はじめに – A to Zコンビネーションの結晶
2018年11月2日にリリースされたAKLO「Count On Me feat.ZORN」は、日本のヒップホップシーンにおける最も印象的なコラボレーションの一つとして記録されている。このトラックは、単なる楽曲を超えて、二人のアーティストの深い絆と相互尊敬から生まれた友情の証でもある。バイリンガルラッパーのAKLOと下町出身の等身大ラッパーZORNという、異なる背景を持つ二人が「Count On Me(俺を信頼しろ)」というテーマで見せた化学反応は、多くのファンを魅了し続けている。
楽曲誕生の背景 – A to Z TOUR 2018から生まれた絆
「Count On Me」の制作背景には、2018年夏に開催された伝説的なジョイントツアー「A to Z TOUR 2018」の存在がある。このツアーは当初、7月22日から8月24日まで全国6箇所で行われる予定だったが、両アーティストが意気投合したことで追加公演が決定。最終的に全国10箇所で開催され、12月2日の新木場STUDIO COASTでツアーファイナルを迎えた。
ZORNは当初「2018年は仕事しないつもりだった」と語っているが、AKLOからのラブコールを受けて快諾。このツアーを通じて二人は「めちゃめちゃ仲良くなった」と公言するほどの友情を築いた。ツアー中には毎回「お互いをやっつけてやろうと思って」いたというライバル心も、最終的には深い信頼関係へと昇華された。
AKLO – 多文化的背景を持つバイリンガルアーティスト
国際的なルーツと音楽的形成
AKLOは東京生まれメキシコシティー育ちの日本人の母親とメキシコ人の父親を持つハーフ・メキシカンである。生後六ヶ月でメキシコに渡り、10歳まで過ごした後、日本、アメリカを行き来する国際的な環境で育った。
音楽的なルーツは、小学生の時にMCハマーの「U Can’t Touch This」に衝撃を受けたことに始まる。その後、アメリカの高校時代にニューオリンズ出身のラッパー、Master Pが主宰するレーベルNo Limit Recordsに夢中になり、本格的にラップの道に進むきっかけを得た。
キャリアの軌跡と成功
2012年、BACHLOGICのサポートで1stアルバム「THE PACKAGE」をリリース。iTunes総合チャートで初登場1位を獲得し、「日本語ラップ最高到達点」と評価された。この成功により、その年のiTunes”ベスト・ニュー・アーティスト”に選出され、シングル曲”Red Pill”がMTV VMAJにノミネートされるなど、各メディアで高い評価を集めた。
2014年のフジロックでは、Damon Albarnのステージへサプライズ・ゲストとして出演し、Gorillaz名義での代表曲”Clint Eastwood”でラップパートをグリーン・ステージで披露するなど、国際的な舞台でも存在感を発揮している。
ZORN – 下町が生んだ等身大のストーリーテラー
壮絶な生い立ちと更生の物語
ZORNは1989年2月16日、東京都葛飾区新小岩で生まれた。中学生の時にTHA BLUE HERBやキングギドラを聴きHIPHOPにハマり、15歳でラッパーとしての活動を開始した。
しかし、高校はメディア系の学校に進学するも中退。その後、オレオレ詐欺などで逮捕され、18・19歳の2年間を少年院で過ごすという波乱の青春時代を経験した。少年院では作文コンクールで最優秀賞を受賞し、主席で卒業。この経験が彼の人生観とラップスタイルに大きな影響を与えることになる。
MCバトルでの圧倒的な実力
出所後、ZORNは本格的にラッパーの道に進み、下町を中心としたMCバトルで頭角を現した。「THE罵倒」では3連覇という快挙を成し遂げ、「ULTIMATE MC BATTLE 2008」でベスト4に入るなど、MCバトルシーンで無類の強さを誇った。
2009年に1stアルバム「心象スケッチ」を1,000枚限定で自主制作リリース。このアルバムはあっという間に完売し、現在でも希少価値が高い作品となっている。
