DJ TATSUKI – What You Know About feat. BIG-T, T2K & D.O

JAPANESE

はじめに

2019年9月15日、DJ TATSUKIによって配信リリースされた「What You Know About feat. BIG-T, T2K & D.O」は、2013年に永眠した東京のヒップホップシーンが誇る伝説のラッパー・BIG-Tへの深いリスペクトと追悼の想いが込められた楽曲です。この曲は単なるリメイクを超えて、日本のヒップホップシーンにおける「絆」と「継承」の物語を描いた重要な作品となっています。

BIG-T – 東京ストリートヒップホップの伝説

プロフィール

本名: 不明
生年: 1983年
出身: 神奈川県小田原市
所属: LUCK-END、練マザファッカー
死没: 2013年1月9日(享年29歳、くも膜下出血)

BIG-Tは1983年に神奈川県で生まれ、渋谷を拠点に活動する大所帯クルー「LUCK-END(ラックエンド)」のメンバーとして、その圧倒的な存在感で幅広い世代から一目を置かれるTOKYO STREET HIP HOPシーンを代表するラッパーでした。

音楽への道

17歳でマイクを握り始めたBIG-Tは、その後すぐに本場ニューヨークへの武者修行を決意します。NY滞在期間中はDJ MUNARIと深い親交を持ち、若くしてリアルなヒップホップカルチャーにその身を置き生き抜いてきました。

そのライフスタイルから生み出されるリリックは、彼がラップするからこそ説得力があり、聴く者の心に刺さるものでした。また日本人とは思えないスモーキーな声に余裕のあるフロウは、NYでの生活が生んだ賜物でした。

活躍と影響

当時世間を圧巻した「練マザファッカー」のメンバーとしての活動、YOUNG HASTLEの「V NECK T-REMIX-」への客演、そしてSEEDAの名曲「TOKYO KIDS」への客演参加など、インディーズからメジャーなフィーチャリングワークスまでこなす一面もあり、今後の活躍が期待されていました。

しかし2013年1月9日、29歳の若さでくも膜下出血により帰らぬ人となりました。彼は「次のステージ」に進んでしまいましたが、今後のJAPANESE HIP HOPシーンの中で語り継がれる伝説的存在であることは間違いありません。

オリジナル曲「What You Know About」

BIG-Tのオリジナル楽曲「What You Know About」は、2008年にリリースされたLUCK-ENDの作品『High Grade Contents Vol.2』に収録されていました。この楽曲はBIG-Tの代表曲の一つとして、多くのファンに愛されていました。

プロデュースはDJ ATSUSHIが担当し、BIG-Tのスモーキーな声と余裕あるフロウが存分に発揮された楽曲でした。ストリートで生きる者のリアルな姿勢と、自分の道を貫く強い意志が表現されていました。

練マザファッカーという存在

練マザファッカーとは

練マザファッカーは、東京都練馬区を拠点に活動する日本のヒップホップグループです。元々は「練ザファッカー」というグループ名ではなく、練馬のマザファッカーを呼ぶスラングでした。

バラエティ番組『リンカーン』(TBSテレビ)にて、お笑い芸人の中川剛(中川家)を弟子入りさせラップの勉強をさせるという企画から発展し、リーダー格のD.Oの趣旨から「練マザファッカー名義で一枚やるのも面白いのではないか」とCD発売に至りました。

主要メンバー

D.O: リーダー格。KAMINARI-KAZOKU.のメンバーでもあり、練マの中心人物。大泉出身のオリジナル練マザファッカー。

T2K (a.k.a. Mr.Tee): 東京都大田区雑色出身。THE LOYALTYのリーダーを務め、D.OのサイドMCとして活動。2004年にオルガンバーでのフリースタイルで初めてマイクを握り、2005年からT2KとしてLIVE活動を開始。D.O経営のレーベルD.OFFICEに入社し、BOOTSTREET六本木stでCDを売りながらキャリアを積みました。

BIG-T: 神奈川県小田原市出身。LUCK-ENDのメンバーでもあり、練マザファッカーの中でも特に人気が高かったラッパー。

PIT GOb: 渋谷区松濤出身。1978年生まれ(昭和53年)で、D.Oのサイドとして全国を回りスキルを磨いた。

その他メンバー: JASHWON、DJ K-LOVE、bay4k(SCARS)、SHIZOO、D-ASK、B.D、SHY-P.O.P、DJ G-FRESH、壽(LUCK-END)など。

