はじめに
2009年12月2日にリリースされたSTICKYの1stソロアルバム『WHERE’S MY MONEY』。その5曲目に収録された「嘲笑う (feat. 漢 a.k.a. GAMI)」は、川崎を代表するSCARSのSTICKYと、新宿を代表するMSCの漢 a.k.a. GAMIという、日本のハスリングラップ界を代表する2人のコラボレーションです。本記事では、この楽曲の魅力を詳しく解説します。
楽曲基本情報
曲名:嘲笑う (feat. 漢 a.k.a. GAMI)
アーティスト:STICKY (from SCARS)
フィーチャリング:漢 a.k.a. GAMI (MSC)
作詞:STICKY, 漢
トラック:Diori a.k.a D-Orijinu
収録アルバム:WHERE’S MY MONEY
リリース日:2009年12月2日
再生時間:3分06秒
レーベル:P-VINE / SCARS ENTERTAINMENT
タイトル「嘲笑う」の意味
冷笑と蔑視の表現
「嘲笑う(あざわらう)」とは、相手を馬鹿にして笑うこと。この楽曲では、STICKYと漢が、彼らを見下す世間や、信用できない人間たちを逆に嘲笑い返すという姿勢が表現されています。
社会の底辺から這い上がろうとする者たちへの蔑視、ハスラーに向けられる偏見——そうしたものに対して、2人は冷ややかな笑いで応えます。
ストリートの矜持
この楽曲は、単なる反発ではなく、ストリートで生きる者としての誇りと矜持を示しています。「俺たちを笑うなら、俺たちもお前らを笑ってやる」——そんなメッセージが込められています。
アーティスト紹介
STICKY (from SCARS)
出身:神奈川県川崎市
所属グループ:SCARS
特徴:一際クールに冷めた視点で、淡々と世の中にツバを吐くように言葉をスピットするスタイル
川崎を拠点とするSCARSのメンバーとして、日本のハスリングラップシーンを牽引してきました。2021年1月に急逝しましたが、その音楽は今も多くのリスナーに影響を与え続けています。
漢 a.k.a. GAMI (MSC)
出身:東京都新宿区
所属グループ:MSC
特徴:硬質かつ生々しい言葉の連打でリスナーを圧倒するハードコアなラップスタイル
新宿スタイルを体現し、2000年代初頭から日本のヒップホップシーンを牽引してきた伝説的ラッパー。強烈なパンチラインと、一切の妥協を許さないリアルな表現で知られています。
楽曲の特徴
川崎×新宿の化学反応
この楽曲の最大の魅力は、川崎を代表するSTICKYと新宿を代表する漢という、異なる地域のハスリングラップを代表する2人が共演していることです。
それぞれが持つ独自のスタイルとストリートの哲学が交わり、「嘲笑う」という共通のテーマで化学反応を起こしています。
D-Orijinuのプロダクション
トラックを手掛けたのは、Diori a.k.a D-Orijinu。I-DeAが大半のトラックを担当するアルバムの中で、この曲は異なるプロデューサーが起用され、アルバムに変化をもたらしています。
ダークでヘヴィなビートは、2人のラッパーのハードコアなスタイルを完璧にサポートしています。
3分06秒の緊張感
アルバム中でも比較的長めの3分06秒という尺を使い、STICKYと漢がそれぞれの視点から「嘲笑う」というテーマを展開します。緊張感あるビートの上で、2人の言葉が交錯します。
ハスリングラップにおける位置づけ
2009年のハスラーシーン
2009年当時、日本のハスリングラップシーンは一つの頂点を迎えていました。SCARSの『THE ALBUM』(2006年)がシーンに革命をもたらし、MSCも『MASTERPIECE』(2007年)で評価を確立していました。
「嘲笑う」は、そうした流れの中で生まれた、ハスリングラップの金字塔的作品の一つです。
2つのグループの関係性
SCARSとMSCは、それぞれ川崎と新宿という異なる拠点を持ちながらも、ハスリングラップという共通の音楽性で繋がっていました。この楽曲は、両グループの盟友関係を象徴するコラボレーションとなっています。
楽曲の文脈
アルバム内での役割
「嘲笑う」は、アルバム『WHERE’S MY MONEY』の5曲目に位置しています。
- WHERE’S MY MONEY
- MAKE MONEY TAKE MONEY
- LOST
- 07/08/26
- 嘲笑う (feat. 漢 a.k.a. GAMI)
冒頭の4曲でSTICKYのパーソナルな世界観を展開した後、5曲目で漢を招いたこの楽曲が登場することで、アルバムに新たなダイナミズムが加わります。
ソロアルバムにおける客演の意味