昭和レコード加入と独立への道
2014年、般若から誘われる形で昭和レコードに加入し、MC名を「ZONE THE DARKNESS」から「ZORN」に改名。般若・SHINGO★西成に続く第三の男として、レーベルの看板アーティストとなった。
2019年7月、30歳を区切りに新しいことに挑戦する意味を込めて昭和レコードから脱退。その後は独立して活動し、2021年1月24日には念願の日本武道館でワンマンライブ「My Life at 日本武道館」を開催した。
楽曲の音楽的特徴とメッセージ
プロダクションとサウンド
「Count On Me feat.ZORN」は、AKLOの長年のパートナーであるBACHLOGICによってプロデュースされた。楽曲は力強いビートと温かみのあるメロディラインが特徴で、二人のラッパーの個性を最大限に活かすサウンドデザインが施されている。
リリカル・コンテンツ
楽曲のタイトル「Count On Me」は「俺を信頼しろ」「俺を頼れ」という意味で、友情と信頼をテーマにした楽曲構成となっている。歌詞には「全然問題ねぇ」「任せてみ」といった心強いメッセージが込められ、困った時には互いを支え合うという友情の絆が表現されている。
AKLOは国際的な感覚とスムーズなフロー、ZORNは等身大の生活感とリアルなストーリーテリングで、それぞれの持ち味を活かしながら、統一感のある楽曲世界を構築している。
A to Z TOUR 2018の軌跡
ツアーの成功と拡大
「A to Z TOUR 2018」は当初の予定を大幅に上回る成功を収めた。8月24日のリキッドルームでの東京公演で、ZORNが「今回のツアーで俺らめちゃめちゃ仲良くなっちゃったんですよ。あとで怒られるかもしれないけど言っちゃいます。追加公演します!!」と宣言したことで、追加公演が正式決定した。
追加公演では福岡、大分、京都、金沢の全5公演を実施し、共にキャリア最大規模となる12月2日の新木場スタジオコーストでツアーファイナルを迎えた。
ライブでの化学反応
ツアー中の二人のパフォーマンスは圧巻だった。特にファイナル公演では、「Count On Me」を3回連続で披露するという異例の展開となり、演者も観客も熱くなりすぎて「一旦ブレイクを入れなくてはならないほどテンションはどんどん上がって」いたと報告されている。
3回目の「Count On Me」ではNORIKIYOがサプライズ出演し、「もはやSTUDIO COASTはポジティヴな混乱状態だった」と評されるほどの盛り上がりを見せた。
両アーティストの相互作用
対照的なバックグラウンドの融合
AKLOの持つ国際的な感覚とZORNの持つ下町のリアリティ。この二つの要素が「Count On Me」で見事に融合した。AKLOの洗練されたバイリンガルラップと、ZORNの等身大で詩的なリリックが相互補完し合い、楽曲に深みと多層性をもたらしている。
友情から生まれた化学反応
二人の関係は単なる音楽的協力関係を超えて、深い友情に発展した。ZORNは「AKLOとかZORNとかがんばってましたね。前座楽しめましたか? これがメインですよ」と煽りながらも、互いを「やっつけてやろう」と思いながら切磋琢磨していたと語っている。
この競い合いながらも支え合う関係性が、「Count On Me」という楽曲のメッセージ性を一層強いものにしている。
楽曲リリース後の展開
NORIKIYO REMIXの制作
楽曲の人気を受けて、2018年11月16日にはNORIKIYOによるリミックス版「AKLO / Count On Me feat.ZORN (NORIKIYO Remix)」もリリースされ、話題を呼んだ。このリミックスにより、楽曲の魅力がさらに多角的に表現された。
継続的なコラボレーション
「Count On Me」の成功を受けて、両アーティストは継続的にコラボレーションを行っている。2020年には「カマす or Die (feat. ZORN)」、そして2024年10月には2年ぶりの新曲「221 feat. ZORN」をリリースするなど、長期的なパートナーシップを築いている。
