SEEDA – L.P.D.N. Ft. VERBAL

JAPANESE

はじめに

2025年3月21日、日本のヒップホップシーンに歴史的な瞬間が訪れた。SEEDAの約13年ぶりとなるアルバム『親子星』に収録された「L.P.D.N. Ft. VERBAL」が配信リリースされたのだ。この楽曲は、2009年に起きた日本ヒップホップ史上最も有名なビーフ「TERIYAKI BEEF」の当事者であるSEEDAとVERBALが、約16年の時を経て初めて共演を果たした歴史的な一曲である。

伝説のビーフ「TERIYAKI BEEF」

事の発端

2009年3月、SEEDAとOKI (GEEK)が「TERIYAKI BEEF」という楽曲を突如YouTubeに公開し、日本のヒップホップシーンに大きな衝撃を与えた。この楽曲は、NIGO、VERBAL (m-flo)、WISE、ILMARI、RYO-Z (RIP SLYME)からなるTERIYAKI BOYZに向けたディストラック(批判曲)だった。

SEEDAは当初、VERBALのラップを評価してTERIYAKI BOYZのアルバム「SERIOUS JAPANESE」を購入したが、内容に大きく失望。ミュージックビデオでは、SEEDAがテリヤキバーガーを5つ並べて拳でペチャンコにつぶすという衝撃的なパフォーマンスを見せた。

ビーフの背景

発端には、TERIYAKI BOYZの楽曲「SERIOUS JAPANESE」に、SEEDAとOKIが2006年に発表した「Sai Bai Man (feat. OKI)」を彷彿させる表現が含まれていたことがある。SEEDAは、自分たちを揶揄していると受け止め、「TERIYAKI BEEF」でTERIYAKI BOYZを痛烈に批判した。

しかし、VERBALはラップでのアンサーを返すことなく、この対立は約16年間にわたって未解決のままとなっていた。

アーティスト紹介

SEEDA(シーダ)

東京都出身。幼少期をロンドンで過ごしたバイリンガルラッパー。キレのあるラップでストリートの詩情を切り取り、2006年の記念碑的作品『花と雨』をはじめ、数多くのクラシックを生み出してきた。

2009年にはシングル「WISDOM」でオリコンデイリーチャート最高5位を記録。日本のラップゲームを一変させるフローとリリックを生み出したイノベーターとして知られ、MIX CD『CONCRETE GREEN』シリーズやYouTube番組「ニートtokyo」の主宰など、楽曲以外のクリエイションでも高い評価を得ている。

VERBAL(バーバル)

m-floのメンバーとして1990年代後半から日本のヒップホップシーンで活躍。2004年にはNIGOによって結成されたTERIYAKI BOYZのメンバーとしても活動。ダフト・パンク、コーネリアス、ザ・ネプチューンズ、カニエ・ウェストなど、国内外のビッグアーティストとのコラボレーションで注目を集めた。

アルバム『親子星』について

13年ぶりのリリース

『親子星』は、SEEDAにとって前作『23edge』(2012年)から約13年ぶり、通算11枚目となるスタジオアルバムだ。2025年3月21日に配信リリースされ、全13曲、収録時間35分という凝縮された作品となっている。

タイトルの由来

アルバムタイトル『親子星』は、SEEDAが長男と夜にスーパーへ歩いているとき、空に並ぶ月と星を見て息子が「あれパパと僕だね!親子星だね」と言ったことから着想を得たという。この言葉に感動したSEEDAは「素敵やな」と感じ、アルバムタイトルに採用した。

豪華な参加アーティスト

客演にはVERBALのほか、Tiji Jojo、Myghty Tommy、LEX、IO、D.O、D3adStock、Jinmenusagi、ID、Amiide、Kamiyada+、Braxton Knightが参加。プロデュース陣にはD3adStock、ZOT on the WAVE、Homunculu$、ghostpops、Bohemia Lynch、HOLLY、Chaki Zulu、BACHLOGIC、KM、NOVA、Ryuukiが名を連ねる豪華な布陣となった。

「L.P.D.N. Ft. VERBAL」について

楽曲情報

  • 収録位置:アルバム6曲目
  • 収録時間:2分54秒
  • プロデューサー:HOLLY
  • リリース日:2025年3月21日

サンプリング元

トラックのサンプリング元は、Nujabes feat. Shing02の名曲「Luv (sic) part2」と同じ、Ivan Linsの「Qualquer Dia」だと推測されている。この選曲自体が、和解と対話への意志を象徴しているといえるだろう。

