はじめに
2018年12月26日、Mall Boyzの1st EP『Mall Tape』がリリースされ、その4曲目に収録された「Cool running feat. SEEDA」は、新世代と伝説のラッパーが交わる歴史的な楽曲となりました。Tohjiとgummyboyという若き才能と、日本のヒップホップシーンを代表するSEEDAのコラボレーションは、世代を超えた音楽の力を証明する作品として注目を集めています。
Mall Boyzとは
Mall Boyzは、Tohjiとgummyboyを中心に、プロデューサーのsteiとアートディレクターのSahashiを含めた4人組のグループです。彼らの最大の特徴は、従来のヒップホップが重視してきた「フッド(地元)」という概念を持たず、ショッピングモールをルーツとする新しい時代のクルーであるという点です。
Tohji – ロンドン生まれの異端児
Tohjiは1996年ロンドン生まれ、東京・横浜育ちのラッパーです。中学・高校は名門麻布学園に通っていましたが、高校3年生で退学し、その後2015年に武蔵野美術大学に入学しています。独特なファッションセンスと、既成概念にとらわれない音楽性で注目を集め、2018年3月にリリースしたEP『9.97』がジワジワと話題を呼びました。
gummyboy – 内向的な天才
gummyboyは、小さい頃から人見知りで、基本的に他人全員好きじゃないという性格でした。武蔵野美術大学に進学した際にTohjiと出会い、ラップを勧められて始めました。最初は本名のアキラとして活動していましたが、グミが大好きだったことからgummyboyとして活動することを決めました。
SEEDA – 日本語ラップ界のレジェンド
SEEDA(1980年11月17日生まれ)は、東京都出身のヒップホップMCで、3歳から小学5年までイギリス・ロンドンで育ちました。バイリンガルラップの先駆者として、日本語と英語を織り交ぜたスタイルで注目を集めました。
2003年には神奈川県川崎を拠点とするヒップホップグループSCARSに加入し、日本のハスリングラップの最前線で活躍してきました。2020年には自身の半生を描いた映画「花と雨」が公開され、さらに2017年からはインタビューメディア「ニートtokyo」を主宰するなど、シーンの重鎮として若手の育成にも力を注いでいます。
「Cool running」誕生の経緯
この楽曲が誕生したエピソードは非常に興味深いものです。アートディレクターのSahashiがニートtokyoのカメラマンもやっていたつながりで、SEEDAが彼らのヤサ(住居兼スタジオ)に遊びに来ていました。そこでgummyboyがMall Boyz用にトラックを探して流していたところ、SEEDAが「やってみる?」という流れになり、ノリ強めで、みんなで遊びながら録った感じだったそうです。
計画されたコラボレーションではなく、その場のノリと化学反応から生まれた楽曲——それが「Cool running」の本質です。
アルバム『Mall Tape』のコンセプト
『Mall Tape』は、出身の異なるフッドを持たない者たちが唯一共有している原風景であるショッピングモールを描ききった作品です。gummyboyは「モールに行く途中に、車で聴く音楽」とテーマを語っています。
全4曲という短いEPながら、「Higher」「fuck it up」「mallin’」「Cool running feat. SEEDA」が収録され、それぞれが異なる魅力を持っています。中でも「Cool running」は、SEEDAという重鎮を迎えたことで、作品に深みと重厚感をもたらしています。
世代を超えた化学反応
「Cool running」の魅力は、1980年生まれのSEEDAと、1996年生まれのTohjiという16歳の年齢差を感じさせない自然な共演にあります。TohjiもgummyboyもSEEDAと同じくロンドンでの生活経験があり、バイリンガルな背景を持つという共通点が、世代を超えた共鳴を生み出しました。
ドライブの最中に口をついて生まれたようなフロー、彼らを取り巻いてきた環境やルーツに基づいた歌詞、それらが煌びやかでヘビーなトラックと融合し聴く人の景色を加速させる——この楽曲はまさにそんな作品です。
「Higher」との対比
『Mall Tape』では「Higher」が爆発的な人気を獲得し、Mall Boyzの名を一気に広めました。しかし「Cool running」は、SEEDAの参加により、より成熟した雰囲気を持つ楽曲となっています。若さと経験、新しさと伝統——これらが交わる瞬間を捉えた貴重な記録です。
ショッピングモールという原風景
従来の日本語ラップは「地元の街区」を重視し、新宿、川崎、横浜など、具体的な地名を背負って活動するラッパーが多数を占めていました。しかしMall Boyzは、そうした伝統的な枠組みから自由です。
彼らにとっての共通体験は、ショッピングモール。郊外の巨大な商業施設で過ごした時間、車で移動する日常、特定の地域に縛られない若者たちのリアル——「Cool running」はそんな現代の若者の感覚を体現した楽曲なのです。
SEEDAの寛容さ
ベテランラッパーが若手と気軽にコラボレーションすることは、実は簡単なことではありません。しかしSEEDAは、「ニートtokyo」の主宰を通じて常に若手と接し、シーンの発展に貢献してきました。その姿勢が、この「遊びながら録った」という自然なセッションを可能にしたのです。
その後の展開
『Mall Tape』はApple Musicの「J-Hip-Hop Workout」やSpotifyの「The Sound of J-Rap」など、各種プレイリストに選出され、Mall Boyzの知名度を大きく高めました。Tohjiとgummyboyはその後も精力的に活動を続け、日本のヒップホップシーンにおいて独自の地位を確立しています。
まとめ
Mall Boyz「Cool running feat. SEEDA」は、計算されたコラボレーションではなく、その場のノリと化学反応から生まれた奇跡的な楽曲です。ショッピングモールという新しい原風景、世代を超えた共鳴、そして遊び心——これらすべてが詰まった2分15秒は、2018年の日本のヒップホップシーンにおける重要な一曲として記憶されるべきでしょう。
田園風景広がる東京の外れ、彼らの住む半屋外のヤサで彼ら自身の手で生み出されたアートワーク、ミュージックビデオ、そして楽曲を乗せて彼らは走り出しました。その走り出しに、SEEDAという伝説が並走した——それが「Cool running」という楽曲の本質なのです。
楽曲情報
- タイトル: Cool running (feat. Tohji, gummyboy & SEEDA)
- アーティスト: Mall Boyz
- フィーチャリング: SEEDA
- 収録EP: Mall Tape (feat. Tohji & gummyboy)
- リリース日: 2018年12月26日
- 時間: 2分15秒
- A&R: stei / Karry / yamechinato
- Mixing & Mastering: gahn



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