて重要な位置を占めている。同世代のクルーDeep LeafやWavementとも交流があり、福岡全体のシーンを盛り上げようとする姿勢が見られる。
MVの制作を手がけているDex Filmzも福岡を拠点とする映像制作チーム。「High School Dropout」や太郎忍者の「Pussy」など数々のバイラルヒットMVを生み出し、福岡発のアーティストを視覚的にも表現している。
DADAは「福岡を離れるつもりはない」と公言しており、地元・野芥にスタジオを構えて活動を続けている。東京などの大都市に移らず、地元から全国に発信していくスタイルは、地方ヒップホップの新しいモデルケースとも言える。
楽曲の魅力とメッセージ
「次どこ行く?」の最大の魅力は、成功を掴み始めた若者たちのリアルな心情が描かれている点だ。
高級ブランドや大金への言及は、かつての貧しさを知る彼らだからこそ重みがある。同時に「変わらないクルー」「愛してるBoo」「Baby達チュー」といった言葉から、成功しても大切なものを見失わない姿勢が伝わってくる。
「次どこ行く?」という問いかけは、文字通り次の目的地を尋ねる言葉であると同時に、自分たちのキャリアやこれから進む道への問いかけでもある。買い物、LIVE、スタジオ――日常の選択から人生の選択まで、常に前を向いて進み続ける姿勢が表現されている。
まとめ
DADA & AZU「次どこ行く?」は、福岡の小さな町・野芥から全国へと羽ばたこうとする2人のラッパーの物語だ。幼馴染としての絆、成功への渇望、変わらない地元への愛――これらすべてが2分52秒の中に凝縮されている。
日本のヒップホップシーンにおいて、東京一極集中ではない地方発のムーブメントが生まれつつある現在、DADAとAZUの存在は極めて重要だ。彼らの「次どこ行く?」という問いかけに、これからの日本のヒップホップシーンの未来が重なって見える。
2022年のリリースから時間が経った今も、この楽曲が持つエネルギーと真っ直ぐなメッセージは色褪せることがない。
配信情報
- アルバム:『Changes』
- リリース日:2022年7月30日
- レーベル:NokeyBoyz / NBE
- 楽曲時間:2:52
- 作詞・作曲:DADA, AZU
- プロデュース:Outtaspace!
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