タイトルの意味

「L.P.D.N.」の意味については公式な発表はないが、リスナーの間では「Love」「Peace」「Dream」「Next」のイニシャルを取ったものではないかと推測されている。和解と未来への前進を示すメッセージが込められていると考えられる。

楽曲のメッセージ

ミュージックビデオには、並んで微笑む二人の姿が収められており、SEEDAは「どんなトンネルにも出口はある どんな旅にも終わりがある 俺達のビーフには最後対話がある」と歌っている。

この楽曲は、単なる和解ソングではなく、16年間という長い時間を経て、二人が対話を通じて新たな関係性を築いたことを示す作品となっている。

制作の背景

SEEDAのインタビューから

SEEDAはインタビューで、「ビーフのまま終わるのは絶対違うって思っていた」と語っている。「日本人ですから、和の国の精神として、解決できるはず」という思いがあり、アルバムの制作以前からVERBALと曲をつくることを模索していたという。

また、Kendrick LamarとDrakeのビーフについて聞かれた際には、「エグい」としながらも、「”TERIYAKI BEEF”も笑えるところで止めておきたい」と語っており、SEEDAなりのビーフに対する美学を示している。

40曲から13曲へ

アルバム制作にあたり、SEEDAは約40曲を制作し、その中から13曲を選んだという。「溢れる想いを歌っていって、その中から選んで並べたらこうなった」と語っており、意図的な構成ではなく、自然な流れで作品がまとまったことを明かしている。

日本ヒップホップシーンへの影響

約20年に及ぶ対立の終焉

この和解は、日本ヒップホップ史上最長のビーフの終結として大きな話題を呼んだ。約16年(2009年から2025年)という長期にわたる対立が、対話によって解決されたことは、日本のヒップホップシーンにとって歴史的な出来事となった。

「和」の精神

SEEDAが語った「和の国の精神」という言葉が示すように、この和解は単にビーフを終わらせるだけでなく、日本独自のヒップホップ文化のあり方を示すものとなった。対立を乗り越え、対話を通じて新たな関係を築くという姿勢は、多くのリスナーに感動を与えた。

チャート成績

アルバム『親子星』は各種チャートで好成績を記録:

  • iTunes Store 総合トップアルバム:6位(日本・2025年3月22日)
  • Apple Music 総合トップアルバム:7位(日本・2025年3月22日)
  • Apple Music ヒップホップ/ラップ トップアルバム:4位(ラオス・2025年3月26日)
  • Spotify Viral 50:ランクイン(日本・2025年4月10日)

「L.P.D.N. (feat. VERBAL)」も単曲として注目を集め、Spotify Daily Viral Songs 28位(日本・2025年4月7日)を記録するなど、リスナーからの高い関心を集めた。

アルバムの他の注目曲

『親子星』には「L.P.D.N.」以外にも多くの注目曲が収録されている:

  • Kawasaki Blue:盟友STICKY(SCARS)に捧げた楽曲
  • みたび不定職者 ft. Jinmenusagi & ID:名盤『花と雨』収録の「不定職者」の続編
  • OUTSIDE ft. IO & D.O:2000年代初頭のヒップホップシーンを想起させる楽曲
  • 親子星:自身の子供や家族に向けたエモーショナルなタイトル曲
  • Daydreaming pt.2:19年前の名曲をリプライズ

おわりに

SEEDA「L.P.D.N. Ft. VERBAL」は、日本のヒップホップ史において特別な意味を持つ楽曲だ。16年間にわたるビーフを経て、二人が対話を通じて和解し、共に音楽を作り上げたという事実は、単なる話題性を超えた深いメッセージを持っている。

「どんなトンネルにも出口はある」というSEEDAの言葉は、対立を乗り越えて前に進むことの大切さを教えてくれる。ヒップホップにおけるビーフは重要な要素だが、それが永遠に続く必要はない。対話を通じて新たな関係を築き、より良い未来へ進んでいく。そんな希望に満ちたメッセージが、この楽曲には込められている。

約13年ぶりのアルバム『親子星』は、SEEDAのキャリアにおいて新たな章の始まりを告げる作品であり、「L.P.D.N. Ft. VERBAL」はその中心に位置する、記念碑的な一曲となった。


配信情報

  • タイトル:L.P.D.N. (feat. VERBAL)
  • アーティスト:SEEDA feat. VERBAL
  • 収録アルバム:親子星
  • リリース日:2025年3月21日
  • レーベル:SEEDA / CCG
  • プロデューサー:HOLLY
  • 収録時間:2分54秒
  • 配信:各種音楽ストリーミングサービスにて配信中

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