SCARS「CORNER MUSIC」

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はじめに

2020年にリリースされたSCARSの楽曲「CORNER MUSIC」。この曲を理解するには、日本のヒップホップシーンに革命をもたらしたSCARSの歴史を知る必要があります。

SCARSとは

SCARSは2003年頃に結成された、神奈川県川崎市川崎区を拠点とする日本のヒップホップユニットです。7人のMCと2人のトラックメイカーで構成され、グループ名はリーダーのA-THUGが映画『スカーフェイス』に影響されて命名しました。

最大の特徴は、日本で初めてハスリングラップを本格的に始めたグループであること。ハスリングラップとは、違法ドラッグ売買などの闇社会をリアルに描写するスタイルのラップで、アメリカのヒップホップで主流だったテーマを、日本のストリートで体現しました。

グループの歴史

全盛期(2006年)

2006年9月2日にリリースされた1stアルバム『THE ALBUM』が日本のヒップホップシーンに衝撃を与えます。「ハスリングラップ最高峰のアルバム」として評価され、音楽雑誌「blast」の『Blast Award 2006』で2位を獲得しました。

このアルバムは入手困難な状況が続き、高値で取引される幻の名盤に。当時は「どこのクラブに行ってもSCARSもどきのクルーが大量発生していた」と言われるほど、空前のハスラーラップブームを巻き起こしました。

苦難の時期(2008年〜)

2008年にはA-THUGの服役、メンバー間の不和、薬物問題などトラブルが頻発。それでも2ndアルバム『NEXT EPISODE』をリリースし、名盤の誉れを得ました。

2012年には川崎クラブチッタでフルメンバーでの復活ライブを実現。散発的に活動を続けてきましたが、2021年のSTICKY逝去により、フルメンバーが揃うことは永遠になくなりました。

「CORNER MUSIC」について

「CORNER MUSIC」は2020年にシングルとしてリリースされた楽曲です。「KAWASAKI – TOKYO」というタグと共に配信され、彼らの活動拠点を象徴するタイトルとなっています。

コーナー(corner)には「街角」という意味があり、ストリートの音楽を作り続けてきたSCARSらしい作品です。2020年前後には『STARSCAR』『C.Y.S』『Around Me』など複数のシングルをリリースし、グループ活動の再活性化を示しました。

文化的影響

音楽シーンへの影響

SCARSは日本のヒップホップにおいて、ハスリングラップという新しいスタイルを確立しました。それまで漠然としていた「悪」の描写を、リアルな闇社会の表現へと昇華。多彩なフロウと個性的なパンチラインで、ハスラーの日常を色鮮やかにリスナーの脳裏に映し出しました。

2016年に公開された代表曲『STARSCAR』のRemix(Yuto.comプロデュース)は、YouTubeで1196万回再生を記録するなど、現在も多くのファンに支持されています。

カルチャーへの広がり

2018年には東京のストリートブランド「BlackEyePatch」がSCARSを題材とした写真展を開催。2022年には川崎を地元とするKWSK AGGYがSCARSの楽曲をサンプリングするなど、音楽シーンを超えた影響力を持っています。

また、小説家の大田ステファニー歓人は小説『みどりいせき』でSCARSのリリックを引用するなど、文学作品にも影響を与えています。

日本語ラップへの貢献

2000年代前半の日本語ラップシーンは、「日本語でどうラップするか」というアイデンティティの問題に直面していました。SCARSは、特にSEEDAのバイリンガルラップを中心に、英語と日本語を自在に操りながら日本のストリートのリアルを描くことで、「世界基準のラップを日本語で表現する」という新境地を切り開きました。

その表現力とキャラクターには、彼らが実際にその世界を経験してきたことを感じさせる説得力があり、誰も彼らを「アメリカかぶれ」とは呼べませんでした。日本語原理主義とも言えるアンダーグラウンドのラップシーンを変えた功績は計り知れません。

メンバーの現在

フルメンバーが揃うことはもうありませんが、それぞれが道を歩んでいます。A-THUGはYouTuberとして活動、SEEDAは「ニートTOKYO」を主宰、BESはコンスタントにリリースを続け、bay4kは脳出血の後遺症と闘っています。それぞれが困難を抱えながらも、音楽を通じて存在を示し続けています。

まとめ

「CORNER MUSIC」は、SCARSが自らのルーツである「コーナー(街角)」の音楽を鳴らし続けることを宣言した作品です。日本のヒップホップシーンにハスリングラップを持ち込み、川崎という地域を代表する存在として活動してきたSCARS。その音楽は、ストリートのリアルと向き合い続けた軌跡そのものです。

日本語ラップの歴史を語る上で欠かせないSCARS。彼らの音楽を聴くことは、日本のストリートカルチャーの歴史を知ることでもあります。「CORNER MUSIC」はSpotify、Apple Music、AWAなど各種配信サービスで聴くことができます。ぜひその世界に触れてみてください。

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