練馬出身でなくても、D.Oが認めればメンバーとなれるという柔軟なスタイルで、東京各地から才能が集まっていました。

DJ TATSUKIによるリメイク

DJ TATSUKIとは

DJ TATSUKIは東京を拠点に活動するDJ/プロデューサーです。Japanese HipHopを中心とした選曲で最先端の音楽を発信しています。

2022年にリリースした「TOKYO KIDS feat. IO & MonyHorse」と「TOKYO KIDS (Remix) feat. Zeebra & 般若」では、国民的歌姫・美空ひばりの楽曲「東京キッド(1950)」をサンプリングして大きな話題を集め、両楽曲共にiTunesヒップホップチャートで1位を記録しました。

DJ CHARI & DJ TATSUKI名義でも多くの楽曲をリリースとDJプレイを行っており、2003年からはZORNのライブDJとしても活動。横浜アリーナで開催されたZORNのワンマンライブ「汚名返上」ではオーケストラの一員としてバイオリン奏者としても出演し、自身の楽曲「NOISE feat. Benjazzy & Jin Dogg」にもバイオリンで参加しています。

2023年6月には自主レーベル「Chewing Gum and Dreams」を立ち上げ、EP「23」をリリース。自身初となるクラブツアー「DJ TATSUKI 23 CLUB TOUR」を開催しました。

リメイクの制作背景

2019年9月15日にリリースされた「What You Know About feat. BIG-T, T2K & D.O」は、BIG-Tの盟友であり、共に練マザファッカーとして活動してきたD.OとT2Kが客演で参加しています。

トラックは気鋭のプロデューサー・ZOT on the WAVEが手がけ、オリジナルのエッセンスを残しながらも、現代版へと昇華させた新しいビートとなっています。

ZOT on the WAVEのプロダクション

**ZOT on the WAVE(ゾット・オン・ザ・ウェーブ)**は、栃木県宇都宮市出身のヒップホッププロデューサー/ビートメイカーです。元々R&Bシンガーとして活動していましたが、2010年頃からビートメイクを開始。

2015年にKOWICHI、DJ TY-KOH、Young Hastleと共にFLY BOY RECORDSを設立し、オリジナルメンバーとして参加。KOWICHIの「BOY FRIEND #2」をはじめ、BAD HOP、¥ellow Bucks、Fuji Taitoなど数多くのラッパーに楽曲を提供し、日本のヒップホップシーンを代表するプロデューサーとなりました。

「Uhh wave farewell」という特徴的なプロデューサータグ(「お別れの時に手を振る動作」を意味する)で知られ、トレンドを押さえたバリエーション豊かなビートとそのキャッチーさにより、幅広いラッパー・リスナーから支持されています。

ZOT on the WAVEの制作したビートは、オリジナルのBIG-Tの世界観を尊重しながらも、2019年のトラップやモダンなヒップホップのサウンドを取り入れ、新旧の橋渡しをする役割を果たしています。

ミュージックビデオの意義

MVのディレクターは飛沫とTomoyuki Hiraharaが担当しました。この二人は、同年1月にリリースされたDJ TATSUKIの「Invisible Lights feat. Kvi Baba & ZORN」のMVも手がけており、DJ TATSUKIとの息の合ったコラボレーションが実現しています。

MVにはBIG-Tと親交の深かったアーティストが多数出演しており、BIG-Tが如何にリスペクトされているラッパーかが感じ取れる映像となっています。生前のBIG-Tの映像も織り交ぜられ、彼の存在感と影響力を改めて感じさせる内容になっています。

楽曲に込められたメッセージ

継承という意味

この楽曲の最も重要な意味は「継承」にあります。BIG-Tの盟友であるD.OとT2Kが参加することで、彼らはBIG-Tの遺志を継ぎ、その音楽を次の世代に伝える役割を担っています。

D.Oはリーダー格として練マザファッカーを牽引し続け、T2Kは若手ながらもD.OのサイドMCとして経験を積んできました。二人がこの曲で共演することは、BIG-Tへの追悼であると同時に、「俺たちはお前の意志を継いで進んでいくぞ」という決意表明でもあります。

