SALU / LIFE STYLE feat. 漢 a.k.a. GAMI, D.O (Prod. by Chaki Zulu)

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はじめに

2017年5月24日にリリースされたSALUの3rdアルバム『INDIGO』。その2曲目に収録されている「LIFE STYLE feat. 漢 a.k.a. GAMI, D.O」は、日本のヒップホップシーンを代表する豪華なコラボレーションとして注目を集めた楽曲です。

この記事では、楽曲の魅力からアーティストのバックグラウンド、制作背景まで、この名曲を徹底的に掘り下げていきます。


楽曲の魅力

ドリーミーなサウンドとリアルなリリック

この楽曲の最大の特徴は、Chaki Zuluが生み出す浮遊感と静寂が交錯するドリーミーなトラックと、3人のラッパーによるリアルなストリートの物語が見事に融合している点です。

冒頭から繰り返される印象的なフック「俺らが掻き回すこのRAP GAME / 稼いだ金使ってPOP CHAMPAGNE / 蒔くのは未来への種だけ / 君の親御さんすらKNOW MY NAME」は、日本のヒップホップシーンにおける成功を掴み取った彼らの自信と野心を力強く表現しています。

三者三様のスタイル

SALUは、メロディアスでキャッチーなフロウで全体をまとめ上げ、D.Oは独特の鼻声でギャングスタラップらしいリアルなストリートの様子を描写。そして漢 a.k.a. GAMIは、日本のヒップホップシーンの変遷を語りながら、自身の経験から生まれた哲学を力強く叩きつけます。

特に漢のバースでは「一昔前の日本じゃまずありえない / ラッパーがお茶の間賑わす時代となってきたぜようやく最近」というラインが印象的で、フリースタイルダンジョンなどの影響で日本のヒップホップが大衆化していく時代の変化を見事に捉えています。


ミュージックビデオの世界観

楽曲のMVは、SALUが企画・脚本を担当した意欲作です。

コンビニでアルバイトをする気弱そうな男(SALU)の前に、D.Oと漢が大勢の仲間を引き連れて入店し、店内でやりたい放題するというハチャメチャな設定。一見すると違和感だらけのこのコラボレーションを上手くまとめているのが、Chaki Zuluのドリーミーなトラックです。

SALUの芝居も非常に自然で、彼の多才さが光る作品となっています。


アーティスト紹介

SALU(サル)

プロフィール

  • 生年月日:1988年
  • 出身地:北海道札幌市
  • 活動拠点:神奈川県厚木市

経歴とスタイル

SALUは、日本のヒップホップシーンに新しい風を吹き込んだラッパーです。4歳の時に父親の影響でDr.Dreの「Let Me Ride」を聴いて音楽に出会い、14歳からラップを書き始めました。

6歳の時に母親を自殺で亡くすという辛い経験をしていますが、その痛みをリリックで昇華し、音楽と向き合い続けてきました。

2012年にBACHLOGICのレーベル「One Year War Music」から1stアルバム『In My Shoes』でデビュー。メロディアスでキャッチーなラップスタイルと、恋愛をテーマにした楽曲で女性ファンからも支持を集め、従来の”怖い”というヒップホップのイメージを覆しました。

また、日本のヒップホップシーンでオートチューンの使用を広めた先駆者の一人としても知られています。2018年にはLDH MUSIC内のレーベルKOMA DOGGへ移籍し、さらに活動の幅を広げています。

映画好きとしても知られ、楽曲には多くの映画的な表現が散りばめられています。

漢 a.k.a. GAMI(カン・エーケーエー・ガミ)

プロフィール

  • 生年月日:1978年6月7日
  • 出身地:新潟県長岡市
  • 活動拠点:東京都新宿区

経歴とスタイル

日本のヒップホップシーンのレジェンドとして君臨する漢 a.k.a. GAMI。新宿を拠点とするヒップホップクルー・MSCのリーダーとして、2000年から活動を開始しました。

MCネームの「漢」は不動明王を表す梵字の読み「カーン」から、「GAMI」は幼少期のあだ名「ガミちゃん」から来ています。

2002年にB BOY PARK 2002 MC BATTLEで優勝を飾り、その後も数々のバトル大会で結果を残してきました。2005年にはMCバトル大会「ULTIMATE MC BATTLE(UMB)」を設立し、後に「KING OF KINGS(KOK)」へと発展させるなど、プレイヤーとしてだけでなく、日本のMCバトル文化を牽引する仕掛け人としても活躍しています。

2015年からはテレビ朝日の「フリースタイルダンジョン」に初代モンスターとしてレギュラー出演し、地上波でその存在感を示しました。

自身のレーベル「9SARI GROUP」を設立し、D.Oをはじめとする多くのアーティストを育成。新宿にある「9sari Cafe & Bar」は、日本はもちろん海外からも有名ラッパーが訪れる聖地となっています。