ファンコミュニティの反応
TikTokでの拡散
楽曲は2018年のリリース当初からファンの間で愛され続け、TikTokなどのSNSプラットフォームでも広く使用された。特に楽曲の持つポジティブなメッセージ性が、若い世代のユーザーにも響いた。
ライブでの定番曲化
「Count On Me」は両アーティストのライブで定番曲となり、観客との一体感を生む重要な楽曲として位置づけられている。特にA to Z関連のイベントでは必ず披露される楽曲として、ファンの間で特別な意味を持つ。
日本のヒップホップシーンにおける意義
異文化交流の象徴
AKLOの国際性とZORNの地域性が融合した「Count On Me」は、日本のヒップホップシーンにおける多様性と包容力を象徴する作品となった。異なる背景を持つアーティスト同士が、互いの違いを乗り越えて友情を築く過程は、音楽の持つ普遍的な力を証明している。
コラボレーション文化の促進
この成功例は、日本のヒップホップシーンにおけるアーティスト間のコラボレーション文化の発展に大きく貢献した。競争だけでなく、互いを高め合う関係性の重要性を示し、シーン全体の成熟度向上に寄与している。
音楽的技術とスキル
ラップスキルの相乗効果
AKLOの流麗なフローとZORNの複雑な韻踏みが組み合わさることで、楽曲全体のラップスキルレベルが格段に向上している。それぞれの得意分野を活かしながら、互いの弱点を補完する構成は、コラボレーション楽曲の理想的な形といえる。
BACHLOGICのプロダクション
長年AKLOをサポートしてきたBACHLOGICが手がけたプロダクションは、両アーティストの個性を最大限に引き出している。ヒップホップシーンではSEEDAやNORIKIYO、J-POPシーンではEXILEや加藤ミリヤなど幅広いアーティストを手がけてきた経験が、この楽曲でも存分に発揮されている。
現在への影響と今後の展望
長期的パートナーシップの確立
「Count On Me」から始まった両アーティストの関係は、単発のコラボレーションを超えた長期的なパートナーシップへと発展している。2024年の「221 feat. ZORN」リリースでは、350人のファンがMV撮影に参加するなど、ファンコミュニティを巻き込んだ活動も展開されている。
シーンへの継続的影響
この楽曲が示した「信頼と友情」をベースとしたコラボレーションモデルは、その後の日本のヒップホップシーンに大きな影響を与え続けている。単なる商業的な楽曲制作ではなく、人間的な絆から生まれる音楽の力を証明した作品として、多くの後続アーティストに影響を与えている。
結論 – 信頼が生み出した名作
AKLO「Count On Me feat.ZORN」は、異なる背景を持つ二人のアーティストが築いた深い友情と信頼関係から生まれた傑作である。バイリンガルラッパーの国際性と下町ラッパーの等身大感が見事に融合し、「Count On Me(俺を信頼しろ)」というメッセージを通じて、音楽の持つ普遍的な絆の力を表現している。
楽曲制作の背景となった「A to Z TOUR 2018」から始まった両者の関係は、単なる音楽的協力を超えた真の友情へと発展し、それが楽曲の説得力とリアリティを支えている。BACHLOGICによる秀逸なプロダクション、両アーティストの技術的な相乗効果、そしてファンコミュニティの熱狂的な支持により、この楽曲は日本のヒップホップシーンにおける重要なマイルストーンとなった。
リリースから数年が経過した現在でも、「Count On Me」は両アーティストの代表曲の一つとして愛され続けており、日本のヒップホップにおけるコラボレーション文化の発展に大きな影響を与え続けている。信頼と友情から生まれたこの名作は、音楽の持つ人を結びつける力を改めて証明した、時代を超えて語り継がれるべき作品である。
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