LEX / 完璧だ — 鏡に映る自分に言い聞かせる、23歳の自己宣言

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はじめに:「完璧だ」と言い切れる人間は強い

「鏡をみて自分にこう言う 完璧だ」——この一行が、SNSを中心に爆発的に広まった。

TikTokで引用され、インスタのストーリーに貼られ、職場のデスクで口ずさまれる。これだけ多くの人が反応した理由はシンプルだ。自分のことを「完璧だ」と言える人間は、ほとんどいない。だからこそ、それを堂々と言い切るLEXの声に、みんな何かを感じた。

「完璧だ」はLEXが自身の状態が非常に良好な時に、過去の自分を振り返り、「完璧だ」と心から感じた気持ちを、飾らない言葉で表現した楽曲だ。SNSでは「鏡を見て自分にこう言う 完璧だ」というフレーズが、まるで魔法の言葉のように広まり、多くの人々に自己肯定感を与える曲として、瞬く間にバイラルヒットとなった。


作品の背景:7thアルバム『Original』の一曲

「完璧だ」は2025年11月26日にリリースされたニューアルバム「Original」の収録曲。ZOT on the WAVEがプロデュースしたトラックに乗っている。

作詞はLEX、作曲はLEX・ZOT on the WAVE・pctyo、編曲はZOT on the WAVEとpctyoが担当。

アルバムタイトル「Original」についてLEXは、「LEXというジャンルを確立させるためのアルバム」という意味でつけたという。このタイトルが示す通り、他の誰かと比べるのではなく、「自分というジャンル」で勝負する——「完璧だ」はそのアルバムの核心を一曲に凝縮したような作品だ。


LEXとは何者か:16歳でデビューした湘南の怪物

LEXは湘南エリア出身、2002年生まれのヒップホップアーティスト。天性のメロウボイスと、攻撃的な楽曲とのギャップ、感情むき出しのリリックがユース世代を中心に熱狂的な支持を得ている。14歳からSoundCloudに楽曲をアップロードしはじめ、2019年4月、16歳のときにファースト・アルバム「LEX DAY GAMES 4」で衝撃的なデビューを果たした。

2021年にはGQ Men Of The YearのBest Breakthrough Artistを受賞。2023年にはForbes JAPAN 30 UNDER 30にも選出されている。

その歩みは順風満帆に見えるが、内側は決してそうではなかった。ナイーブな性格でもあり、川崎で飛び降りの自殺未遂をしたことがあると語っている。また、実の父は生まれた時にはいなく、小学生の時に新しい父と暮らすようになったが、その父が次第に母に暴力を振るうようになった。DVなどで母親を悲しませた継父のことを許せなかったLEXは、あえてその父の名をラッパー名として使うことにした。

「LEX」という名前自体が、複雑な過去との向き合い方の産物だ。そういう背景を知ってからもう一度「完璧だ」を聴くと、この曲の意味が変わってくる。


歌詞の解剖:「完璧」の中身を分解する

冒頭のフック:現在地の確認

「横モデルのbaby セキュリティーヘンリー / 売り上げなら右肩上がり / 仕事こなし ラップも上手い / 鏡をみて自分にこう言う 完璧だ」

冒頭の4行で、今のLEXの状態が描かれる。モデル彼女、セキュリティ(警備員のあだ名を持つ仲間との関係)、上がり続ける売り上げ、仕事もラップも順調——全部揃ってる、だから「完璧だ」。

しかしここで注目したいのは、「完璧だ」と鏡に向かって言っているという点だ。誰かに向けた言葉ではなく、自分自身に言い聞かせている。これが重要な構造で、自己肯定とは他人の評価からではなく、自分の内側から生まれるものだという宣言がここに込められている。


2番:雑音との戦い

「地元じゃ噂話 ありもしない事を言う奴が多い / 昔親友だったとか名前知らない / あいつの親父は俺とか言う他人 / え誰?」

成功すれば必ず出てくるもの——根も葉もない噂、急に「俺と仲良かった」と言い出す人間、「あいつの父親は自分だ」と名乗り出る他人。これだけ具体的に並べられると、LEXが実際にこういった経験をしたのだと伝わる。「え誰?」という突き放しが、冷静かつ痛烈だ。

「真っ直ぐ好き 変なの嫌い / 簡単に俺に近づけない / 宗教的な俺のファンにhi / 鏡に映る自分に言う 完璧だ」

ここで「完璧だ」の意味がより深まる。外からどれだけノイズが来ても、自分の軸はぶれない——その強さを「完璧だ」という言葉で表現している。「宗教的な俺のファン」という一行も面白い。盲目的に崇拝するだけのファンに対しても、あっさりと「hi」とだけ言う。変な距離感を保ちながらも排除しない、LEXらしいドライさだ。


ラストバース:ルーティンに宿る美学

「朝起き水風呂 髪セットして完璧 / ボスと部屋で会議 ドンフリ飲み干し / 限られてるやつとしか話さない / 仲間とかわいいbaby それ以外呼んでない」

ここが個人的に最も好きなパートだ。水風呂、髪のセット、ボスとの会議、ドンペリ(ドンフリ)——具体的な日常の細部が積み重なることで、「完璧な日」の質感が伝わってくる。特に「限られてるやつとしか話さない / 仲間とかわいいbaby それ以外呼んでない」という部分は、「完璧」の条件のひとつに「誰と時間を過ごすか」があることを示している。環境を整えることが自己管理の一部だ、という考え方がここに滲んでいる。

「口だけか? かませよ yuh / 暴れろよ 暴れろよ 俺天才 yeh / 洗面所で 鏡に映る自分に言う / お前って 完璧だ」

最後に「洗面所で」という場所の指定が入るのが絶妙だ。武道館のステージでも、豪華なスタジオでもなく、洗面所。誰も見ていない一番プライベートな場所で、鏡に映る自分に「お前って完璧だ」と言う——この一行で、この曲がただの自慢ではなく、日々の自己肯定の儀式を描いた曲だと確定する。


「完璧」は結果ではなく、姿勢だ

LEXはこの曲を「みんなのもの」として捉えており、ファンが自分のことのように聞いて共感してほしいという願いを込めているという。

その意図は見事に機能している。「完璧だ」というフレーズがこれほど多くの人に受け取られた理由は、「LEXが完璧だという話」ではなく、「自分も完璧だと言っていい」という許可証のように機能したからだ。

売り上げが右肩上がりじゃなくても。モデルの彼女がいなくても。毎朝水風呂に入れなくても。鏡の前に立って「完璧だ」と言えるかどうか——それは自分の現在地を肯定できるかどうかの話だ。


まとめ:洗面所の鏡の前で、毎日唱えたい一曲

「完璧だ」は自己啓発ソングでも、成功者の自慢話でもない。

雑音が多くて、過去が複雑で、毎日がしんどい——そういう人間が洗面所の鏡の前に立って、自分に「お前って完璧だ」と言い聞かせる。その行為の繰り返しが、人を前に進めるのだとLEXは歌っている。

「LEXというジャンルを確立させる」という言葉通り、この曲は誰かの真似でも、流行りのサウンドの模倣でもない。LEXというアーティストにしか生まれえない、完璧に「Original」な一曲だ。

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