D.O(ディー・オー)

プロフィール

  • 生年月日:1978年7月3日
  • 出身地:東京都練馬区
  • 活動拠点:東京都練馬区

経歴とスタイル

練馬をレペゼンするギャングスタラッパー、D.O。「練マザファッカー」の元リーダーとして知られ、現在は漢 a.k.a. GAMIの9SARI GROUPに所属しています。

独特の鼻声でのラップと、「メーン」「〇〇だってハナシ」などのオリジナルな言い回しが特徴的で、全身に入ったタトゥーも彼のアイコンとなっています。

両親が虫プロダクションで働いていたという特異な生い立ちを持ち、手塚治虫の作品から大きな影響を受けています。「自分の信念を曲げない」という手塚治虫のスタンスが、D.Oのラッパーとしてのあり方の根源になっているといいます。

中学生の時にMICROPHONE PAGERのMURO・TwiGyに衝撃を受けてラップを始め、高校卒業後はRINOの付き人となり、ヒップホップの世界に本格的に足を踏み入れました。

TBSのバラエティ番組「リンカーン」に出演し、強烈なキャラクターで一般層にも名前が広まりましたが、その後薬物関連での逮捕を経験。2021年12月に出所し、現在は音楽活動を再開しています。

自身のアパレルブランド「TOKYO 9G(NINEGRAM)」も展開し、ストリートファッションシーンでも影響力を持っています。

Chaki Zulu(チャキ・ズールー)

プロフィール

  • 出身地:静岡県沼津市
  • 活動:音楽プロデューサー、作曲家、レコーディング・エンジニア

経歴とスタイル

ここ10年の日本のヒップホップシーンにおいて、最も重要なプロデューサーの一人がChaki Zuluです。

元々は2005年にバイオリニストのEmiとのエレクトロニック・ミュージック・デュオ「THE LOWBROWS」として活動し、「SUMMER SONIC」や「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」などの大型フェスにも参加していました。

2015年にヒップホップクルー「YENTOWN」を結成したことがターニングポイントとなり、Awich、kZmらの作品プロデュースで一躍注目を集めました。

特徴的なプロデューサータグ「You’re now connected to Chaki Zulu」「Husky Studio」は、ヒップホップファンなら誰もが耳にしたことがあるでしょう。

プライベートスタジオ「Husky Studio」で1日14〜15時間に及ぶこともある制作作業に打ち込み、ビートを提供するだけでなく、リリックやボーカルのディレクションまで徹底的に行うスタイルで知られています。ラッパーに対して妥協を許さない姿勢で、時には楽曲を丸々書き直させることもあるほどのこだわりを持っています。

エレクトロやベースミュージックから影響を受けた、音楽理論に基づくロジカルでテクニカルなトラック制作で、日本のヒップホップサウンドの質を大きく引き上げました。


楽曲の意義と時代背景

日本のヒップホップシーンの転換期

この楽曲が制作された2017年は、日本のヒップホップシーンにとって大きな転換期でした。2015年から始まった「フリースタイルダンジョン」の影響で、ヒップホップが地上波で放送され、一般層にも広く認知されるようになった時期です。

漢のバースにある「一昔前の日本じゃまずありえない / ラッパーがお茶の間賑わす時代」というラインは、まさにこの時代の変化を象徴しています。

異なるスタイルの融合

メロディアスでポップなSALU、ストリートのリアルを描くD.O、そして新宿のレジェンド漢 a.k.a. GAMI。この3人の異なるスタイルを持つラッパーが一つの楽曲で共演したことは、日本のヒップホップシーンの多様性と成熟を示す象徴的な出来事でした。

そしてChaki Zuluのドリーミーで洗練されたトラックが、この異色のコラボレーションを見事にまとめ上げています。


まとめ

「LIFE STYLE feat. 漢 a.k.a. GAMI, D.O」は、日本のヒップホップシーンを代表する才能が集結した名曲です。

SALUの洗練されたメロディセンス、漢 a.k.a. GAMIの重厚なリリック、D.Oのリアルなストリート描写、そしてChaki Zuluの革新的なプロダクションが融合し、2017年という時代を象徴する一曲となりました。

「俺らが掻き回すこのRAP GAME」というフックが示すように、この楽曲は日本のヒップホップシーンが新しいステージに進んでいることを高らかに宣言しています。

それぞれのアーティストが歩んできた壮絶な人生と、音楽に対する真摯な姿勢が結晶化したこの楽曲は、今なお色褪せることのない輝きを放ち続けています。

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