2024年4月3日にリリースされたGADOROのアルバム『TAKANABE』に収録された「自遊空間」は、日本語ヒップホップシーンを代表するプロデューサーチームBUZZER BEATSのメンバー、CHIVAがサウンドプロデュースを手がけた楽曲だ。疾走感あふれるビートの上で、GADOROが圧倒的なライミング技術を披露し、自身のスタイルと生き様を余すことなく表現している。
疾走感あふれるCHIVAのトラックメイク
CHIVA from BUZZER BEATSは、3人のトラックメイカーSHIGE、CHIVA、SHIMIで構成される音楽プロデューサーチーム「BUZZER BEATS」のメンバーだ。2003年に結成されたこのチームは、ZEEBRA、NITRO MICROPHONE UNDERGROUND、サイプレス上野とロベルト吉野、SHINGO☆西成、般若など、日本語ヒップホップシーンの第一線で活躍するアーティストのプロデュースを数多く手がけてきた。
CHIVAは、チームの中でもドープなアンダー色の強いトラックから、自らギター、ベース、コーラスなどもこなす最新ポップス・フォーマットに準じる音楽的な展開の多いトラックまで、その音楽性の振幅は広い。常に進化にこだわる攻撃的な姿勢と、マーケットに対する柔軟性という両極のバランス感覚で、数々のアーティストの信頼を培っている。
「自遊空間」で CHIVAが作り上げたトラックは、まさにそのスキルの集大成といえる。疾走感のあるビートがGADOROのフロウを完璧に支え、リスナーを一気に楽曲の世界へと引き込む。硬質でありながら心地よいグルーヴ感は、BUZZER BEATSならではのクオリティだ。
「自遊空間」というタイトルに込められた意味
「自遊空間」というタイトルは、一見すると「自由空間」という言葉を連想させる。しかし、あえて「遊」の字を使うことで、GADOROは自身の音楽に対する姿勢を表現している。それは、ルールに縛られない自由な表現であり、同時に音楽という遊び場で全力で戯れる姿勢でもある。
GADOROは1990年の誕生から現在に至るまでの軌跡を、この楽曲で振り返る。貧しかった過去、バトルMCとして頂点を極めた経験、そして音源制作に注力する現在。すべてが彼にとっての「自遊空間」なのだ。
与えられた環境ではなく、自分で切り開いた空間。そこで自由に、思うままに表現する。それこそがGADOROのスタイルであり、この楽曲のテーマでもある。
圧倒的なライミングスキルの披露
「自遊空間」の最大の魅力は、GADOROの圧倒的なライミングスキルにある。KOKを2連覇したバトルMCとしての技術を遺憾なく発揮し、韻を踏みまくる様は圧巻だ。
GADOROのライミングは、単に音を合わせるだけではない。意味のある言葉を選び、ストーリーを紡ぎながら、同時に完璧な韻を踏む。その技術の高さは、日本語ヒップホップシーンでもトップクラスだ。
疾走感のあるビートに乗せて、次から次へと繰り出されるライムの数々。リスナーは息つく暇もなく、GADOROのフロウに引き込まれていく。それはまさに、ライブ会場で目の前で繰り広げられるバトルを見ているかのようだ。
街裏ぴんく出演のユニークなMV
「自遊空間」のMVには、GADOROが敬愛する芸人・街裏ぴんくが出演している。MVの監督を務めたのは、「PINO」なども手掛けているISSEI。2代目GADOROを目指して街裏ぴんくが奮闘する様を描いた、ユーモアあふれる作品となっている。
GADOROとお笑いという組み合わせは意外に思えるかもしれないが、実は彼の楽曲には常にユーモアのセンスが感じられる。自虐的な表現や、シリアスな内容の中に挟まれる笑いの要素。それがGADOROのリリックの魅力の一つだ。
街裏ぴんくが真剣にGADOROを目指す姿は、コミカルでありながらどこか切ない。それは、夢を追いかける者すべてに共通する感情なのかもしれない。
Remixバージョンでさらなる進化
「自遊空間」は、2025年7月にリリースされたアルバム『HOME』において、FORK(ICE BAHN)、ポチョムキン(餓鬼レンジャー)、そして街裏ぴんくを客演に迎えたRemixバージョンが収録されている。
GADOROが「韻が硬くてユニークなラッパー」として敬愛するFORKとポチョムキンが加わることで、楽曲はさらに深みを増した。3者3様のスタイルで圧倒的なライミングをスピットし、街裏ぴんくも最後のフックを担当している。
Remixバージョンのミュージックビデオも、オリジナルを手がけたISSEI TERADAが担当。オリジナルのMVで街裏ぴんくが行っていたトレーニングを、参加者全員が行う様を描いている。ライマーたちのライダー姿も見どころの一つだ。
