BAD HOP / Mobb Life feat. YZERR, Benjazzy & T-Pablow

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はじめに

2017年9月6日にリリースされたBAD HOPの記念すべき初の全国流通アルバム『Mobb Life』の表題曲である「Mobb Life (feat. YZERR, Benjazzy & T-Pablow)」は、川崎発のヒップホップクルーBAD HOPの代表的な楽曲の一つです。この楽曲は、グループの本格始動を告げる象徴的な作品として、日本のヒップホップシーンに大きなインパクトを与えました。

アルバム『Mobb Life』について

制作背景

『Mobb Life』は、BAD HOPにとって初めての全国流通作品として特別な意味を持ちます。それまでの作品はフリー形式でミックステープのアルバムを制作し、BAD HOPの名前を知ってもらうことをメインに活動していたことから無料で作品を配布していました。お金を取れるクオリティの作品を作れている自信がなかったことも理由として挙げられています。

しかし、このアルバムは「初めて”全国の人に届けるんだ”という意識のもとに制作を進めることができ、結果、これまでで一番いいものが出来ていると思います」とリーダー格のYZERRが語る通り、初の全国流通アルバムに恥じぬ出来となりました。

アルバム制作のプロセス

制作の舵を取ったのはYZERRで、「基本は僕が雰囲気を決めて、そのうえで〈こういう曲が足りないな〉とか〈こういう感じだな〉とか、パズルみたいな感じでちょっとずつ埋めていきました。ラッパーが8人いるんでノリを大事にしています」と制作について語っています。

2017年の6月頃から制作を開始し、メンバーでトピックを決め、その後トラックを選定するという流れで制作が行われました。タイトルの”Mobb Life”はメンバーで10個以上の案を出し、その中から決めたもので、Mobb(=群れる)が自分たちらしくていいということから決定されました。

表題曲「Mobb Life」の魅力

参加メンバー

表題曲には、BAD HOPの核となる3人のメンバーが参加しています:

  • YZERR: T-Pablowの双子の弟で、BAD HOPの頭脳と呼ばれる。楽曲制作やMVの撮影などに関わるほかプロデューサーとしても活躍し、リーダーシップを発揮している。
  • Benjazzy: メンバーの中でも特に優れたラップスキルと歌唱力を持ち、ヒップホップに関する知識が豊富。グループの中では最年長で、人気ヒップホップユニット「Creepy Nuts」のR-指定さんも、Benjazzyさんのガヤ(曲中に入れる合いの手)を絶賛している。
  • T-Pablow: 第1回・第4回「BAZOOKA!!!高校生RAP選手権」では優勝を果たし、ヒップホップ番組「フリースタイルダンジョン」では、初代モンスターを務めた。

楽曲の内容とメッセージ

Hook

掃き溜めからFly
この街抜け出し勝つ俺らが
まだまだ足りない
数えきれんほど手に札束
誰にも見れない
景色を拝みに行くここから
収まらないくらい
俺ら仲間達と稼ぐMoney

  • 掃き溜め(ごみ溜めのような場所)から飛び立つ=川崎のスラム的環境から成り上がることを比喩。
  • まだ足りない / 数えきれん札束=もう稼いでいるが、それでも満足していない。さらなる高みへ。
  • 仲間と共に稼ぐ=個人の成功ではなくチーム(BAD HOP)で勝ち上がる。

