Foesum「Late Night」

Mexican

2002年、Foesumはセカンドアルバム『The FoeFathers』を自身のPerfection Labelからリリースした。全15トラックで構成されたこのアルバムの中で、10曲目に静かに、しかし確実な重みで存在感を放つ一曲がある。それが「Late Night」だ。タイトルの通り、この曲は昼間のにぎわいや喧騒とは無縁の、深夜のロングビーチにだけ漂う空気感を持っている。車のヘッドライトが夜道を照らし、街が静まり返った時間帯にだけ生まれる、あのムード——「Late Night」はまさにその瞬間のサウンドトラックだ。


アルバムの中の配置が持つ意味

『The FoeFathers』のトラックリストを見ると、「Late Night」は「Before Tha Lick」「Hit A Lick」という二曲に続いて登場し、その後「Betcha She Don’t Love You」へと繋がっていく。 この配置は偶然ではない。緊張感を持つ前後のトラックに挟まれながら、「Late Night」はアルバムの中でひとつの「夜の静寂」として機能している。ヒートアップした流れを一瞬クールダウンさせ、聴き手を深夜の路上へと誘う——そういう役割をこの曲は担っている。

G-Funkというジャンルは常に「昼と夜の両面」を持ってきた。「Lil Somethin’ Somethin’」がカリフォルニアの昼間のアンセムなら、「Late Night」はその裏面、日が落ちた後の街の表情を描いた作品だ。Foesumというグループはステレオタイプ的なレイドバックしたカリフォルニアのライフスタイルと、深夜のロングビーチが持つ緊張感の両面を絶妙なバランスで体現してきたアーティストだ。「Late Night」はその「夜の顔」を最も正直に映し出したトラックの一つである。


プロデューサーI-Rocと、モータウンの巨人からの贈り物

「Late Night」の音楽的核心を語る上で、まずそのサンプルソースに向き合わなければならない。この曲はプロデューサーI-Rocによって手がけられ、Dennis Edwards feat. Siedah Garrettの「Don’t Look Any Further」をサンプリングしている。サンプルは曲の冒頭から登場し、全編にわたって使用されている。

「Don’t Look Any Further」——この曲の名前を聞いただけで、ヒップホップとR&Bの歴史に詳しいリスナーであれば必ずピンとくるはずだ。1984年4月にMotownのGordyレーベルからリリースされたこの曲は、元テンプテーションズのリードボーカリストDennis EdwardsとシンガーソングライターSiedah Garrettのデュエットで、全米のBlack Singlesチャートで2位を記録した。

この曲はもともとChaka Khanとのデュエットとして構想されていたが、スケジュールが合わず実現しなかった。代わりに起用されたのが、楽曲のデモボーカルを担当していたSiedah Garrettだった。Dennisは彼女のデモが十分なクオリティを持っていると判断し、そのまま正式にフィーチャリングボーカリストとしてクレジットした。このSiedah Garrettという名前は、後にQuincy JonesとMichael Jacksonの仕事でさらに大きく知られることになる。Garrettはその後Michael Jacksonと「I Just Can’t Stop Loving You」を共演し、さらにはJacksonの大ヒット曲「Man In The Mirror」を共作するなど、輝かしいキャリアを歩んでいく。


「Don’t Look Any Further」のベースラインとヒップホップの歴史

「Don’t Look Any Further」がここまで語られる理由は、その楽曲としての完成度のみならず、そのベースラインが生んだ計り知れない影響力にある。このベースラインをヒップホップで最初に大々的に使ったのは、1987年のEric B. & Rakimの「Paid in Full」だ。「Paid in Full」はヒップホップ史に残る金字塔であり、そのサンプルの使い方はプロデューサーたちに「この宝を使え」というメッセージを送ることになった。

それ以来「Don’t Look Any Further」は四十年近くにわたってヒップホップ、R&B、ポップの数十のトラックにサンプリングされ続け、Too $hortから2Pac、Mary J. BligeからMary Maryまで、あらゆるアーティストがこの楽曲の遺産を受け継いできた。2Pacの「Hit ‘Em Up」もまたこのサンプルを使用した著名な例であり、西海岸ヒップホップとの親和性の高さを証明している。

FoesumのプロデューサーであるI-Rocがこのサンプルを選んだことは、単なる音楽的な選択を超えた意味を持つ。ヒップホップの歴史において幾度となく掘り起こされてきたこのベースラインを、2002年のロングビーチの深夜に再び呼び起こすという行為——それはモータウンの遺産とG-Funkの精神を一本の線で繋ぐ試みでもある。


深夜だからこそ見える風景

「Late Night」のビートは重く、ゆっくりと沈み込むような質感を持っている。DJ Glazeが得意とするうねるシンセとスロービートの上に、「Don’t Look Any Further」のあの官能的なグルーヴが溶け込むことで、昼間には決して鳴らせない種類の音楽が生まれた。DJ Glazeのプロダクションはその魅力を、うねるベースライン、哀愁を帯びたシンセサイザー、そしてソウルフルなギターラインの融合に見出しており、「Late Night」においてそのすべての要素が深夜という時間帯のムードと完璧に一致している。

T-Dubb、MNMstaの二人がこの曲で語るのは、夜の街で生きることの現実だ。ストリートは昼間とは別の顔を見せる。仲間が誰で、敵が誰かも、夜が明ければまた変わるかもしれない。そういった不確かさと隣り合わせで生きることへの冷静な視線が、この曲の言葉の奥に流れている。


インディペンデントの意地

Foesumは一般的に低いプロファイルにもかかわらず、強力で充実したインディペンデントのディスコグラフィーを積み上げ、特に日本やヨーロッパで根強いファン層を持ちながらツアーとレコーディングを続けてきた。「Late Night」はそのインディペンデント精神を体現した一曲でもある。メジャーレーベルの後ろ盾なしに、モータウンの名曲のベースラインを使いこなし、ロングビーチの夜を描ききる——その誇りと覚悟がこの3分57秒に凝縮されている。

夜が深まるほどに、この曲は輝きを増す。ぜひ深夜に、音量を上げて聴いてみてほしい。ロングビーチの夜が、あなたの耳元まで届くはずだ。

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