「What You Know About」というタイトルの意味

「What You Know About」というタイトルは、「お前は何を知っているんだ?」という問いかけです。ストリートの現実、ヒップホップの本質、生きることの厳しさ――BIG-Tが経験してきた全てを問いかけるこのフレーズは、単なる挑発ではなく、自分自身への問いでもあります。

リメイク版では、この問いかけがBIG-Tから次の世代へと受け継がれています。「俺たちは何を知っているのか? BIG-Tから何を学んだのか? そしてそれをどう次に繋げていくのか?」――そんな自問自答が、この楽曲には込められているのです。

日本のヒップホップシーンにおける意義

追悼文化の継承

日本のヒップホップシーンでは、若くして亡くなったアーティストへの追悼曲が数多く制作されてきました。2018年に24歳で亡くなったFebb(FlahBackS)、2025年に35歳で亡くなったJJJ(FlahBackS)、2025年に35歳で亡くなったJJJ(Fla hBackS)、2025年に35歳で亡くなったJJJ(FlahBackS)など、才能あるラッパーたちの早すぎる死は、シーン全体に大きな衝撃を与えています。

BIG-Tもその一人であり、29歳という若さでの死は多くの人々に悲しみをもたらしました。しかし、彼の音楽は死後も生き続け、DJ TATSUKIのようなアーティストによって新たな形で蘇っています。

クルーとしての絆

練マザファッカーというクルーの絆の強さも、この楽曲から感じ取れます。メンバーの一人が亡くなっても、残されたメンバーたちは彼の意志を継ぎ、音楽を作り続けています。

D.Oは2009年と2018年に大麻取締法違反で逮捕されるなど、決して平坦な道のりではありませんでしたが、それでも音楽への情熱を失わず、BIG-Tの楽曲のリメイクに参加しています。T2Kもまた、D.OのサイドMCとして、そして自身のクルーTHE LOYALTYのリーダーとして、着実にキャリアを積み重ねています。

DJとしての役割

DJ TATSUKIがこの楽曲をリメイクした意義も大きいです。DJは単にビートを繋ぐだけでなく、シーンの歴史を継承し、過去と現在を結びつける役割を担っています。

美空ひばりの「東京キッド」をサンプリングして大ヒットを飛ばしたDJ TATSUKIだからこそ、BIG-Tという「東京ストリートの伝説」を現代に蘇らせることができたのです。

リリース後の反響

「What You Know About feat. BIG-T, T2K & D.O」は、リリース直後から大きな反響を呼びました。iTunes StoreのHip-Hop/Rapチャートでは74位、Apple MusicのHip-Hop/Rapトップソングでは97位にランクインし、多くのリスナーに聴かれました。

SNS上では、「D.Oやっぱり半端ないな」「BIG-Tを知らない世代にも聴いてほしい」「これぞ本物のリスペクト」といった声が多数寄せられました。

特に印象的だったのは、BIG-Tと同世代のラッパーやファンからの反応です。彼らにとって、この楽曲は単なる追悼曲ではなく、共に過ごした時代への郷愁と、失われた仲間への想いを呼び起こすものでした。

おわりに – 音楽は永遠に

DJ TATSUKI「What You Know About feat. BIG-T, T2K & D.O」は、2013年に永眠したBIG-Tへの深い追悼と、彼の音楽を次の世代に継承するという強い意志が込められた楽曲です。

ZOT on the WAVEによる現代的なプロダクション、D.OとT2Kという盟友たちの参加、そしてDJ TATSUKIのキュレーション。これら全てが組み合わさることで、BIG-Tの魂は2019年という新たな時代に蘇りました。

人は死んでも、音楽は永遠に生き続けます。BIG-Tが残した楽曲、彼の生き様、そして彼が体現したストリートの精神は、この楽曲を通じて次の世代へと確実に受け継がれています。

「What You Know About」――この問いかけは、今も多くの人々の心に響き続けています。BIG-Tが知っていたこと、経験したこと、そして伝えようとしたこと。それを知り、理解し、次に繋げていくことこそが、彼への最大の追悼なのかもしれません。

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