ソロアルバムにおいて、どのアーティストを客演に招くかは重要な意味を持ちます。STICKYが漢を選んだことは、彼への敬意と、ハスリングラップにおける同志としての連帯を示しています。
2人のスタイルの対比と融合
STICKYのクールさ
STICKYの特徴は、感情的にならず冷静に、淡々と言葉をスピットすることです。「嘲笑う」というテーマにおいても、熱くなるのではなく冷ややかに、相手を見下す者たちを見返します。
漢のハードコアさ
一方の漢は、硬質で生々しい言葉の連打で圧倒するスタイル。強烈なパンチラインで、聴く者を圧倒します。新宿スタイルの体現者として、一切の妥協を許さないリアルな表現を貫きます。
2つのスタイルが生む相乗効果
クールなSTICKYとハードコアな漢——異なるアプローチを持つ2人が「嘲笑う」というテーマで交わることで、楽曲に深みと多様性が生まれています。
この楽曲が示すもの
ストリートの連帯
「嘲笑う」は、ストリートで生きる者たちの連帯を示しています。川崎と新宿、SCARSとMSC——異なる場所や組織に属していても、同じストリートの現実を生きる者として、共通の敵に向かって立ち向かう姿勢が表現されています。
世間への反骨精神
この楽曲には、ハスラーを蔑視する世間への反骨精神が込められています。社会の底辺に追いやられ、嘲笑されてきた者たちが、逆に世間を嘲笑い返す——その姿勢は、多くのリスナーに勇気を与えました。
他の楽曲との関連性
漢の他の楽曲との比較
漢は数多くのコラボレーションを行ってきましたが、「嘲笑う」はその中でも、彼のハードコアなスタイルが遺憾なく発揮された楽曲の一つです。
2013年のミックスCD収録
再び注目された名曲
2013年6月25日にリリースされたSTICKYのミックスCD『STICKY 2nd Album Sampler Mix』にも、「嘲笑う」が収録されました。この作品は、2ndアルバムへの序章として制作されたものです。
ミックスCDのトラックリスト10番目に「嘲笑う(Pro. by D-ORIJINU) / STICKY feat. 漢」として収録され、再び多くのファンに聴かれる機会となりました。
長く愛される楽曲
オリジナルリリースから4年後にミックスCDに収録されたことは、この楽曲が長く愛され続けていることの証明です。
楽曲の入手方法
「嘲笑う (feat. 漢 a.k.a. GAMI)」は、以下の方法で聴くことができます:
配信サービス
- Apple Music
- Spotify
- Amazon Music
- レコチョク
- mysound(255円)
- AWA
アルバム
アルバム『WHERE’S MY MONEY』の5曲目として収録されています。アルバム全体を通して聴くことで、この楽曲の位置づけがより深く理解できます。
STICKYと漢のその後
STICKYの逝去
2021年1月13日、STICKYは急逝しました。彼の死後、「嘲笑う」を含むアルバム『WHERE’S MY MONEY』が2021年1月16日に配信リリースされ、より多くの人がこの名曲に触れる機会を得ました。
漢の継続的活動
一方の漢は、現在も精力的に活動を続けています。鎖GROUPを主宰し、KING OF KINGSを開催するなど、日本のヒップホップシーンを牽引し続けています。
2人の共演の意味
「嘲笑う」は、STICKYと漢が共演した貴重な記録の一つです。STICKYの逝去により、2人が再び共演することはなくなりましたが、この楽曲は2人の絆と、日本のハスリングラップの黄金期を記録した作品として残り続けます。
まとめ:「嘲笑う」が遺したもの
STICKY「嘲笑う (feat. 漢 a.k.a. GAMI)」は、川崎と新宿、SCARSとMSCという、日本のハスリングラップを代表する2つの勢力が交わった歴史的コラボレーションです。
「嘲笑う」というタイトルが示すように、この楽曲は、ハスラーを蔑視する世間に対する反骨精神と、ストリートで生きる者としての矜持を表現しています。STICKYのクールな視点と漢のハードコアなスタイルが融合し、聴く者を圧倒する名曲となりました。
D-Orijinuが手掛けたダークでヘヴィなビートの上で、2人のラッパーが交わす言葉は、2009年という時代のハスリングラップシーンを象徴しています。
STICKYは2021年に逝去しましたが、「嘲笑う」という楽曲は、彼と漢が共に立ち、世間に対して毅然とした態度を示した証として、今も多くのリスナーの心に残り続けています。
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