アルバム『TAKANABE』における位置づけ
「自遊空間」は、GADOROのアルバム『TAKANABE』の4曲目に収録されている。『TAKANABE』は、自身のレーベル「Four Mud Arrows」設立後2作目となるアルバムで、地元である宮崎県高鍋町の町名をそのままタイトルにした作品だ。
アルバムには、Awich、SHINGO★西成、SIMON、Zeebra、775、ハシシといった豪華なアーティストが客演として参加。サウンドプロデュースにはNAOtheLAIZA、DJ IZOH、TRILL DYNASTY、Kiwy、CHIVA from BUZZER BEATS、PENTAXX.B.F、ikipedia、S-NA、DJ RYU-Gが参加している。
このアルバムの中で「自遊空間」は、GADOROのラッパーとしての技術の高さを示す重要な楽曲だ。前曲「ハダシノボウケン」から続く疾走感を受け継ぎながら、次曲「カナデ」へとつながっていく。アルバム全体の流れの中で、「自遊空間」はアクセルを踏み込むような役割を果たしている。
GADOROの現在地を示す一曲
「自遊空間」は、2024年時点でのGADOROの現在地を示す楽曲でもある。バトルMCとして名を馳せ、音源制作に注力し、武道館でのワンマンを成功させた彼が、今なお進化を続けていることを証明している。
自身のレーベルを立ち上げ、地元の名を冠したアルバムをリリースし、全国ツアーを回る。GADOROの活動は、まさに「自遊空間」そのものだ。誰にも縛られず、自分の信じる道を進む。その姿勢が、この楽曲からは強く感じられる。
かつて家賃5000円の風呂なしアパートに住んでいた青年が、今では日本を代表するラッパーの一人として活躍している。その軌跡すべてが、彼にとっての「自遊空間」なのだろう。
BUZZER BEATSとの化学反応
GADOROとBUZZER BEATSの組み合わせは、日本語ヒップホップシーンにおいて重要な意味を持つ。2003年から活動を続けるベテランプロデューサーチームと、宮崎から這い上がってきたラッパー。一見すると接点がないようにも思えるが、両者には共通点がある。
それは、ヒップホップへの純粋な愛情と、妥協しない姿勢だ。BUZZER BEATSは、常にハイクオリティなビートを量産し、日本語ヒップホップシーンを支えてきた。GADOROもまた、等身大の自分を歌い続け、多くのファンの心を掴んできた。
「自遊空間」は、そんな両者が出会うことで生まれた化学反応の結果だ。CHIVAの作り出す疾走感あふれるトラックと、GADOROの圧倒的なライミング。この組み合わせは、日本語ヒップホップの新たな可能性を示している。
ライブでの盛り上がり
「自遊空間」は、ライブでも大きな盛り上がりを見せる楽曲だ。疾走感のあるビートは会場全体を揺らし、GADOROのフロウに観客は熱狂する。
2024年4月からのリリースツアーでも、この楽曲は重要な位置を占めた。長野、大阪、福岡、沖縄、千葉、北海道、岐阜、熊本と全国を回り、6月2日には地元宮崎でツアーファイナルを迎えた。各地で「自遊空間」が響き渡り、GADOROと観客が一体となった。
ライブ映像を見ると、GADOROがこの楽曲をいかに楽しんでいるかがわかる。自身の「自遊空間」であるステージ上で、彼は全力でラップを披露する。その姿こそが、この楽曲の本質を表している。
まとめ
GADORO「自遊空間」(Pro. CHIVA from BUZZER BEATS)は、圧倒的なライミングスキルと疾走感あふれるトラックが融合した名曲だ。日本語ヒップホップシーンを代表するプロデューサーチームBUZZER BEATSのCHIVAと、宮崎から全国へと羽ばたいたGADOROの化学反応が生み出した傑作である。
「自遊空間」というタイトルが示すように、この楽曲はGADOROの自由な表現の場だ。誰にも縛られず、自分のスタイルを貫く。その姿勢は、多くのリスナーに勇気と希望を与えている。
街裏ぴんく出演のユニークなMVも含めて、「自遊空間」は単なる楽曲の枠を超えた作品となっている。アルバム『TAKANABE』の中でも特に印象的なこの曲は、GADOROのラッパーとしての実力を存分に示すとともに、彼の人間性をも感じさせる。
自由に、そして全力で。GADOROの「自遊空間」は、今日も誰かの心に響いている。

 
  
  
  
  

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