BAD HOPの原点である川崎から飛び立ち、仲間と一緒に金を稼ぎ、誰も見たことのない景色を見るという「成り上がりの宣言」。


YZERRのVerse

街中にはびこるFake
お前ら名前だけに群がり 写メ撮りSNSでFLEX

  • 偽物のラッパーや「名前だけで群がる人々」を批判。
  • 自分達はSNS映えではなく「リアルな仲間」との絆が中心。

保育園から変わらない友達
傍から見た成功や裏側で耐えたあの日の苦労

  • 長年の仲間と築いてきた道を強調。
  • 成功の裏にある苦労も皆で共有してきた。

環境は鏡 価値映し出し
状況は自らで作り出す

  • 自分の周囲(環境)は自分自身の価値を映す鏡。
  • 受け身ではなく、行動して状況を作ることが重要。

YZERRのパートは「本物 vs 偽物」の対比。ストリートから仲間と積み上げたリアルさを語り、自分たちの哲学を見せる。


BenjazzyのVerse

俺ら稼ぐMoney ダチと稼ぐMoney
ダサい事は無しで稼ぐMoney

  • 仲間と稼ぐ=BAD HOPの原則
  • ダサいこと(裏切りやセルアウト)はしない。

赤信号の精神
ガキのまんま ただ楽しい事だけをやってる毎日

  • 「皆で渡れば怖くない」=団結の精神
  • ルールに縛られず、子供のようにやりたいことをやる。

稼ぐだけ稼いだら 好きな仲間と家族でさっさと俺は隠居するBeverly

  • 稼ぎきったら仲間・家族と引退して贅沢に暮らす未来像。
  • 「隠居するBeverly」はビバリーヒルズを指している可能性大。

Benjazzyは「楽しむ」「仲間と稼ぐ」「贅沢な引退」というライフスタイルをストレートに描写。


T-PablowのVerse

稼ぐぜ金 出てるぜずっと答えはとうに
飾り付けや味付けなし 素材が上質

  • 本物の素材(自分達のラップやスタイル)が既に上質。小細工は不要。

いくら積まれてもだせーオファーを蹴る代わりに
かっけーバース蹴る覚悟

  • 金よりも誇り。ダサい仕事にはNO。
  • 代わりにリリック(バース)で勝負。

キャラ作りのコスプレ 観衆に囲まれ
ルールがなきゃ戦えねスポーツしか出来ねんだから
マウスピース噛んどけ子狐ども

  • 「キャラを作ってウケ狙いしてる偽物ラッパー」への痛烈なディス。
  • ルールがないラップ(=ストリート)は本物じゃなきゃ戦えない、と断言。

出来損ないの俺にもあった似あう音が
こいつら一緒の墓に骨埋める

  • 過去に出来損ないと見られていた自分でも音楽に出会えた。
  • 仲間と死ぬまで一緒にやる覚悟。

T-Pablowは「セルアウト批判」と「仲間との死ぬまでの絆」を描く。攻撃的で鋭いパンチラインが特徴。

サウンドの特徴

本作では、「アトランタ産のトラップやシカゴ産のドリル/バップといったUSシーンにインスパイアされ、最先端のトレンドを巧みに注入するというサウンドやスタイルの持ち味をこれまで同様に発揮」しており、海外の最新モードとシンクロしつつも、自然に自分たちならではの表現に昇華した仕上がりとなっています。

作品の意義と影響

BAD HOPの転換点

「Mobb Life」は、BAD HOPにとって遊びから本格的な音楽活動への転換点を示す作品でした。YZERRは制作について「前はやっぱり遊びだったんですよ。『BAD HOP 1 DAY』を出した頃も。僕たちが遊んでる感じをみんなに聴いてもらってたというか。でも、今作は『作ろう』ってなった」と振り返っています。

日本のヒップホップシーンへの影響

本作は「KANDYTOWNやYENTOWNら、クルー単位での動きも活発化している昨今の日本のヒップホップ・シーンにおいても、特に圧倒的なモブ感~スクワッド感の強さで名を上げてきた川崎のクルー」としてのBAD HOPの地位を確立する重要な作品となりました。

アルバムリリース後、BAD HOPは初の全国ツアー「Mobb Life Tour」を開催し、2018年には日本武道館での単独ライブを成功させるなど、その後の飛躍の土台となる作品です。

商業的成果と評価

アルバム『Mobb Life』は、iTunes総合チャートで1位を獲得し、その後行われた初の全国ツアーである『Mobb Life Tour』も見事大成功を収めるなど、BAD HOPの名を一躍日本全土に轟かせました。

評論家からも「思わず口ずさんでしまうキャッチーなフックを備えたライヴで盛り上がりそうな曲が並ぶ」と高い評価を受け、「満を持して派手に上げられた本格始動ののろしと呼ぶにふさわしい力作だ」と称されています。

まとめ

「Mobb Life (feat. YZERR, Benjazzy & T-Pablow)」は、BAD HOPが川崎のローカルなクルーから全国区のヒップホップアーティストへと飛躍するきっかけとなった記念すべき楽曲です。仲間との絆、地元への愛着、そして成功への渇望を歌ったこの楽曲は、多くのリスナーの心を掴み、日本のヒップホップシーンに新たな風を吹き込みました。

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