SEEDA『花と雨』- 日本のヒップホップ史に刻まれた不朽の名盤

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はじめに

2006年12月23日にリリースされたSEEDAのアルバム『花と雨』は、日本のヒップホップシーンにおいて今なお語り継がれる歴史的名盤です。BACHLOGICの全面プロデュースによるこの作品は、両者にとっての代表作となり、日本のヒップホップの一つの到達点と呼ぶにふさわしい金字塔的なクラシックアルバムとして多くのファンの心に刻まれています。

アーティスト紹介:SEEDA

SEEDAは東京都出身で、幼少期をロンドンで過ごした経験を持つラッパーです。この経験が彼の音楽性に大きな影響を与えました。バイリンガルラップを持ち味としていたキャリア初期から、このアルバムでは日本語を軸にしたラップへと進化を遂げています。

バイリンガルスタイルのキレのあるラップでストリートの詩情を切り取り、これまで数多くのクラシックを生み出してきました。彼が生み出したフローとリリックは、それまでの日本のラップゲームを一変させたと評価されています。

プロデューサー:BACHLOGIC

全楽曲のプロデュースをBACHLOGICが担当したこのアルバムは、BACHLOGICが注目されるきっかけとなった作品でもあります。その後、2012年に自らのレーベルOne Year War Musicを設立し、そこからSALUとAKLOがデビューするなど、日本のヒップホップシーンを牽引する存在となりました。

シンプルでありながらパワフルかつドラマチックなBACHLOGICのトラックとSEEDAのスキルフルなラップの相性は抜群で、1+1が2以上を生む化学反応を起こしました。

アルバムの背景

このアルバムがリリースされた2006年当時、SEEDAはすでにシーンで注目を集めていました。2005年にアルバム「GREEN」をリリースし、その驚くべきスキルが広く知られたSEEDAは、2006年にDJ ISSOと組んで「Concrete Green」というミックスCDをリリースし、アンダーグラウンドの人脈を通じて繋がったアーティスト達をフックアップしました。

また、SEEDAはSCARSというクルーの一員としても活動していました。川崎を拠点とした大所帯のクルーで、ストリートのトピックを躊躇なく感情のままにラップするスタイルで、ストリートの話題をかっさらっていました。

こういった活動で注目を大きく集めていたSEEDAが満を持してリリースしたのが、この『花と雨』というわけです。

収録曲

アルバムには全13曲が収録されています:

  1. Adrenalin
  2. Tokyo
  3. Ill Wheels (feat. BES)
  4. SKiT
  5. 不定職者
  6. Sai Bai Man (feat. OKI)
  7. We Don’t Care (feat. Gangsta Taka)
  8. Just Another Day
  9. Game
  10. ガキのタワ言 (feat. K-NERO & STICKY)
  11. Daydreaming
  12. Live and Learn
  13. 花と雨

アルバムは全編を通して徹底的にストリート目線で作られています。特に2曲目の「Tokyo」では、東京の街並みとそこで蠢く人々をテーマにしており、リアルな東京の姿が描写されています。

客演陣も豪華で、BES、OKI、Gangsta Taka、K-NERO、STICKYといった実力派ラッパーが参加しています。

タイトル曲「花と雨」の意味

実姉への追悼曲であるタイトル曲「花と雨」は、感動を誘うほど心を揺さぶる名曲として、多くのリスナーの涙を誘ってきました。2002年9月3日に亡くなったお姉さんに向けた曲で、歌詞もお姉さんに語りかけたような内容になっています。

赤い彼岸花が印象的なジャケットアートワークも、このタイトル曲の世界観を表現しており、多くのファンにとって特別な思い入れのあるビジュアルとなっています。

アルバムの評価

このアルバムを経てやっと音楽で飯を食えるようになったとSEEDA自身が後に振り返っているほど、彼のキャリアにとって重要な作品となりました。

リスナーからの評価も極めて高く、「全体的に捨て曲がない」「アルバム一枚通して何回も聞ける」という声が多数寄せられています。特にSEEDAのスキル、フロウ、リリックの完成度の高さが称賛されており、「こんなにも突き刺さり、リリカルな歌詞を描くラッパーは日本では見たことがない」という評価もあります。

映画化という新たな展開

2020年1月17日、花と雨を原案とした同名映画『花と雨』が公開されました。主演はオーディションを勝ち抜いた笠松将で、監督は土屋貴史が務めました。SEEDAが映画の音楽プロデュースを手掛け、第32回東京国際映画祭の日本映画スプラッシュ部門に出品されるなど、注目を集めました。

SEEDAはディプロマッツや50セントの影響で、ラッパーが映画を制作するというのが自身のキャリアにおける夢の一つであったといい、本作の制作が決まる何年も前から『花と雨』の映画化をしたかったそうです。

映画では、幼少期をロンドンで過ごした帰国子女の青年がヒップホップと出会い、仲間を見つけながらも、厳しい現実に直面していく成長物語が描かれています。

その後の展開

2020年1月17日にはアナログレコード盤が発売され、2020年2月には16FLIPが『花と雨』を全曲リミックスした16FLIP vs SEEDA名義による『Roots & Buds』が配信されるなど、リリースから14年後も新たな形で作品が蘇っています。

2020年1月16日には、Spikey Johnがディレクションを担当した「花と雨」のミュージック・ビデオが公開され、新たな世代にもこの名曲が届けられています。

まとめ

SEEDA『花と雨』は、日本のヒップホップシーンにおける金字塔として、リリースから約20年が経過した今でも多くのファンに愛され続けています。BACHLOGICとの化学反応によって生まれたこの作品は、ストリートのリアリティと深いリリシズム、そして完成度の高いラップスキルが融合した、まさに日本のヒップホップの到達点と言える傑作です。

もしまだこのアルバムを聴いたことがない方は、ぜひ一度通して聴いてみることをおすすめします。特にタイトル曲「花と雨」は、音楽の力が人の心を動かすということを改めて感じさせてくれる、珠玉の一曲です。

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